ユウ、初ギルドへ
街を歩く。
ショーウインドウに並ぶドレス。
人通りも多く、獣耳の人もいる。
すれ違ってから、さり気なく振り返ると、尻尾があった。
まるで(元の)現代のような懐かしさと、違和感と。
ザンさんを感じた。なにかが起こった。
ぼんやりと、方向ははっきりしないが遠い国にいる、確実に。
懐かしさとワクワクする心、ザンさんの事がそれぞれ渦巻く。
何を迷っているのか自分でもわからないが、口に出せぬまま、どこかに着いたようだ。
「先に済ませましょうか」
「うん、ギルドでやることはやっておこうかねぇ」
周囲と比べても結構立派、というか数倍以上大きい建物。
扉を開けて入ると、広い。学校とかの体育館・・・よりは小さいくらいか。
左側は市役所のようなカウンター、L字に奥に続くが、正面以外はただの仕切りのようだ。
仕切りより右側は食堂か喫茶か酒場か、兎に角そんな感じ。
昼前だからか、人はまばらだ。
ローブにフードの怪しい3人、大(普通)・中・小トリオの中がフードを取って受付へ。
「アリアと言って取り次いで」
受付の綺麗なお姉さん――エルフだろうか耳は尖ってはいないが大きい――は首を傾げて、アリアが両手で差し出すギルドカードと光る石を見た。
はっとして、背後を向き「ララ!」と言うともう1人エルフっぽい人――顔同じ?――が来た。
やはり石を見たようで「どうぞ」とカウンターの一部を開き、中に入れてくれた。
暫く待たされて、小太りだが鋭い目をした男性が降りてきた。
正装なのだろうか、ピシリとした感じの高そうな服。
今度は石だけ見せる。
「アリアです」
「あのアリアさん・・・で?」
「話せる場所で、いいかい?」
男性は「はい」と頷いて「こちらへ」と歩く。
「君にも動いてもらうかもしれないから来なさい」
ララと呼ぶ事務員も一緒に。
2階の応接らしい部屋。
ギルドの2人と私達は向かい合って座った。
「本来マスタールームに来て頂くのでしょうけど、取り敢えずということで。
城塞都市、ナーラへようこそ。
ギルド長のガドラです。
こいつはララ、邪魔にはならないと思います」
マスター、ルーム?社長室みたいなものか。
アリアが主役のようで、口を開く。
「お嬢さんは事情はどのくらい知ってるんだい?」
「ララはこういう時のために置いていました。
妹の、受付の方はそっちと事務で仕事ができるので、普通に石所持者への対応をさせているだけです」
「なるほど。じゃあマスター、確認するよ。
“悪魔教”はどう思う?」
「光は闇を照らし、消し去る。ですね」
? あ、『山』『川』みたいな暗号、符牒だ。
しかし、こちらが言うのなら分かるが、ギルド長がなぜ?
話は進む。
「この2人はあたしと同じに扱って。あなた達以外には秘密で」
「ルルが・・・受付の妹が石を見ていますが」
「あたしのことだけ、えらい人って感じで言えばいいと思うよ。
まず確認させておくれ、大教皇暗殺未遂のその後の動きはあるかい?」
「何もありませんな。
犯人が病院から脱走したという知らせは有りましたが、後は何も」
いきなりどストレートにそんな事を聞くのか・・・。
「こっちの要望からね。この2人は今日冒険者登録するから表向きは普通に。
ただし、うちで訓練して・・・エース級だから依頼種別等は制限なしでね。
今のとこはそのくらいかねぇ。
ギルド側からの要望はあるかい?」
「実力を出して頂くのは大変結構ですが・・・“アンテ”の事は内密にして頂ければ。
言うまでもないとは思いましたが」
最後は何か立場が逆のような。
リリアを見ると、当然というようにすべての話に頷いている。
知らないのは、いや分かっていなかったのは私だけ、か。
遣り取りはそれだけで、事務的だった。
下に降り別れる寸前、ギルド長はしらじらしい事を割と大声で言う。
「いやいや、懐かしい人が来たと聞いて。
観光なり、冒険者なり、まあ無理せず楽しんでいってください」
隣の食堂も人はまばらだが、まあそういう事にする方が問題がないのだろう。
早速受付にララが耳打ちをして去っていった。
手はず通り、か。
リリアとユウは新規冒険者登録。
Eランクらしい。
リリアがカードを見て目を細め、ふんっと懐にしまう。
「宿でも取って、ゆっくり話そうかねー」
「そのほうがいいですね。まあ予想通りでしたが」
ザンの事を話そうと思ったが、まだ整理がつかない。
なにしろ、更に分からないことだらけだし、話を聞くべきだろう。
ユウは何も言わず頷いて、付いて行く。
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受付で教えてくれた宿は“くつろぎの湯”。
銭湯みたいな・・・ということは風呂があるのか、この世界には。
主人公が自分で風呂を作るのが定番・・・いや現実なんだからここは。
考えているとわけがわからくなるので、やめておく。
落ち着こう。
(1人除いて)新米冒険者らしく3人部屋。
いや多分、稼げたとしても3人部屋だろう。
床に腰を下ろす。
森での野営テントと同じだが、宿でも椅子無し。
畳こそ無いが、何か日本的な感じがする。
「アリアさんは“里”出身でしたね。
予想はしてましたが、“アンテ”中枢のお方とは。
で、“里”自体が“アンテ”なのですよね?」
「カマをかけてる、ってわけでもないよねぇ。確信してるようだし」
リリアさんが考えていたのはこの事だったらしい。
ユウも聞いてみる。
「里っていうのはどこのことなんですか?」
「“里”は“里”だよ」
「みんな誰もが里と言っています。
場所はほぼ知られていないようですが・・・」
「はあ・・・」
里というのがアリアの故郷の名前らしい。
あとはなんだったか、聞くことがあったはず。
「ギルド長によって色々な立場の者がいてねぇ、不正の無いように管理・監視する繋がりはすごいけれど、必ずしも一枚岩というわけじゃぁないんだよ。
だから、“アンテ”にとって信用できるマスターか、まず確認しなければならなかったんだよ。
“悪魔教”について尋ねるのがそれ」
アリアの方から言ってくれた。
「信用できるギルド長からヤツらの私の扱いが聞けたことで、行動可能なことが分かりましたし。
勿論顔などむやみにさらさないようにはしますけど」
「うん、暗殺未遂のあと病院から脱走したのに手配もない。
大教皇と教会の『寛容さ』を見せる狙いもあるだろうけど、死亡が確定しているから、というのが本当のところだろうねぇ。
手配なんて無駄でしか無い」
「あっ、なるほど」
「最初からEランクでしたし。まあ簡単でいいですけどね」
聞くと、本来は見習いのFランクのはずだそうだ。
多分おおまかには分かってきた。ギルド長に会った意味も。
・・・大事な事を聞かなければ。
ザンさんの身に何かが。
「大事な事を言えていませんでした!
この街に入って、ザンさんの身に何か起こった事が伝わって来たんです。
あの時に言えなくてすみません。ショックと・・・この街に着けた安心とか色々入り混じって・・・」
「あの時ね」
「尋常じゃないとは思ったけどねぇ」
「弱々しいザンさんの気配、というか光点のようなものが。
あ、近くじゃなくて物凄く遠くの国だと思います。
分かるんですなんとなく」
「もし『会うべきか』とか言うんなら違うと思うよ。
いや、少なくとも待つべきだろうねぇ。
本当に必要なら、ザンさんの方から探そうとするはず。
間違いなく。
まあ今夜はここの風呂にでも入ってゆっくり休もうよ」
温泉・・・違った、風呂か。異世界で。
リリアさんの巨乳がまともに見れる。
わたしのなかのおっさんが目を覚ます。
次回は普通のお風呂シーンです。
ザンが次元を超えて覗き見という展開はありません。