プロローグ(後編)
「恐らく、お2人のご想像のとおりです。
まず、それぞれご自分が何に特化した力が必要かお決めください。
ご期待以上の能力をお授けできるものと自負しております」
最初にそれが必要らしい。
色々と魔法的だったり事務手続きなりの準備があるようだ。
まずは能力配分。配分と言ってもある意味制限がある。
「物理特化にしてください。あなた専用です」
名前を呼んでくれないが別にいい。
チラシの裏みたいな紙に選べるメインの能力が並んでいる。
そのすぐ下にカスタマイズ用の備考欄。
下の方にはサブ能力の希望が書ける。
沢山書くのも自由だが、増えるほど能力値が分散してしまうらしい。
一つ書けば例えるなら名人級、だが2つにすればだいたいその半分ずつ、という具合。
あとは、物理と魔法のどちらにも該当するものや、一つで多くの能力を兼ねるものがあるそうだ。
最初から教えてくれればいいのだが、あくまで相談しつつヒントは貰えるみたい。
隣の彼女は魔法特化らしい。
特に部屋が分けられる事もなく、並んでいるから話す内容丸分かりだし相談自由だ。
最初の名前の欄、そんなのは無いがそれっぽい辺りに“匿名希望”と書いた。
意味はない。
どうせこの紙は、メモに過ぎない。
改めて部屋全体見渡すと、既に普通の事務所では無くなっている。
いつの間にか女神様は居ない。
形は・・・天井が高い。
本当は天井が低いほうが好きなんです、と言っても知ってますとか言われそうだ。
出入り口の扉は無い。
そう、拉致監禁だな、これは。
半分忘れかけてたが、もよおさないし空腹にもなっていない気がしたので聞くと、そういうものだそうな。
拉致監禁・・・今更だな。既にここは別世界なんだから、恐らく。
我々労働者はー、なんて叫んでも何を要求したものやら。
つーか、既に3人共和気あいあいに能力強化のお話し合いになっている。
僕はそれでもやはり見知らぬ世界でやっていけるか心配なのだが、もうひとりの彼女は目を輝かせている。
飽き飽きしたつまらない日常から、一気に異世界に行ける、それも恐らく強い能力付きで。
正直ラッキーなのだ。
ちなみに2人というのは多いのか少ないのか聞くと、日本全国から2人なのだそうだ。
「まあこんなもの」らしい。
条件の合う2人を見つけ、2つのダミー事務所と扉を用意、ここに繋げたようだ。
能力の話の直前に少しだけ女性(匿名)と話した。
もう少しやせてればいけたのに惜しい、なんてどうでもいい。
誰にもはばからず喋れるからか、男性関係やイケない悩みなど聞かせてくれる。
どこにイケないのかは知らない。
僕からは職歴や、まあ向こうから振ってきたので素人童貞だとか。
セクハラではないよね。
向こうも特段反応なく「ふーん」で終わり。
ラノベの話も色々結構。
今更だが、童貞関係はデフォだね。
うん、そうだ!
特化を手始めに能力振り分け。
僕は【斬り】、少し考えて備考として【何でも斬れる】。
無理っぽい事を最初に要求しておけば妥協点が分かるだろう。
もっとも、【何でも防ぐ盾】とかあればどうなることやら分からないが。
女性は【治癒魔法】【怪我・毒・呪い・病気何でも治せる】。
これらはあまりにもあっさり認められた。
サブ能力。
名人級の能力は魅力だが、ある考えが浮かんだ。
【丈夫な体】
部下の人(神)が一瞬ビンゴだと言わんばかりに表情を輝かせた。
もしかしてテレパシーみたいなので教えてくれた?
いや、考えても仕方ないし答えてもくれないだろう。
「どういうことでしょう?」
女性は少し訝しげに尋ねる。
「異世界に行けば、地球にない病原菌とかあるかも。
合わない食べ物とかも。
それもですけど・・・」
「あっ」と声を漏らし、彼女はササッと同じことを書き込む。
「最良の選択です。死なないための最高の」
こちらから確認する前に部下が答えてくれた。
僕は恐らくこれでもういい。
彼女は魔法使い、後衛。
おまけに死なない限り自分で治癒できるはず。
守りだけでなく、攻撃系魔法も取っておくべきだろう。
最初に取るべきものと、僕の書いた能力の意味に悩んでいたせいか「そうね」といいつつ魔法を挙げてゆく。
どうせ自分自身でも思いついたのだろうが、素直だ。
結局彼女がサブとして選んだのは
【丈夫な体】【火魔法】【水魔法】【光魔法】
魔法の種類や大系はおおよそ教えてもらっていたが、選んだ基準は生活に役立つか、らしい・・・。
【丈夫な体】は弱体化されるが治癒で多分無問題。
【光魔法】はビンゴ、というより必須のようだ。
重複するような気もするが、最初の特化【治癒魔法】は特殊であり、世界の理から外れていて・・・ちょ、おい、怖いよ。
てか、僕の【斬り】もそうなのか。
あとはレクチャーだった。
かいつまんでまとめよう。
■レベルがある。自分のレベルは分かるから、成長度合いを知るには良い。
・住人たちにはレベルのような概念はあるものの、はっきりと知らない。教えてはならない。
・レベルは敵を倒す以外の経験や努力でも上がる。
・強弱イコールレベルではない、技術でその差は覆る事が多い。
■与えられた特化能力は極めて強い基本能力である。
・しかしレベルや技術が伴わねば、限定的でしかない。
・一方サブ能力は努力や経験で極めて強くなる可能性。
■女神は直接現地サポート出来ない。そのかわり最初に出来うる限り良い“人の縁”を与える。
細かい事が全て聞けていない気もするが、キリがないのかもしれない。
縁でのサポートについて聞いてみたが「縁は縁」だと。自分で考えろって事か・・・。
「君は斬りの能力から取って「ザン」と名乗りなさい。
あなたは癒やしの「ユ」・・・ああ、「ユウ」にしましょう。」
部下、今決めたな。
ひでえ。
本人が満足そうだから良しとする。
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2つの魔法陣。それぞれに僕とユウが立っている。
部屋に入ってから食事も睡眠も必要無かった。
僕たちは話をしたり自由に動けたが、もしかしたら時間が止まっていたのかもしれない。
女神様が初めて目前に近づく。
「えふん」
喉が気になったのか、咳払いっぽい声だった。
聞いた瞬間、戦慄した。
怖いのではない、体も心も吸い込まれて行きそうな親愛の情。
泣きそう。
隣は見ない、だいたい想像がつく。
「では」
部下だ。
「それぞれが全力を尽くし、生き延びることを祈っております」
ん?それぞれ?
想定内だが、恐らく別々の場所という事か。
すぐにそれぞれ、光のドームに包まれた。
女神様の口が動いているが、もう声が聞こえない。
光りに包まれ、
次は、ザンの近況から続きます。