ザンの多忙過ぎる一日
イジワとザンは宝石店にいた。
宝石といっても、この世界では様々な付与効果のあるものがメインである。
宝飾品としては貴族などが身につけるが、ここは冒険者の町であり、そんな物はほぼ無いだろう。
買おうと思っているのは結婚指輪。
結婚指輪ではあるが、できれば邪魔にならず、かつ魔法増強や属性防御など、命を守ってくれるものがいい。
店にはほぼ何もなく狭いが、奥側にでかい箱のような物体が。
金庫っぽい。
宝石店も当然のごとく商業ギルドで守られているが、突発的に金庫の外の棚に置いている安物が奪われることもありうるだろう。
それで徹底手配され極刑では割に合わないはず。
高ランク冒険者や貴族が買い物するのを見張って押し入る者も居る。
なので金庫を開ける際には出入り口の金属扉に施錠する。
ギルドカードを示すが、Eランクでは店員の対応も事務的だろう。
ギルド長の紹介状を示すが・・・。
その直前から店主は微笑んでいた。
「お名前は直接お聞きしてますよ。実力はBランク以上、昇進も間近だそうで」
ギルド長が色を付けて伝えたのだろう。
言うだけならタダだ。
店員らしき老人が閉店の札を持って出、戻ると扉に鍵をかける。
金庫を早速全開にする店主。
信用していますよ、というアピールだろう。
「基本的に、高価なほど宝石としての効果は高く・・・あ、これは当然ですな」
新人店員のように緊張している店主。
「ははは、滅多にお客さんなど来ないものですから・・・。
冒険者の町に出店出来るというのがステータスみたいなものなので」
壁にかかった紋章を指差す。
エ、ビ、ノ、商会か。
イジワがそわそわしている。
・・・あ、分かった。点が線に繋がる。
オレの名推理を耳打ちする。
(ルナノの親の支店だろ?そわそわしてたら余計怪しまれるよ。)
うつむき加減だが、怪しい動きはやんだ。当たりのようだ。
店主の説明は続く・・・
が、ザンの視線はある1点から離せない。
最初に意識が行き、ひと通り全体を見回したのだが、それが気になって仕方ない。
全体と言っても100個いくかどうかだ。この金庫、奥行きがほとんど無い。
店主の説明を遮って尋ねる。
「あれは?」
ショーウインドウを兼ねて斜めになった棚から、店主がケースを1つ取り出す。
「これは普通のプレゼント用ですね。ほぼ付与効果はありません」
その中の1つ、1番右奥にある指輪。
数十個並べられるケースだが、品数が足りないのか空きがあって、右奥にはその1個がぽつんとあった。
「ああ、それはちょっといわくつきです。
結構貴重な石ですが、ある細工師がこのような形に埋め込んでしまったようでして。
わざわざ取り外し不可能な細工をお施してあり、このままになっていますが。
回り回ってこの店の看板になりました」
他の普通の現代のと似た指輪と違い、冒険者用と似ていて石がリングに埋まる形状だが、宝石が異常に大きく膨らんでいる。
良い宝石を、無理して冒険者用の細工にしてしまった、ということか。
「うちの目玉ではあるんですが、難もありまして。
一見内部に光が反射して綺麗でしょう?
これ、不純物なんですよ」
いや、それに目を奪われたようなものだが。
でも、綺麗ならいいんじゃないかと思う。
これをルナノにあげたい。
「これをください」
「うちの、一応ですが目玉商品と言うか、『見せ』用なんですがねえ。
お値段の方は・・・30万ジョネンとなっておりますが」
値段をちゃんと言った辺り、売る気満々な気がするが。
「イジワ、頼む」
偽名なので、この名前で呼んで大丈夫なはず。
どうせギルドカードで見られてるし。
イジワはギルドから引き出してきたツカサ金貨を布袋から出し、三枚置く。
まだ俯いてはいるが、判断力まで落ちる筈もない。
オレの決断を分かってくれた。
「参りましたな。ラダンから聞いたとおり、気持ちの良い人たちだ」
「何か効果はあるのですか?」
「高価なので一応鑑定はしてあります。
効果は・・・・・・
健康増進です。
加工後なので正確ではありませんが。
呪われたりすることは絶対無いのでご安心ください。
“女神の祝福”お買い上げありがとうございます」
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「女神の名において、夫婦となることを許します」
指輪のケースをローブ越しにルナノに渡す。
自分で薬指の先に持っていき、それをオレがローブ越しに押し込む。
神父にはこうする、と前もってそのまま伝えていたが、何も言わずに頷いてくれた。
ルナノが無理して指輪(いや腕輪?)か何か買うのではと思ったが、新婦から指輪を贈る習慣は無いようで安心した。
式も簡単で助かった。
参列はイジワのみだし、そう頼んだからだが。
なんで女神なのか不思議にも思ったが、冠婚葬祭は女神とかあるんだろう。
女神様、ですねごめんなさい。
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ギルドを訪れ、普通の健康な受付嬢サエラさんに結婚を報告した。
「おめでとうございます。
きっと素晴らしいパーティーになると思っていましたが。
例の件は公にできませんが、実力を考慮してDランク昇格の申請をします。
間違いなく通るはずですので、今後あちこちで便宜を図って貰えると思いますよ。
昇格が決まるまではこの町にいてくださいね」
「ん?オレたちはどこにも行きませんよ。
前より強くなったし、もっと上を目指します。
2日も休めばまた狩りに出ます」
「本当・・・に?
ザンさんは・・・どうされるんで」
イジワがさえぎった
「一番強くなったのはザンだ。そのうち分かる」
唖然とする胸も普通の受付嬢を放ってオレ達は帰った。
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食事は3人で、と決めたので2人部屋に3人揃っている。
「あの時はな、色々思い出して気が気じゃなかったんだ。
じゃなきゃ止めてた。思い切りすぎだろ」
「他は目に入らなかったから。どうせアレにしてたよ」
ルナノは少し悩んでいたが、気づいたようだ。
「大事にするね。“女神の祝福”」
ビンゴだ。
「他になにかあった?そんな焦るような事が」
そりゃ、イジワの冷静さはオレもルナノも知ってる。
不思議に思うのは当然だ。
「宝石屋、エビノ商会だった」
「2人とも、大丈夫だと思うよ。直接知り合いでも来ない限り」
すかさずフォロー。本当にそうに違いないし、無駄に悩むことはない。
微妙な空気を何とか乗り越えて他愛もない話になる。
ルナノがこぼす。
「今日は忙しすぎたね。なんでだろ?」
自分がすぐ式をやりたいと言ったからだが、ツッコまない。
「そうだね」「だな」
・・・・・・
「じゃあ、おやすみ。ゆっくり休・・・めよ」
イジワ、微妙なところで止めるんじゃない。
「じゃあ、寝ようか」
「うん」
明かりを消す直前、オレは素早くアレをつけた。
呪法陣隠し用の装具、というか肘袋と言ったほうがいいか。
ベッドに並んで座る。
ルナノが寄りかかってきた。そのまま押し倒す。
変なことに気づいた。キスだっけ、これも初めてだ。
いいんだろうか。
良くなくても止まらない。
なんと・・・次回もこのまま続きます。どうしよう