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ザンとドラゴン

※注意!

残酷な描写があります。

鬱展開です。

ご注意願います。



最近は、割の良さげな討伐依頼もギルド受付で探すようにしている。

金は大事だ。


特に変わったものはなく、薬草と近隣に流出するゴブリン討伐ばかり、もちろん安い。


「今日もあっち方面ですか。

革お願いしますね革。

ついでに出来ればアレもお願いしますね」


普通の受付のお姉さんは普通ににこやかだ。

アレって、ああ、ドラゴンの話か。



修行の成果を報告しておこう。


ためらうこと無く、「オレ」と言うことが出来るようになった。

意識して1文字ずつ発音するので、「俺」でなくて「オレ」だ。




ルナノは安物だった小剣を割と良いものに買い替えた。

1人分の分前では足りなくて、イジワとオレがカンパしたが。


30万ジョネン・・・武器って馬鹿高い。


そう言えば、イジワはずっと同じ剣だが常に刃こぼれさえしていない。

ルナノが家から持ち出した金が余程高額で、それを突っ込んだのか。



その辺はそのうち聞くとして、防具について聞いてみる。

「オーガ狩るようになったのに、防具はこのままでいいの?」


「対人とか魔法やブレス吐くモンスターには必要ね。

あと、一番怖いオーガでも力技だから、多少丈夫にしても意味無いの。

殴られなければ何という事は無い、のよね」


「いくらでもいいのは売ってるけどな。

心配なのは超近接盾兼前衛のお前の方だ。例の金貨あるってのに」


「前言ったとおりだから。すごい役名ありがとうございます」

最後のはわざと丁寧に言ったのだが、2人はネットとか知らないから誤解されたかもしれない。


痛恨の極みである。

一から修行が必要、と気を引き締めるのであった。




オーガエリアまであと少し、というかスパイダーが出現するにはまだ結構距離がある。

多分この辺で日常イベントが発生するはずだ。



「ちょっと今のうちにオシッコ」


来た。

ルナノはいつもこう言う。

なぜかオレを見る、必ず。


この世界にも“お花摘み”とかお上品な言葉はあるのではと思うのだが。



これもいつか聞いておこう。まともに聞けるかどうか微妙だし、忘れる可能性は非常に高いが。


実を言うと、男2人もここで済ませておく。

いつのまにか、そういう流れになっていた。


女は強い。何となく思った。




そろそろ出発、というタイミングでイジワが呟いた。

「あれ例のドラゴン、だな! ザンは行きたいよな」


「もうそっち見ても、行っても大丈夫? ルナノ」

一応確認は必要だ。


「いいよ。

・・・で、どうする?」


「例の通りで行く、頼む!」



オレが先行して兎に角追う。近接戦闘はブレスを避けるのは問題ないはず。


バリア、じゃなくて“障壁”対策は伝えてある。


追ってきて、もしオレが動けなくなってたら消えるまで待つ。

他の魔物など危険があれば、恐らく背後だけ気をつけるか、他の魔物自体が障壁で全く近づいて来れない可能性もある。


臨機応変にという事だが、数パターンの対策のどれかで大丈夫なはずだ。



かなり追いついた。前回のように接触さえ出来ないのは悔しいので、

「おーい!ドラゴンくーん!コドモドラゴンさーん!」


大声で叫ぶと気づいたようだ。

∪ターンでこちらに向かってくる。



近づくとそのまま空中で炎を吐いてきた。

射程はおそらく5メーターあるかどうかだ。


左へ躱し、通り過ぎ・・・させない。



跳びついて横腹へ斬りつける。


グエッ、ガ

結構かわいい?高い鳴き声だ。


なんとか刃は通った、だが硬い。

今までの魔物とは違うということか。


いや、ドラゴンって魔物だっけ?



ドラゴンが着地、動く前に追撃しようと・・・


赤い魔法陣らしきものが、オレの足元に現れた。早速例のアレか。

動こうとして、やめた。


もしバリアに引っ掛かって動けなくなれば終わりだ。

いや、こいつは逃げるだろうし、第一、バリアを解かなければこいつからも攻撃できないかも。


でも、いつまた発見出来るか分からないのでチャンスは活かしたい。



ドーム状にうっすらと壁らしきものが見える。噴水の水で作った壁のような。


ドラゴンはこっちを見もせず、以前飛んでいった方向へ離陸。

1人用だから小さいバリアなのか、ちょっと話に聞いたのと違う。


オレは短剣を2つとも鞘に戻し、右手の指に光のイメージを込め、ぶれないよう手首に左手を添える。



光が触れた、何ともない。

そのまま切り裂くが、穴を開けようとしても端から復元する。


覚悟を決めて再度一気に切り裂いて、全速力でそこへ飛びこむ!

ゴロゴロと転がる例のパターン。


抜けた!慣性力の勝利!


今度は気づかれぬように追う。

出来れば以前の場所に降りたタイミングで翼を斬りつけるのがべストか。




ドラゴンの降りたところには崩れかけの小屋があった。

岩山があり、その麓である。


それほど木は密集していないので、意識して探せば見つかるだろう。

巣、では無いんだろう。


それならとっくに討伐されていておかしくない。

一時休憩?待ち合わせ?


ドアから入る訳はないな。



ん?ガレージのように一方の全面が開いている、というか壁がない。


気づかれぬよう左から回り込む。

いまにも崩壊しそうに見えたが、近づくと新し目の木などで補強してあった。


子ドラゴンはうずくまって毛づくろい、じゃないな、傷口を舐めている。



殆ど首は無いが器用に体を捻る、毛のない巨大なウズラという感じ。

ウズラは言い過ぎか、首は少しある。


ちょっと可愛いかも・・・。



オレは飛び込み、反応する間も与えず翼の付け根を斬りつけた。



グギギギィ~

さすがに硬い。傷はつけたが切り落とすまでには至らず。


小屋の開口部から逃げられないように動きつつ、反対側の足、翼と斬りつける。

ブレスを吐いては来ない。



噛み付いてこようとしたので、片目を斬り潰す。

傷はつくがキリがない。


目の開いている側から翼に向かってフェイントを掛け、床を蹴ってぶつかるように一気に首に組み付く。



ゲグェー

暴れる。

壁に激突、痛いが、小屋が崩れないかの方が気になってしまう。


組み付いたまま、短剣を脳天に突き刺す。

更に(えぐ)り、もう一度力を込めて差し込む。


ドラゴンの力が抜けた。



頭の奥に“24”の文字。


それほど強い相手では無かったが、自分の小屋でブレスを吐けなかったせいか。

そういえば例のバリアも出さなかった。魔力関係?


7レベル。ドラゴンという種を倒したことに意味があるのかも。


【足】の次に【重】の文字。

“方向を変える”らしいが使い方は?




「パピィちゃん!」


黒ローブ、いや、コートを来た男が立っていた。

金髪の優男(やさおとこ)風、細い。




ペットだったのか・・・。

多少攻撃してきたとはいえ、ペットをいきなり殺されたとしたら・・・。


どう謝ればいいのだろう。

いや、放し飼いにするのもダメだと思うが。



「討伐依頼がきてたもんで。

野生のかと思ってて。みんな、そう思っ」


「パピイちゃん、こんなに、こんなに・・・」

男は涙を流し嗚咽するが、そのパピィの方には移動しない。


入口側から動かない。

オレを逃さないようにしているのだろうか。



この男は強い。わかる。

勘というか新たに目覚めた感覚なのかもしれない。


男がその感覚に答えるように言う。

「おめぇ、弱いな」


黒コートを脱ぎ壁に放り投げた。

赤い鎧。


日本刀のような細く、軽く反った剣を抜く。

「許さん」




話が通じそうにないし勝てそうもない、全力で逃げよう。


小屋の床が抜けぬようギリギリの強さで蹴り、広い方へ跳ぼうと。


眼の前に男が居た。跳ぶ一瞬前に先に。



「てめぇは・・・一生苦しめ。パピィちゃんの痛みを一生かけて償え」


バックステップで離れた。



人の手が落ちていた。

短剣と30センチほどの人間の腕が二本。



「あ、うあ」


痛いんじゃない、焼けるように熱い。



男が手をオレに向けると赤いものが飛んできた。一瞬しか見えなかったが魔法陣か。


腕が・・・痛みが消えた?

治ってなどいない、切れたままだ。出血は止まったが。



死にたくない。まだやることが・・・何をやるのかは思い出せない。

死にたくない。


やれる、ことは、やろう。



「ころ、さ、ない、で・・・」




「一生そのままでいるんだよ。足も切るか?」

いみがわからない。


一歩ずつオレは男に近づく。

動くな、動くな。祈る。


「その呪法陣はどんな治癒魔法でも治らねぇ。

大教皇、ふっ、に何億支払ったって無理だ」


男は動かなかった。



オレは歩けず倒れるかと思ったがなにかに支えられている。【重】か。


相手にも効いているのか、あえて動かないのか分からない。

哀れみか。余裕か。



相手にすがり付くように、肘でつかまる。

「きたねえ手・・・ひじで触るな」




オレは肘の先端に全力で“光”を込めた。纏った。

オレにしか見えない。


右肘は男の心臓に。


左肘は剣を持つ腕に。




通った。男の心臓を鎧を無視して貫く感触。


一方で腕を貫いた感触。


右肘は左上へ逆袈裟のように斬る、左は振り下ろす。全力で!


心臓を貫いた瞬間生死は決していたのかもしれない。

男は倒れ、ザンはまだ呆然と立っていた。






イジワとルナノがやがて追いついた。

(ひざまづ)くザン。



2つの死骸と、2本の腕が転がっていた。

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