ザン、ツルッパゲに教えられる
翌日は、なるべくいつもと同じに過ごすようにしてくれたようだ。
と言っても狩りには出られないが。
少し遅めの朝食を、やはりルナノが寄り添って食べさせる。
その後も、ルナノが張り切って本の朗読を教えるという。
いつもと違って、ピッタリとくっついて、本をめくってくれる。
大きくないが、確実に柔らかい。
そんな事をもう考えている。
くよくよ悩んでも仕方ない。
本当の事を言えば・・・
ユウの“世界の理を超えた力”だったか、彼女なら治せるはずだ。
確か、解呪もできる。
横で書いているのを見た。
毒とか呪いとか、何でも癒せる力のはずだ。
だが、まだ会う事はできない。あるいは会う意味さえ無いかもしれない。
自分の能力を考えれば、ユウの癒やしの力もまだ発展途上に違いない。
何より、会った途端に“何者か”に見つかり殺されては意味がない。
あの、“夢ではない夢”で見た黒いモヤのイメージが蘇る。
記憶から消えるほど恐ろしい映像は何だったのか・・・。
まだ体は丈夫なはずだから、荷物持ちとか体当たりなら出来る。
イジワが自主練から帰った。
「おかえり」
オレが言うと、イジワだけでなくルナノも目を丸くした。
クララが喋った! とか言ってほしかったが無理か。
何より、この2人はくだけていても無遠慮なことは言わない。
いいやつなのだ。
「ルナノ、どうだ?」
イジワまで読書の進みを気にしてくれているようだ。
ルナノは急に背筋を伸ばして離れた。
何だろう。
「荷物持ちでいいからそのうちまた狩りに出ようよ」
更に驚いたような2人。
「あのー、オシッコとか頼めないだろ。他人に。
わかってると思うけど体まだ丈夫だから。邪魔にはならないよ」
イジワはそれに答えず、思わぬことを口にした。
考えてたのだろう。
「英雄のおじさんの話したよな。
義足が出来るんなら、義手も作れると思うんだが」
なるほど、おそらくはオレが遠慮して暮らすのを心配してのことだ。
義手があれば食事や簡単なことは出来るだろう。
肘自体は残っていて自由に動かせる。
まだ金貨はあり、そんなに高価とも思えないし。
「うん、たのむ」
「じゃあ、ギルドとか色々当たってみる」
早速出かけていく。いいやつだ。
ローブを着たまま宿の裏庭を歩いてみる。
日中はいつものように誰も居ない。
腕の重さが違うせいか、たまにバランスを崩しそうになる。
幹だけのツルッパゲになった木の前に立つ。
誰も見ていないのを確認して、肘の先から光を纏ってみる。
見えない、集中だ。
あの時出来たのは、信じられない集中力が瞬間的に出たのだ。
考えれば、指先に纏うのも言ってみればコツを掴んだだけで満足した。
【足】の場合は、戦闘中にコケたら大怪我や死に直結しかねないので、“全力未満”で繰り返し練習はしたが。
サブ能力は努力で伸びる。努力しなければたかが知れている、多分。
メインの“特化”にしてもそうだろう。
肘の先、切断面の一部、上側に意識を集中して光を伸ばす。
木の幹を一振りで切断した。
しまった!
この木は斬りすぎて、また元気に枝と葉を茂らせるはずなのだ。
幹を切っちゃ駄目じゃないか。
・・・・・
自分と重ね合わせてしまった。
この木が元に戻るには、もう何ヶ月、いや何年必要なのだろう。
自分の腕は木のようには伸びない。
違う。
自分は動ける。
その上、努力次第でいくらでも伸びる、大きな大きな力を貰った。
もしかしたら・・・
この出来事も女神様の計画だったのかもしれない。
もし違ってたら部下にぶん殴られるかもしれないが。
女神様は殴ったりしない。ウンコもしない。間違いない。
なんだったっけ、計画か。
上の者は良かれと思って辛い仕事を若者に与えることもある。
今のオレの能力のように、楽ばかりしては何も得られない。
たった一晩練習しただけで、何か成し遂げた気になっていた自分が滑稽だ。
少し苦労して、ブラックだと言って文句を垂れているようなものだ。
これだけの力を得ていながら、なさけないやつだ!
いずれにしても、強くなればユウに会って体も戻る。
ユウと・・・待て、心に引っかかるものがある。
すぐ近くの存在、かけがいのない・・・。
イジワが帰り、義手を作ってくれる店がもう見つかったと言う。
冒険者の町、ある意味当然なのかもしれない。
現に、腕が片方無い者も見かける。
実際、調整も見せてもらい仮に付けてみたそうだ。
装着部はなめした革になっていてつけ心地も良く、値段も1万ジョネン程度。
武器よりはるかに安い。
さっき思いついた、義手の他に注文したいものを言う。
風呂などで呪法陣だけを隠す物、短剣を装備するもの。
後者はこれからの“見せ武器”にする予定だ。
普通の剣ならかっこいいが、固定しづらいし、纏えない。
何より、某大先生に・・・まあアレだし。
すぐ店に行き、腕の採寸・型採りと注文を済ませた。
準備は終わったが、帰り道・・・ザンは喋らず何か考えている。
夕食、「あーん」とザンに食べさせるルナノを見てイジワは思った。
こいつ、このままなし崩し的に突っ走るつもりでは。
女は恐ろしい。
一方ザンの方は何か思いつめて、口を開いた。
「ユウとはもう会わなくてもいい、そのつもりでいるから」
ザンがルナノを見ると、顔を赤らめ俯く。
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もう翌日はザンのたっての希望で森へ出た。
今日は何も喋らず、何か思っている風であった。
「オークの手前の岩山に行きたい」
そう言ったきり、やはり何か必死に思いつめている様子。
岩山が見えると1人ダッシュするザン。頂上へ。
「えっ!」「おいっ」
飛び降り、そのまま落ちてゆくザン。