ザン、初めてのお買い物
なんで魔法?
斬りの魔法ということか?
いや、はっきり物理だけって言ってたし。
それより潰されかけて無傷なのは凄いかも。
「まさかはぐれオークが出てくるとは・・・お前がいなきゃ全滅だったかも。助かった」
「こんな周辺部でオークって。で、全員無傷。
運がいいやら悪いやら」
といいつつルナノはにやけている、イジワも。
これから僕を襲う手はず、の訳は無いな。
ホクホクなのである。
もう帰るのである。
~~~~~~
オークを倒した直後。
早速、イジワは肉の解体、ルナノは魔石の回収を始めた。
ゴブリンに備え、僕は周囲の警戒と見学。
勿論彼らも作業しながら注意は欠かさない。
でかいゴリラのようなオークの解体は、僕には刺激が強かった。
頭蓋骨を砕いたあと、ルナノが後頭部からナイフを差し込み、手で探り魔石を探している。
イジワは両腕を切断し・・・やめとこう、あまり思い出したくない。
オークは結構強いらしい。
初心者、Fランクである2人にとっては、ギルド依頼のパーティー混成で奥地に踏み込まなければ普通は目にしない魔物である。
C・Dランク程度でなければ逃走必須、うまく罠でも設置しない限りは。
ギルドは S、A、B、C、D、E、F とランクされ、彼らは結成3ヶ月の自称腐れ縁パーティーらしい。
最低ランクFは有象無象で誰でもなれる、これだけ早くゴブリン狩りに出るものは少ない、とイジワは自慢げに語った。
その他もこの間に聞けることは聞いた。
通貨単位はジョネン、金貨一枚1000ジョネン、大銀貨100、銀貨10、銅貨1。
大銀貨2~3枚で普通の宿屋に泊まれるそう。
物価などは参考程度にしかならないが、大銀貨で1000円程度か?
10倍すればいいのかな。
てか、普通というのが分からん。
金貨は普通のものから、王国発行のなんちゃら金貨とか数種あって価値が違う(バカ高い物がある)ので注意が必要なようだ。
女神様の持たせてくれたお金なら・・・いや、期待はするまい。
地理は・・・聞こうと思い、やめた。
まだ彼らやこの地の人々について全く情報がない。
下手に周辺地域や国を聞いて、どっち方面からと答えた地域が敵対国だったりとかしたら。
出会った直後の話に加えて、恥ずかしい程の田舎者だから勘弁、という感じでしばらくは通そう。
~~~~~~
袋にそれぞれ持てるだけのオーク肉を抱えてギルドに到着。
木造2階建て、こちらの基準がまだ分からないが、現代風に言えばしっかりした町内の公民館くらい、市の公民館よりは相当狭いという感じか。
入って数メートルに受付カウンター。その後ろは諸手続きのための場所か。
右半分以上は軽食・喫茶に見える。
時間がかなり早いのか、何か飲んでいるらしい2人しか冒険者はいない。
魔石と肉の買い取り、僕の冒険者登録だけ済ませば終わり。
オークは崖から落ちたところをボコったら上手いこと倒せた、等と誤魔化していたが特に追求はされなかったようだ。
勿論切断面が分からぬように下手くそに解体済。
魔石3000、肉1500ジョネン也。
分配は、3000以上くれるつもりだったようだが断った。
ふたりがいなければ森で迷っていたのだから、と言うと渋々受け取ってくれた。3分配、1500ジョネンだ。
問題というべきか・・・それは冒険者登録で起きた。
まあまあ若いまあまあ美人、胸も普通の健康な受付のお姉さん。
うん、健康そうだ。
書類に記入・・・うん、何をどこに書くのか分からん。
まず、読めない。
話だけは通じるのに。そのうち覚えよう。
受付で口述できるそうだが、ルナノに書いてもらう。
学校に通ったいいとこのお嬢さんなのか、ここでは普通なのか。
いちいち考えているとめんどいのでやめよう。
誕生日はそのままでいいのだが、こちらの暦や月や年の呼び名など、直接だとトラブルの元だ。
手近なテーブルを使わせてもらう。
「年齢は?」
「34です。」
「・・・・・ヒト族じゃなかったりする?」
「人間です。ヒト族というか、多分2人と同じはず」
「早く済ませましょうね、もう。
いくちゅでちゅか?」
これはもしかして・・・。あれか!
「ルナノさんごめん、いくつに見えます?
これはふざけてるんじゃなくて・・・色々あって記憶とかが。
後で言います」
兎に角この場を切り抜けなければ。
「わたしより少し下でしょうね。13くらい?」
「じゃあ13です」
ほんとにもう、とかブツブツ言いながら記入している。
本当に受付嬢じゃなくてよかった。
僕も鈍すぎ、めっちゃ若返ってるのに。
そんなに若くなって気づかないとかあるの?と聞かれれば、そうですと言うしかない。
15歳くらいの2人と同じくらいの身長、改めて注意すれば気づくが、体型は変わっていない。
そういやコケたのは、体に慣れなかったからか。
誕生日は年齢更新に必要。
これは逆算した年の自分の誕生日そのままで無問題だった。
得意技・特技は剣(自己流)にした。ルナノにまた睨まれたがひるまず、それで通した。
女神様、信じますよ!
めでたくFランク冒険者になりました。
2人にはそのあと色んな言い訳で面倒だったけど、得意のいいかげんスキルで誤魔化した。
本当にわたしったら誤魔化すのだけはうまいんですのよ。
おほほほ・・・。
「じゃあ武器・・・剣買うの?」
「本当に剣士なのか・・・?」
どうせ剣のことはバレる。極めて適当だが、恐らく正解であろう答えを言っておこう。
「あれは魔法ではなく、剣に纏う技というか。
ついつい無意識に使ってしまったようです」
驚愕、というより疑い99%の2人のまなざし。
既に武器屋前。
1人で入店する、他に客はいない。
理由があって2人には待っていてもらう。
変な三角錐に似た形状のでかい金貨五枚。期待はしないが・・・。
高価であればこれからの不安要素にもなりかねない。
2人を信用しないわけではないが、注意するに越したことはない、ごめんよ。
「剣を見せてください」
「おう、予算は?」
「これでは?」
変な金貨を1枚(1個)見せる。
「安物なら買えるが、厳しいな」
やはり、女神さん~・・・。
「では、5枚なら?」
「剣だけなら在庫ならよりどりみどりだな。鎧はいいのか?」
女神様すみませんでした!一生ついていきます!
「えーっと、まず選びます」
「片手剣か・・・いや盾持ちでもなさそうだし、うーん」
「ちょっと待ってください。仲間呼びます」
入口を少し開けて手招きすると2人が入ってきた。
まず必要なことは・・・持っている金貨の価値を確認。
1枚見せる。
「これってどのくらい?」
「公式ツカサ金貨! 本物なら10万ジョネンくらいか・・・」
女神様、に感謝したいがこれは大変だ。どうしよう。
心の中でセリフが棒読みだ。
ほぼ純金で、1枚と言うより1個の塊だ、なるほど。
結局、店主いわく安物らしい片手剣購入。
購入ポイントは自分に使える軽さ、それからお釣りを貰えて、当面の宿泊費や諸々の支払いに使えるかどうか。
実は、武器屋というのはよほどインチキな店を除き、相当高価なものを扱うため釣り銭は用意してあるそうだ。
殆どの店主は冒険者上がり。
もし無法者が強盗にでも入れば冒険者ギルド及び商人ギルドなどから捜査、懸賞金付きで追い詰められる。
それぞれの商品に固有シリアルナンバーまで入っている。
ツカサ金貨を一発で本物と見抜くスキルも凄い。
いちいち驚くことが多い。
来た甲斐があったかもしれない・・・と、観光じゃないし。
購入価格は5万ジョネン、両替完了。
イジワとルナノの勧めでギルドに戻り、残りツカサ金貨を預金。
受付のお姉さんもビックリだ。
これからもこの2人に何でも教わっておくべきだな。
宿への道すがら、パーティーを組む話がどちらからともなくまとまった。
今夜ゆっくり休んで、明日には試し切り・能力確認本番。
期待してます、女神様!
気持ちいいとこまで話を進めてユウ編に切り替える予定です。
題名で「ザン編」「ユウ編」分かるようにしますね。