ユウとアリア、ちょろまかす
今日は、というか今日もゆっくり過ごす事になっていた。
ここに着いてまだ3日目。
遅めの朝食を摂り、ゴロゴロ仲間のアリアと部屋でゴロゴロ。
リリアは2人に合わせてか、自主練せず読書。
文字の勉強もしないと、などと思いつつユウはある事を考えていた。
昨晩寝る前になんか思いついた。
何だっけ・・・うーん。
視界の手前側、頭の中にもう一個画面があって、【想】の文字が右下にある。
いつでも意識すれば見える。
文字しか無いが簡単な説明は分かる。
“想いをこめる”って、説明少な過ぎ・・・今更のツッコミ。
あ、この事だ考えてたのは。
当たり前過ぎて、すぐ思い出すはずだと思っていたのだ。
昨晩思ったのは、漢字で思い浮かぶ言葉の真の意味、ニュアンス。
アリアさんには説明したが、この漢字の示す感じが伝わったのか。
漢字の示す感じ、シャレか。
想うと思うでは少なくとも日本語ではまるで違う、と思う。
最初にアリアさんに説明した時には『ザンさんの事では』とか、『具現化では』つまり想像して創り出すという解釈をされた。
結構ニュアンスは伝わっているが、どこまでなのかが不安だ。
ただ、シンボリックというか暗示的な能力の表現の可能性もある。
【聴】はそうだった。
受動的、自動的に使えたから能力が分かっただけである。
あと、“想いをこめる”の『こめる』という意味。
こちらはニュアンス的意味皆無ではないが、結構はっきりしている。
自分が作るもの、または最初から在るものに何かを足すという事。
具体的には、魔法に何か付加して強くするとか変化させるとか。
もう1つは宝石や魔道具のように何かを付与する可能性。
あ、最初言われた『具現化』は当たらずと言えども遠からず、かも。
これでおっぱいテレパシーを送ろうなんて考えたのはどこの馬鹿だ・・・。
でも、おっぱいの具現化なら、悪くない。
まずは魔法に絞ってやってみたほうが良いだろう。
物への付与はあまりにも範囲が広すぎて今実験は無理、場当たりでやってみるしか無いと思う。
【聴】のように、【想】もオンオフしながら魔法を使ってみよう。
善は急げで、アリアとリリアに実験したいことを伝えた。
「ああああーせっかくのゴロゴロ日和があああ」
「ギルドに耐魔試験場が恐らくあるはずですが」
「あるよおお、知ってるけど知らないふりして聞きにいっとこうう」
「そ、そうですか・・・レベル4以上だといいんですが」
「大丈夫、とにかく行くかああああ」
アリアは文句たらたらだが、留守番する気は無いようだ。
耐魔試験場は装備の試験から魔法練習、昇級試験等多目的に使われ、大きなギルドにはだいたい設置されている。
王都のギルド本部のものは最高品質の耐魔レンガで作られ、最高のレベル5だ。
レベル4の物があることを確認し、もう1つの準備作業に出る。
標的にする物を集めなければならない。
貧民街を通り抜け、北の門を出れば適当な岩を回収できるだろう。
ユウは【聴】にどす黒い茶色の点がついてきているのを感じた。
害意のあるものが近づけば自動でスイッチが入るという便利機能だ。
魔物とか獣、普通の人など微妙に色分けされ、魔物の種類によっても微妙に変わるが、特に覚える必要はなかった。
点に意識を向ければ何なのか分かる。
色分けは集団を判別するのに役立った。
人間、欲望系か・・・昼間から。
「檻を試しますけど、人体実験しておきたいんで」
「分かった、後ろぉ?」
頷くとアリアと入れ替わり、ユウが最後尾に。
数秒後にローブ、ではなくボロ布を頭から被った何者かがホームレス集団とゴミの山の後ろから飛び出す。
いいダッシュだが所詮人間の速度。
熟練冒険者なら別だろうけども。
意識的に【想】を入れておいた。
ぴったりタイミングを合わせ氷で囲むだけなので支障はない。
「犯罪者でーす!えーと何を呼ぶんでしたっけ?」
「衛兵呼んどいてねぇ―!」
アリアが代りに言い、放置して去っていく。
森手前あたりで人間大の岩を中心に2人は物色している。
リリアは剣の柄で叩くが、傷つかないのだろうか・・・。
アリアはいつの間にかハンマーを持っていて岩を叩き、なにか取り出しぴょんとはねて岩の上へ・・・あれ?
岩がなくて、アリアだけが立っている。
リリアの方も、岩が消えていた。
もう一度アリアを観察、同じ手順の後・・・袋を岩の頂上に無理矢理かぶせると消えた。
四次元、じゃなくて魔法袋恐るべし。
「四つで充分でしょうね、気をつけて使えば」
帰りには男が檻で「出せこのやろう」みたいなお決まりのセリフを言いながら暴れ、自分で痛がっていたが放置。
ギルドで直接ララに声をかけると、問題なく試験場へ。
特に予定はないので気の済むまで使っていいそうだ。
アリアが標的用の大岩をゴロンと奥に置くが、特に気にもせず防音扉を締めて退室。
「さて、順序よく試していこうかね」
室内なので爆発や拡散するものは避ける。
壁が保っても人間が危ない。
「普通の・・・小さめのファイヤーアローからいきます」
アローを岩のど真ん中に撃ち込むが、さすがに自然石では貫通は無理。
数十センチ穴が空いたようだ。
「では、最初なのでしっかりと【想】を込めてみます。
貫通するイメージで」
アローが飛び、同じように、いや岩を抜け壁の耐魔レンガへ。
更にレンガを貫通してどこかへ行った・・・。
「ど、ど、どうしましょう」
冷静なリリアが慌てている。
「あ、ああ、向こうは土の中だから大丈夫、心配ないよ」
「でも、どこまで行ったか心配ですわ・・・」
ユウはノーコメント。
「それにどのくらい弁償すれば・・・」
「ああ、ここは非常識でない程度の魔法は撃っていいとこだからねえ。
非常識でない程度の・・・。
あ、そうだユウ土魔法でブロック作れるね?」
まさかこの人・・・。
「ついでに【想】で耐魔になるようにーなるようにーってやれば実験にもなるし。これぞ一石二鳥」
一石二鳥ってこっちでも言うのか、ってそれよりこれはさすがに。
「ん?アローで出来たって事は土魔法でも出来るはずだよ。
少なくとも、物凄く硬いブロック、以上のものは」
色んな破片と岩の一部を使ってブロックを作る。
【想】で固ーく固ーく、ついでに魔法を弾くイメージを付ける。
出来たブロックを岩の上に載せ、普通のアローで実験。
アローが跳ね返ってそのままこっちへ、危ない!反射的に撃墜したが。
「どんなイメージしたんだい?」
「反射するイメージ・・・そのとおりでした」
「床を見てて。
ごにょごにょファイアーアロー!」
炎はフワッと拡散するように薄れて消えた。
「今の感じでもっかい作ってみよー!」
こうして我々偽造団はニセ耐魔ブロックを設置し、事なきを得た。
次は、大岩に直接耐魔や硬くなるイメージをかけても出来なかった。
弱くて極小の火魔法で、更に【想】弱めで試そうと提案したが、また無駄働きは嫌だということで却下された。
結局、岩と壁に穴を開け、偽装修理しただけで実験終了。
実験は改めて人目につかない所をララかだれかに聞こうということに。
岩を収納し、床掃除をしていると入室を知らせるブザー音が。
魔法実験中に入るのは危険だし、防音ということで付いているようだ。
開けるとギルド長が。
「もしかして、氷の檻を使いませんでしたか!」
貧民街で男は泣いていた。数人の衛兵に囲まれ、氷の檻の中で。
自ら衛兵を呼び、文句を垂れながら檻を壊すように頼んだそうだ。
ところが、剣は役に立たず、斧やハンマーでも壊れず。
火魔法や直接火であぶったりしてもダメだったという。
ついには、少女を攫ってあんなことやこんなことをしようとしたことを残らず吐き、お願いだから助けてくださいと言っているそうだ。
【想】で何気なく作った氷がこれほどとは・・・。
「実証実験のチャンスかもねぇ」
「アリアはこれでも1から1人で魔法を習得して、一般では知られていない魔法論理を知っているから」
「言うとおりに試してみそ」
なんか語尾が気になるが、女神様翻訳なのだろう。
ポ○トークもビックリだ。
衛兵達にアリアが言う。
「この子は魔法の才能が凄くてねぇ。でも未熟だから手間取るかも。
色々やってみるけど、まぁ気長に待っとくれ」
アリアに耳打ちされ、言われた通りにやってみる。
「氷の檻をとかしたまえ、解除!」
これはダミーの詠唱。
同時に【想】で“インフェルノもどき”と似た感じで魔力放出、勿論焼け死んだらシャレにならないので火はなし。
氷が溶けるイメージだけおこなう。
一発だった。
氷は全て水になり、性犯罪男はへたりと座り込む。
男はユウに今更の丁寧な謝罪と礼を言い、連行された。
ギルド長も一礼し戻った。
「まあまあ予想通りだね。
恐らくだけど、その【想】というのは魔法を強めるわけじゃあないよ。
イメージしたとおりに魔法が固定化される、そんなところかねぇ。
共通項を探して、さっきの氷とそれが溶かせたことで思ったよ。
水魔法をどんなに強化しても、炎で全く溶けない氷はできないし。
溶かしたのは普通は魔法とは言えないような。
前言った“具現化”に属する働きだろうねぇ」
分かったような気がするかも?
次は“特質系”希望です。
ということで、安心してザンさんをストーキング。
強く光っている。立ち直ったみたいでほっとした。