ザンと真剣な学芸会
必要な荷物は・・・多分揃ったと思う。
不安なのは、ザン達3人は野営の経験が無いという事。
いざとなれば足りない物もありそうだが、買い足せば良い。
魔法袋の空きは充分だ。
馬車はギルドが用意するが、急遽だったため旅客用の馬車を借り切る形だ。
目的地は壁の都市ドーラ。
ゴザから東南へ移動するが、地理としては大まかには似たようなものだ。
過去に数回のスタンピード(魔物暴走)を受け壊滅しているが、100年程前に巨大な壁と多数の砲台を設け、対魔物拠点となった町だ。
ゴザとはっきり違うのは、あちらが通常レベルの緩衝地帯。
こちらは数十年に1度必ず大規模な魔物暴走を受け、ここで止められなければ魔物はそのまま南進・拡散し、国家規模、大陸規模の被害をもたらすということ。
この北には非常に魔素の濃い地域があり、暴走が起きなくとも変異した強い魔物が発見され、討伐依頼が出される。
よって、ここにはAランク冒険者が常駐する。
壁は森から離れてはいるが、薬草採取やゴブリンで生計を立てる物も多少いる。
彼らによって通常の通商などは守られている。
元々は対魔物防衛拠点に過ぎなかったこの都市も、かなりの発展を遂げた。
最初は堅牢なギルドや訓練場、闘技場などだけが物々しかったが、歳月を経て東西の通商中継基地ともなったからだ。
途中の町で1泊、なんで野営の道具を必死で揃えたんだっけ。
翌日の日暮れ前には3人は目的地ドーラのギルドにいた。
イジワを先頭に普通に受付へ。
金髪の綺麗な女性だ。胸は目立たないが、そういう服を着ているっぽい。
ああ、新婚で何を考えて、とザンは反省する。
引き継ぎ案内してくれるのは、小綺麗で背の小さな女性、エルフか、耳が大きい。
そんなに尖ってはいない、別の種族かも。
「リュリュです。まずはギルド長からお話します」
ギルド長は、ムダラと言う。
対“悪魔教”の中心と言える人物だと聞いている。
普通にコワモテで、まだ老齢ではない。
現役で冒険者をやっていそうだ。
「壁の都市ドーラへようこそ。
有望な新人が出てきて嬉しい限りだ、特にザン君については楽しみにしていたよ。
試験の準備は魔闘技場のセッテイングのみで、明日の朝のうちに済む。
試験官が1人だけ少々心配だが、来なくてもいずれにしろ予定通りに行う」
紹介された宿には風呂があり、当然食事も当たりであった。
食事はいつもどおり部屋で。
先に2人を風呂に行かせ、その後でザンはルナノに体を拭いてもらう。
アソコを念入りに拭いてくれたので興奮したが、我慢した・・・。
当然だがアソコだけ拭いたわけではないので念の為。
翌朝はまずギルドへ。
ギルド長に会い、エルフっぽい女性リュリュを伴って闘技場控室へ。
控室と聞いて、何もない部屋かと思ったが『控えラウンジ』と言うべきかも。
カウンターがあって飲み物など飲んでいる人もいる。
よく知らないが、ゴルフのクラブハウスがこんな感じかも。
テーブルに3人組が座っている。
紹介されたのは試験官兼対戦相手であるAランクパーティー“魔断の風”のメンバーだ。
ギルド長が紹介する。
「“魔断の風”、剣士のジェギとモスコ、魔法師のエリルだ。
ウインドは・・・やはりまだか。まあ、裁定に間に合えばいいか」
オレ達の事は既に書類審査済みらしく、紹介無し。
「ザン君は、君か」
ジェギさんが声をかけてきた。
「はい」
怪しげなローブ姿に不思議そうにしていたが、思ったらしいことをそのまま聞いてきた。
「そのままで試験は受けるのかい?」
「いえ、本番ではローブは脱ぎますので」
「ほう」
何を想像したのか分からない、特殊な武器でも想像したのかもしれない。
警戒されているという事か。
なにしろ試験であっても真剣(木剣だが)勝負だ。
負けるわけには行かないのだろう。
現役Aランクの恐らくエースに勝てるとは思っていないが。
だが、本気中の本気で行く。
勝つつもりで行くべきだ。
リュリュさんが予定通りに案内してくれる。
「じゃあ、魔法の方の準備できていますから魔闘技場に行きましょう」
石でできたダンジョンみたいな廊下をしばらく歩くと、開けた場所へ。
中央に行くと、雛壇みたいな物が石で積まれていた。
「では魔法師のルナノさんこちらへ」
ルナノが雛壇の前へ。
「あそこから的が出るので、手当たりしだいに魔法を撃って当ててください。ファイヤーアローのみでお願いします。
はじめっ!」
雛壇から棒のついた板が出てくる。オークっぽい絵が書いてある・・・。
「やっやっややっや!」
板が全て粉微塵・・・いや消し炭にされていく。
リュリュさんが何か慌てている。
「ちょっとストップ!
えーと、えーと、そうだ、正確性を見るために頭だけ狙ってもらえますか」
「はい」
「はじめ!」
次々に的の頭部が吹き飛ぶ。
的の下辺りからバシャバシャと水の音が聞こえた、気がした。
・・・・・
まだ終わっていないはずだが
・・・あっ、出てきた。
頭のないオークの板だ。
一瞬ルナノが躊躇したかは分からないが、今度は次々心臓が撃ち抜かれていく。
バシャバシャと水の音が聞こえ、端っこから手が見えた。
「おわりです!」
多分全部で30発くらいだったか。
学芸会みたいな微妙さはあったが、多分魔力やスピード、正確性なんかが試されたんだろう・・・。
白髪で長髪の冒険者?が突然近づいてくる。
「おっと、魔法は見損なったか。まあどうせ分かんねえが」
「ウインドさん、良かった、今日中に間に合って」
「今日の受験者はこいつらか」
オレ達3人の顔を順番に見て、言った。
「全然たいしたことねぇな、最高だな」