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ザンと使者

「赤く禍々しいこの文様、あれと同じだ。

今も記憶に刻んでいるアレと。

無理を言ってすまなかった、ありがとう」


ザンは肘に再び装具を嵌め、ガチャリとロックした。



「『デュエラノ』という男の手配が消えた。

ゴザでの赤い魔法陣を使うドラゴン討伐。

私からこれ以上は言うまい。

マスター、どうなんです?」


マスターとは確かギルド長のことだ。



「他言無用で頼む。

彼ら、ザン君の仕事だ。全てだ」


「そうですか。ありがとうございます、マスター。

その呪方陣は良く知っている。大事な友の腕と足にもあった。

・・・なぜ肘を残してその先を切り落としたか分かるか?」


「いえ、・・・苦しめと言っていましたが」



「そうだ。その通りだ。

ヤツらは自分の嗜虐性を満たすためだけにこれをやる。

特に弱い相手に。


肘を残すのは、本人に見えるようにするためだ」




沈黙が流れた。


ギルド長がそれを断ち切る。

「本題の、試験についての話を頼む」



「じゃあ、いちおう魔法師担当ということで私から」

確かエリルさんか、初めて話に加わった。


「一番予想外だったのはルナノさんね。

正直、治癒と補助程度の存在だと思っていたから。

あの速度と大きさの魔法をあの数撃てるのは全然予想外だった。

しかも無詠唱で。

準備不足だった、ごめんなさい」



「イジワ君だが、恐らくザン君と『縛り』を設けて訓練してるんじゃないか?

まあ、訓練相手があれだけ動けるんじゃ仕方ないのかもな。

あれだけの剣速と持久力、俺の相手としては充分過ぎた」



「で、ザン君のあれは“縮地”の(たぐい)では無いな?」


「いや、脚力によるものにも見えたがその後の動きが不思議だ」


「浮遊魔法の類じゃないかと思ったけど」



ギルド長が思わずさえぎる。


「まあまあ、個人の能力に関しては見たまま解釈すべきだ。

興奮するのは分かるが、守るべきことは・・・」


皆、口々に謝った。

個人の能力について詮索するのはルール違反だ。




ジェギさんが改めて所見を述べる。


「負けでいいと言ったのは、本当にあのまま続けるのが嫌だったからだ。

もっとも、いつものように観客がいたら意地で続けて疲労しきっただろう。

ああなることを見越しておられたのか。


正直言って助かった」


助かったとは、・・・ザンは勝てないと思ったが。



最後は、昇格のキーとなったウインドさんだ。


「たいしたことないと言ったのは素直な感想だ。

本来なら一番死にやすいお年頃だ、強さ的に。

例のドラゴンの件は聞くまでもなかった。

才能と、運と、あと何か。


パズルのピースがハマったって思ったな。

最高だったろ?」



ここでもジグソーパズルのようなものがあるのか?


全員不思議そうな顔だ。

「ウインド君の言うことはたまに分からん事があるな」

ギルド長が言う。


うん?ウインドさんの知識はもしかしたら・・・。




「納得できません」

いきなり言ったのはイジワだ。度胸がある。


「私達がAランクとして認められた理由に、『弱いから』というものがありました。

確かに、今日の試験でAランク相当と認められたのは嬉しいです。

死ぬ確率が低く、それでもやっていけるからだと理解はしました。

まだ『弱い』冒険者を、強い魔物に当たらせ強くしようという・・・。


なぜ急ぐ必要があるのですか?」



恐らくイジワは『まだ弱い』者を一気にAランクに上げる理由を最初は聞こうとしたはず。


強くするために必要なのだとザンはすぐに納得したが、イジワは質問しながら自分で気づいたのだと思う。



確かに形式通りBランクにしておけば体面が保てる。

そして改めてAランク昇進させれば済むことだ。


『弱い』というのは地力の評価だ。


強い魔物と戦える者を飼い殺しにしない英断だが、特例ともいえる昇進を行う、強いパーティーを育てなければならない理由は?

確かに疑問だ。




「おい」

ウインドさんだ。いきなりだ。


「俺の名前の意味が分かるか?」

主にザンに聞いているようだ。


「窓、ですか?」

「もっと勉強するべきだったな・・・それはウインドウ・・・まあいいか」


ほかの全員は訳がわからない。

ザンはその様子を見て確信した。


「来い。他の者には後で話せ」





端っこの窓際。


カーテンを閉めて座ったが、日差しを受けた椅子がまだ熱い。



「ニホンから来たか?

闘技場で見た。

私は相手の“レベル”や大まかな記憶が見える。

相手を真に見極めるには必要な力だ。

済まない、勝手に見て」


「・・・・・・」

ウインドさんの喋り方がガラリと変わっている。



「注意深いのはいいことだ。

“レベル”の知識は禁則事項だな、まずこれが第一の証拠だ。


『デュエラノ』や他の悪魔教手配者を暴いたのは私だ。

ギルドマスターに聞けば分かる。


私は“あの空間”、転移されるまでの中間地点で部下と呼ばれるお方と一緒に、前の世界の真の姿を調べまくった。

ニホンについては驚きの連続だった」



「あなたはどこの国から?」


「スウェーデンだ。

とりあえず、総当たりで適格者を探したらしい。

孤独で、現世にこだわらず、多少正直だった程度だが。

で、ニホンだ」


「ネットでニホンを褒めまくるのでも見ましたか?」



「あははは。

まず、全員ではないというの分かりきっているが断っておく。

ニホンでは儀式にこだわる、周囲に影響されて染まる、ここはダメだ。

だが、約束を守りそれを最後までやり通す、これがどれほど凄いことか分かるかい?」


「まあ、約束を守るというのは実感がありますが」


「本人たちには分からないか。

当たり前なのだからな・・・」



「あとは、第二次大戦で最も世界に貢献しようとしたのはニホンだ。

多少足並みは乱れたし、他国にハメられての参戦だが」


「歴史が違います。違う世界から来たとか?」


「同じ世界だよ。

まあいい、嘘を言っても仕方ないということだけはわかってほしい。

女神様にとっても、この世界の運命の鍵となる作業だ。

事実だけを徹底的に集めた」



「だから『その時』が来れば、2人以上の適格者であるニホン人を集めようと。

いつここに来た?」


最初は罠の可能性も考え慎重だったが、いつの間に受け入れていた。

「2ヶ月未満、でしょうか」


「何人で?」

「女性と2人、別の所に居るはずです」


「やはりな。やっとか・・・」



彼は、それ以外の情報、ザンが夢で見た情報も自身の夢で教えられていた。


「時間は限られている」

最後に彼が言った言葉だ。

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