ザンと三つの袋
飛び降りて思い出す。
これはまずいのではないか・・・。
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女神「おお、[ザン] しんでしまうとはなにごとですか!」
却下、違う。
友人I:「いやそんなわけが。色々計画して、新しい道具を注文して届くのを楽しみにしてたんだ。でも、そういえば何か思いつめていたような・・・」
思いつめてたんじゃなくて、色々考えてただけなんだが。
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思い出した。『まずい』のは説明してなかった事だ。
【重】について、2人に一言も言ってなかった。
色々起こりすぎたし。
きのう、裏庭でコケそうになって思わず使い、上に吹っ飛んで、戻ろうとして地面に激突して(精神的に)重症を負った。
宿近辺や室内で練習出来ないので、対策について考えまくり、イメージトレーニングしまくったのだ。
誰だ。思いつめてる、なんて書いたやつは。
で、オレは落ちてたんだったな・・・。
地面、硬い岩に直撃とか冗談ではない。
【重】を上向きに、うおっ!
ザンは墜落直前一瞬止まり、今度は上向きに落ちていった。
やばっ、下向きに!
落ちる、はやっ!
上向き!
下向きやっぱはやっ!
上向き長めに、下向きちょっと。
繰り返して、きりがないので途中でやめて自分で落ちた。
頭ヤバイので、肘で着地したけどイタっ!痛い。
イジワとルナノが走ってきた。
「ビックリ人間第2弾・・・か」
ルナノは無言で…目を赤くしてぷっくり膨れてかわいい。
オレはドラゴンを倒した直後に『なんか出た』事を初めて説明した。
「それで、昨日はどうやれば上手く出来るか必死で考えてたんだ。
イメージトレーニング・・・、頭の中で色々やってた」
「? ああ。でも、わざわざ飛び降りる必要あるか?」
「地面に近いと激突するから試したんだよ。遠ければって・・・」
イジワが何か考えている。
「もしかして、違ったらすまん、落ちるときにもその【重】使ってないか?」
「? あれ?」
「落ちたくないだけなら、上に向けるだけで良くないか。
上に落ちれるなら、バランスが取れて止まるはず」
試す。
1メーターくらい飛び上がって、上に。
やはり上に行くが意識して弱める。
と、だんだんゆっくりになり、フラフラするが止まれた。
ゆっくり“抜いて”いくと降りてゆく、キープ。
ゆっくり着地。
イジワって・・・女神様の使いだったのか?
「お前って・・・」
「普通に考えただけだが。
で、必死に考えてたって言うが、順番がおかしいぞ。
俺も剣の訓練・・・学校で先生に習ってた時から、夜寝る前とか。
見たことを思い起こして動きを考え、体を動かすのを想像したりした。
頭の中で訓練してたことがある。
あれって、自分の力とか動きが分からないと意味ないよな?
練習もせずに想像だけしたって上手くはならない」
「そう、だね。色々やってみる!」
いきなりイメトレやっても駄目に決まってる。
ある程度体験し、基本の挙動が分かって行うから意味がある。
この世界の人間をバカにしてた気がする。
この世界ならではの技術や理論では負けているし。
精神的なことは結構似ていると思う。
ましてや、イジワは切れる男だ。
ヒゲソリCMの世界に引き込まれそうになり、一歩手前で耐える。
「ふう・・・」
「もうやってるのか・・・。
で、俺達も前みたく練習付き合うよ。見張りとか、何でも」
「うんっ、剣のれんしゅうれんしゅう♪」
金には余裕がある。
怪我をし、強敵を倒したオレの金だと二人は言ったが、「ずっと一緒にいてくれ、だから一蓮托生だ!」と共有財産ということに無理矢理した。
イジワたちに周囲を見張ってもらい、岩山の影に隠れ、始める。
まずは軽く跳び上がり、空中停止キープ。
ヘリコプターなんかもこれが基本と聞いたような気がする。
上下左右へ同じように落ち・・・できない。
下へ落ちるのは何もしない、上へは2倍落ちるで良い、だが横へ行くと同時に下へ落ちてしまう。
割とまっすぐ、方向調整できるようにはなるが・・・慣れが必要だ。
それから、これらを直立したまま出来るわけではない。
今度は移動は直線的でも体勢はバラバラ。
で、これだけでは出来たとしてもまだダメだ。
最初からもう、【足】との併用で慣れていくべきだろう。
それなら多少見られても、『不思議な動き』で済む・・・よね?
空も飛べそうだが・・・そういうのだけ見せないようにしよう。
空中に浮くのもだ。
改めて、2人にその事を伝える。
以前に似た感じで訓練再開。
そう言えばドラゴンの経験値?は2人には入ったのかな?
自分の目では分からず、聞くと少しだけ動きが良くなった気がするとのこと・・・。
まず普通に跳ね、斜め上方向のベクトルを意識することで思った動きが出来るようになってきた。
とは言ってもまだ初日。
わかった気になるのは禁物、と思いつつも心は晴れた。
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帰りにはギルドに顔見世しておく。ザンが自ら希望した。
サエラとギルド長には、今の普通に近づいた自分を見せておきたい。
他の冒険者には、義手が出来るまでお茶を濁すつもりだ。
ルナノが兎に角ひっついてくる。
髪の毛がくすぐったい。
あの記憶が曖昧な間に告白されたのか・・・。
覚えて無くてごめん。
普通の受付のお姉さん、サエラはザンを見ると表情が崩れた。
涙は見えなかった。
逆ににこやかだ、こっちもほっとした。
受付に交代を呼び、ギルド長に声だけ掛けたようで、そのまますぐに鍵のかかった部屋に案内された。
天井の魔石による明かりに点灯、台に色々なものが並べてある。
「とりあえず問題のない物だけ、選別してあります。
買い取りか現物引取かゆっくりでいいので決めてください。
ドラゴン含め残りは、数日は調査にかかりそうです。
本部に持ち帰って調べるものもあるのですが、ギルドの信用に賭けて代価は支払いますので」
赤い鎧、これは着色した防具だそうだ。
それなりに良いものだが、染色し直さなければ使えない。
何より気持ちが悪い。
金貨を含む大量の硬貨。聞くと10万ジョネンを切る程度らしい。
報奨金が入るのだが、金が増えて悪いことはない。
他にも相当な量の魔石や宝石らしいものが。
「魔石は等価交換のようなもので、再入手できます。
宝石は『問題なし』とされた物ですが、普通に自然界に存在する特殊な効果などは鑑定しなければ分かりません。
ランクが上がれば安く鑑定制度を利用できますから」
つまり、魔石は換金してOK。宝石類は預けておいたほうがお得というわけだ。
不審に思っていたことをイジワが尋ねる。
「でも、これだけの量をあの男が持っていたとは・・・」
「魔法袋です。容量はあのドラゴンは軽く入るくらい・・・うちのギルドにあるのより数倍良いものです。
3つもです・・・」
サブタイトル通りの展開ですね。