ユウ無双?
この世界へ来て、いやこの森に入って半月ほど。
森一帯を抜けて他の町へ辿り着くまでひと月ほどと言われていたが。
計算通りというか、普通に中間点手前に3人はたどり着いていた。
「この先からが問題のようね。
ユウの言うとおりだとしたら、抜けてしまえば問題ないようだけれど」
「丸1日掛けて、ここだけは抜けてしまったほうが良さそうよねぇ」
オーガらしき魔物が異様に多い地帯。
距離は大まかではあるが、抜けた向こう側はここと同様に余裕だと思う。
これまでの冒険者としての経験や地形から、リリアとアリアはおおよその距離は予測できるようだ。
どうやら1日のみだが、不眠?不休で行軍しなければ厳しいらしい。
その日は動かず、強行軍のための準備と休息となった。
まだ充分危険地帯からは離れている、その分長い距離を歩かなければならないが。
夕食の際は、ユウが風魔法で匂いを高空へと飛ばす。
「“風魔法”は能力で貰ってなかったんだよねー?
攻撃魔法としてはまだだろうけど、魔力とその制御だけでここまで出来るってぇ。
なんか、馬鹿らしくなってくるわー。
あっ、悪気はないからぁ」
女神様に貰っていなかった“風魔法”だが、教えてもらうと大まかに魔力の流れは掴めたし使うのも問題ない。
ただ、貰った属性“火・水・光”のようにいきなり中級が使えるという訳には行かないようだ。
ここで重大なことに気づいた。光魔法を一切習っていない。
寝る前に「普通の」“光魔法”つまり中級治癒魔法程度は習っておこう。
なんで今まで気づかなかったかというと、誰も怪我というかかすり傷すら作らないからだ。
それを言うと、2人は口を揃えて「普通に使えると思ってた」と言った。
出発直後に初めての攻撃魔法で酔ったのを見ていながら、抜けているというか。
もしかして、そんな事は些細なほど考えるべきことが2人には多かったのかも。
いつも通りのアリアの適当詠唱、というか創作詠唱でユウは“普通の”治癒魔法を身に着けた。
人前で使う時は「ライトヒール」とか「ヒール」とか唱えておけばいいようだ。
遅くはなったが、火や水のように“名人級の25%”で使えるはず。
創作詠唱と表現したが、それはアリアが治癒魔法を使えないから、想像で作ったのだ。
こんなんでいいのだろうか・・・。
早めに寝て、早朝明るくなれば出発する。
寝る際は、ユウの見張りは不要になっていた。
強い魔物には、寝ていても普通に気づいて目が醒めることが分かったからだ。
明け方、残る2人は慣れたもので問題なし。ユウも休息充分。
覚悟を決めて進む。
オーガ生息地の生態系、というか魔力バランスによるものかよくわからないが、オーガの他は降ってくるスパイダーと隠れているバイパーがメインだ。
ユウが連携のために「クモ!」といいつつ火で撃ち抜く。
火力で毒まで蒸発する。
バイパーは、通常はわずかに動き出す瞬間をリリアが斬りつけるのだが、やはりユウが「ヘビ左前!」と指示を出して数瞬後には斬られている。
念には念を入れてユウの魔力温存、ということにしているが全てユウ任せではリリアが納得できないのかも。
スパイダーを数匹撃墜しつつ、30分ほど。
ユウが叫ぶ。
「オーガ3もうすぐ! その後にも5匹!」
作戦通り、視界に入った時点で2匹を同時にユウがアイスアローで撃ち抜く。
近くに来られるとたまに逸れるが、もうかなりオーガのスピードには慣れた。
レベルが上ったせいもあると思う。
【聴】で敵の位置は分かるが、狙いは目に見えるまでつけられない。
慣れれば出来るかもしれないが。
オーガが来ればクモもヘビも逃げる。
いるとしても探知できるが。
一方、正面の90度範囲、リリアのいる場所から45度程度はリリアが少しだけ先行しつつ撃破する。出来るだけ進行方向前面へ戻り、また繰り返す。
あまりにも手に余すようならユウの位置へ戻ることにしている。
戻る際に魔法で誤爆することは無い。【聴】で分かるのだ。
不安というか・・・アリアはどうするのか。
今の所何もしていない。
リリアも本人も「全く心配無用」と言い切ったが。
攻撃中も少しずつ進んで行く。
「正面5匹すぐです!左右から2匹ずつ」
「私もここで守る!正面以外をお願い」
さすがのリリアも5匹同時に相手はしたくないようだ。
【聴】の示すポイントに狙いをつけておく。
「左右と前2匹ずつ、6匹撃ちます!」
全て命中、頭が消えた。残りは前の3匹、リリアが1匹斬りつける。
残りは2匹は左右に別れた。
同時に魔法を飛ばすが、準備から撃つのと違い、至近距離での速さに追いつけず右を仕留め損なう。
まだ間に合う!一瞬で近づくオーガへ・・・。
オーガは上下・前後逆さになっていた。
何が?
アリアがいた。腰を入れて、「よいしょっ」と、その首を短剣で斬った。
すぐにオーガの追撃はなかった。
この辺のを殲滅したから・・・と言うのではないようだ。
不気味に、距離を取ったまま周囲に密集してきている。
エイプの混血なのか?と思えるような群れ――50はいる――のオーガ達。
反応はオーガで間違いない。
これは間違いなく死ぬ。3人とも。
アリアには驚いたが、今は意味がないように思う。
「周囲に数十匹。集まって来てます・・・。
全部一気に焼き払ってみます」
それ以外無いと思い、その瞬間言ってしまう。
「魔力は?」とリリア。
「どちらにしろ、倒さないと死にます」
自分とは思えないような思い切りの良さだ。
まだ広範囲の攻撃魔法は教わっていない。知識さえない。
少なくともこの世界では。
アリアの詠唱を思い出す。
オーガすべてを包み込む大きさの火を上空に作る。
丸くない、雲のように炎が浮き上がる。
“降り注ぐ業火”だったか。
爆発しなくていい、熱く熱く、大地さえ溶かすように熱く。
【聴】で分かる全ての敵へ。
「降り注げ!」
爆発は起きなかった。
3人から少し離れた周囲へ、木々の間から溶岩のような輝きが見えた。
くらっとして・・・アリアが支えてくれる。
「大丈夫?」
「はい、『酔い』のほうです。焼け死ぬのは不味いですよね」
ミストシャワーを降らせるが間に合わないようだ。
「ユウ、いい?教える通りに」
アリアが言う。
「まず火を消す。燃えている場所に軽い爆発を起こす」
はっと気づく。確か、火災を消すのに爆薬を使うとかなにかの映画で見た。
要は、酸素供給を瞬間でも断つ、すると火は消える。
「火が消えたら、火種が残らないようそこにだけシャワーを。
それが終わったら、恐らく燃えている大地を冷やす。
まったく・・・やりすぎー」
実際にやったのは、酸素を断つイメージ。
実際に見つつ調整しながら、数秒で出来た。消えた部分へシャワー。
あとは、凍らせる。ひたすら。
「あれは、さっきのは“インフェルノ”に似てるねえ」
「上級の魔法・・・ですか?」
「それどころか・・・・・まあいいさ」
喋るチャンスを失っていたリリアが復活して声をかけてくれる。
「冷やすまでして魔力は?オーガの動きは? ユウ自身大丈夫?
矢継ぎ早にゴメン」
「魔力は少し減った気がします」
自分でもビックリだ。“世界の理から外れた力”のせいか。
2人とも呆れ顔だ。
それから暫くはオーガは襲ってこず、というか私達から逃げていた。
落ち着いたのか少しずつ現れる敵に、もう今度は最初から手加減した“インフェルノもどき”を飛ばす。
止まって消火作業。
面倒なので、氷の槍を降らせる事に変更。
超鋭いやつだ。
出現頻度が落ちたのを幸いに、駆け足で進む。
夕方には、【聴】で今朝見た一帯からは完全に抜けていた。
リリアももう大丈夫と保証してくれた。
“インフェルノもどき”直後から頭の奥に、“22”の数字。
右下には【想】が増えている。
“想いをこめる”らしい。
それどころではなかったのもあるが、さっぱり解らない。