ユウ、高速回避される
ユウの目は隣のテーブルにいる男の顔に釘付けになった。
この世界では珍しい茶髪。
典型的な男前・・・ではない。
少し気の弱そうな、太ってはいないが少し丸顔。茶色の太い眉毛が凛々しい。
こんな人に抱かれたいと思った。
「どうしたの?」
リリアも同じ方を見た。
ガチャン
ファークが落ち、男の方に滑っていった。
(計算通り!)
ユウはバッと立ち上がり一瞬間を置く。
男は床に手を伸ばし、フォークを拾う・・・ユウが同時に手を伸ばす。
一瞬指が触れたが、男性の手とフォークが消えた。
?
男はフォークを持って立っていた。
「君はなにもの?」
同席の女性が訝しげな表情をして言う。
「変なのが見えた?」
「いや、むしろ見えない」
あちらの席にはもう1人居る、ロビンフッドみたいないかにも弓使いのエルフ、というか耳の大きい人。
女性の方は魔杖を膝に置いている。
「何か、失礼な避け方ですみません、敏感なもので」
男はフォークの端っこをつまむように渡してきた。
すみませんはこっちだ。
わざとフォークを投げ落とし、手を握ろうとしたのだから。
ユウが礼を言いフォークを掴むと、やはり目に見えない速度で彼は手を引っ込めた。
わけのわからない会話にわけのわからない動き。
彼らはとっとと会計を済ませ帰っていった。
リリアは特に口も出さず放っておいてくれた。
「あの方々、強いですよ。
今度の依頼で一緒になったりして」
本当にそうなってくれれば嬉しいが。
再びフードを被る。
通りへ出ると、宿屋とは逆の方に人だかりができていた。
リリアは知っているようで、行ってみようかと誘ってくれた。
人だかりは結構冒険者らしき人が多い。
冒険者も一般の労働者も仕事を終えて帰り始める時間だ。
舞台があった。
商店等の邪魔にならないよう、公園の前だ。
一見インドやネパールの民族衣装にような、よくは知らないが。
上半身はビキニで露出は多い。
その少女が舞台上でくるんくるんと体操選手のように回転している。
違うのは、手足を揃えず伸ばさず、歩くように、一歩一歩が回転と言うような滑らかさだ。
今度は後方に跳ぶが、くるりんくるりんと猫のようにしなやかだ。
3回転したのに相当ゆっくりで、浮いているようにさえ思えた。
おおー、と誰からも歓声が上がる。
ゴーンと音が鳴って――向こう側に馬車が並んでいて控室になっているよう――5人の少年が舞台へ。
2人は槍、残り3人は弓のように反った剣を持っている。
勿論どれも木剣であるが。
少女も腰から木剣を抜く。
全然気づかなかったがあんなのを付けたまま跳んでいたとは。
槍の2人が一気に突進する。
嘘。連続で突くが、速すぎてほぼ見えない・・・。
少女はすべて避けている。
これって、武術の演武とかじゃないよね。
ニュースとかで、そういうのを見た覚えがあるが、あれは練習した型どおりにやるやつだと思う。
わざと避けるのを見せていたのか、一瞬で近づくと木剣で2人を斬る。
突くのに必死だったのか、逃げることも無理だった。
木剣で殴るわけではなく、沿わせるように動かしたのでほっとした。
斬られた2人退場。
残るは剣の3人。
まず2人だけが左右同時に飛び込み斬りつける。
よく見ていると、刀を振るのはひとりづつ。
避けられたり受け流されバランスを崩すたびに相方が攻撃する。
少女はわざと回転して避けたり体を捻っている、踊るように・・・。
と、いきなり2人の少年の木剣が飛び、2人同時に斬りつけられた。
2人が退場するかしないかの内に最後の、1番年長らしき少年の剣が。
残念なことに、ユウには剣の動きは速すぎて見えない。
少女が踊っている。
相手の目にも留まらぬ剣を、受け流しながらゆっくりと踊っている。
くるりとターンすると、あれ?
少年の後ろにいた。
軽く剣を振リ下ろした。
「今日はおわりまーす。ありがとうございましたー」
観客全員拍手。お賽銭箱みたいな箱に次々お金を入れる。
冒険者達は人一倍熱心に見ていて拍手もしていたくせに、ほとんど銀貨。
しょぼい。
職人のような人たちのほうがたまに大銀貨を入れてゆく。
ユウはマジ感動したので・・・金貨を探すが、まだ使ってないのでそもそも金貨しか無い。
さっきの会計もリリアが済ませている。
思い切って3枚入れた。
「ありがとうございます!わたし、サーシャと言います」
いつの間に少女が目の前の舞台にいた。
「ユウです」
と、さっきの茶髪のお方が金貨を入れてさっさと去っていく。
【聴】を思い出しストーキングスイッチオン!
害意を感知しないと自動で立ちがらないので忘れていた。
彼は結構強い光だ、特徴を覚えておく。
少女も強そう、光が。
舞台の下には、『踊る』『闘う』という意味の文字が書いてある。
ダンス・バトル、ダンスバトル!
いやいやいや。
「見事な舞闘術でした。今まで見た中で一番ですわ」
リリアが言う。やっぱりこの子、凄いんだ。
少女は降りてきた。
向こうでは南国っぽい衣装を着た男たちが舞台をバラして馬車へ運んでいる。
少年たちも混じっている。
「くそっ、姉ちゃんも手伝えよ」
「馬鹿野郎、うちのスターに肉体労働させられるか!」
「次は絶対勝つからな!」
少女は結構お転婆というか、仲がいいのか。
「バーカ、千年はやいわ!」
クスッと笑ってしまう。
「みなさん、舞闘術を習ってるんです?」
「天からの授かりものだからね、これだけは」
ちょっと意味が分からなかったが、分かったふりをし、改めてお礼を言われ手を降って別れる。
リリアによると、あれだけの才能を持つのはおそらく天賦の才持ちなのだろうということだ。
冒険者でも、ひたすら努力だけのタイプ、『初見殺し』と言われる技で生き残るタイプ、あとは天賦の才で名を馳せるタイプがいるそうだ。
『初見殺し』使いは魔物に結構通用するが、ダメだと命の危機になりかねない。
ギルドの昇級試験でも、高ランクには簡単に見破られることもあるそうで、それだけならBランク止まりだ。
勿論、天賦の才持ちでも早死することはあるが、それを使って生存率を高め、更にどんどん鍛えることが出来れば誰よりも強くなれるのだ。
「なるほど、ありがとうリリアさん」
貴重な話だった。
少女にもあの茶髪の君にも、同じような光を見たからだ。
暴走阻止!?