ザン対卑怯な魔物
Dランクの獣人達に結構声をかけられるようになった。
大体は宿の食堂で、オーク談義である。
獣人のくせに?決して挑発的なことなどは言いはしない。
強いものには敬意を払うというスタンスのようだ。
彼らは実際オークも狩れるのだが、金の要るときや割の良い依頼の時だけ全力出撃でなんとかするという感じらしい。
Cランクグループも愛想よく挨拶してくる。
自分ら…俺たちがオーガを毎日のように狩っているのは公然の秘密になっているようだ。
オーガエリアで活動すれば、普通はオーガの場合魔石の回収のみ。
後はハイドバイパーで稼ぎ、家というかアジトを持てるくらいにはなる。
Bランクのパーティー相当だ。
実際普通のパーティーはオーガを狙うなんて危険なことはせず、強敵は避けながら金になる蛇革回収でギルドの収益に貢献する立ち位置っぽい。
Sランクなどは実態不明と言われるが、Aランクでさえ、オーガ以上の何を狩ったりどんな活動をしているのか想像もつかない。
まあ実際はお呼びが掛かるたびに実入りのいい仕事を請け負う実力者という感じか。
実はあれから連日オーガ狙いで森へ入り、ついでに蛇革もそこそこ取れている。
2回目も、ルナノでは無いが半分小便チビリそうになりながらだった。
大事な事なので書いておくが、実際誰もチビってはいない。
隠している可能性もあるが・・・もうやめよう。
オーガの戦い方だが、初見で仕留められれば色々見えてくる。
普通は屈強な前衛が盾などで防ぎつつ斬りつけるんだろうが、自分の場合対抗するように動き回れる。
レベルアップで遅れは取らずに済んでいるが、こちらの剣も素早く回避されやはり膠着状態となった。
ここでやはりオーガは、後衛と言える残り2人に向けてダッシュした。
同じパターン。
停止を考えずに全力で一段速く、跳ぶように後ろに付き一閃で仕留め、軽く蹴り横へ吹っ飛ばす。
この、2回目の討伐で“16”に上がった。
更に2日掛け、4匹仕留めて“17”、蜘蛛と蛇もそこそこ狩っているが。
動きに追いつくのが楽になり、パターンも分かった。
普通に強いが、有利ではないと思うと後衛や弱いものを襲うという流れだ。
多少自信のあるパーティーはオーガの後衛潰しを食らって、徐々に殲滅させられるのだろう・・・。
オーガに他の個体と話す能力があるのかは知らないが、仕留められず逃げられればパターンも変わってくるのだろうか。
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「なあ、俺達って役に立ってるのかな?」
「うん、宿で言えなかったけどずっと思ってた」
「なんばゆうとっとね!」
2人が脳天から?を出して悩んでいる。
ごめん、これはとんでもないことを言うやつに対する、ぼ…俺の口癖だ。
出身は福岡ではない。
「あのね―君たち、お、俺ひとりでここに来て何が出来ると思う?
ずっと上見上げて首が痛くなって、それならまだいいけど、前からくる敵に気づかず瞬殺されろと?
そしてスパイダーの毒袋切ってしまって毒を浴び、バイパーは・・・まあいいか。
で、もうわかってると思うけど、特に2匹目までのオーガは2人が居なかったら相当苦労したか、やられた可能性だってある。
1人じゃ絶対勝てなかったよ」
今は“オーガだけなら”1対1でも何とかなるだろうから、無理に2人を立てようなどは考えず事実のみ言う。
だが蜘蛛対策は絶対1人では無理だし、最初にオーガを仕留められたのは2人がいたからだ。
「ミスるなよ、引きちぎられたくないからな」
「それは無いと思うけど。イジワも剣速も力も上がってるよね。
この前練習でオークくらい跳び上がってたの見たし」
「ああ、あれは全力で上手く跳べた1回きりだが。見てたか」
ちょっと目を逸らし、恥ずかしいのか。
まあちょっと分かる。
「でさあ、遠くに跳ぶ時は恐らく避けたりできないから魔法も当たるんじゃ?」
「いや、アレ速すぎでしょ、相当練習しないと無理」
練習すればできるのか・・・。
無理強いはできないが、オークを割と楽に倒せるだろう2人がオーガとどう戦うのか見てみたい気もする。
なにせ、初見ではなく相手のスピードやパターンも知っているわけだし。
サポート出来るオ、オレという存在もいる。
ほかのB級だってバケモノじゃない。普通の冒険者達もだんだん強くなってオーガを倒せるくらいになるんだし。
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夜の修練。
ドラゴンの話を聞いてから、例のバリアというか“障壁”対策を考えていた。
調査・討伐ともに報酬は5万ジョネン、調査の成果によっては大きく減らされるだろう。
完遂しても、Bランク相当冒険者にとっては蛇革と同価値、微妙過ぎる。
ただ、ドラゴンを倒せばどのくらいレベルアップするのか、かなり魅力的に思える。
強くならねばならないのだから。
ドラゴンのバリアを、障壁に触れないように破る方法は?
短剣より長く“纏え”ている事が頭に浮かぶ。
今でも実際には、見えている短剣の刃よりも多少長く斬れるのだ。
アレならば触れたことにはならないとして、剣よりわずか延びた部分ではギリギリか。
発想を変えてみる。もしかして、剣はなくとも“纏え”ば切れる?
そもそも、短剣も5000ジョネン程度、5万円くらいか、この世界で命をかける武器としてはめちゃ安い、剥ぎ取り用の中級品程度である。
それでも、相当硬いとされるハイドバイパーを一発で切り落とせているのだ。
以前の光のイメージに戻してみよう。
前はチョップに纏って斬ったが、今度は架空の剣を思い浮かべ、それに光のイメージを纏うのだ。
失敗した。
もう一度きちんとイメージする。光の短剣の感触、今掴んでいる、それを振り下ろす。
出来た。
忘れないように集中して繰り返す。
手の先から出せないだろうか、そうすれば間合いも伸びる。
幾通りか試し、指2本にすることで光のイメージを集約できた。
普通に木の枝を斬れ、手頃な大きさの小石を斬れるまで繰り返した。
勿論、オンオフ可能である確認も忘れない。
後は実地で試すだけ・・・普通の戦いでも使えそうだが、見られるわけにも行かないし。
著作権は斬るだけなら大丈夫だろう。
次回もザン編です。