ザンと英雄と大魔法使い(厨ニ)
森を少しずつ進んでいる。
以前から気になっていたネタを聞いてみる。
「あのです…あのさあ・・・」
「もっと自信持てよな。強いんだから」
何をおっしゃるウサギさん。
イジワのあの剣の速さと無駄のない動きを見て、驚かない者はいないだろう。
あれ、ウサギさんって、偉そうにしてたヤツがウサギか。激しくどうでもいい。
“俺”計画は一旦置いておかなければ聞きたいことが聞けない。
それに、強いって言うけどほとんど能力任せの力任せだ。
ちょっと待て、自分の存在価値って・・・話に戻ろう。
「英雄イジワと大魔法使いルナノ、だっけ?」
用意していたキラーセンテンスを一閃。ザンのこうげき!
「ああ、そうだよな。そのまんま同じに子供に付けてる親もいるし」
「“イジルの英雄譚”と“大魔法使いルーナ”って誰でも知ってる話だからね」
イジワとルナノはこうげきをうけながした!
「最初はね、2人共イジルとルーナってギルド登録しよう、って決めてたの」
「馬車に何日も揺られて2人で話してるうちに何となく、強くもないのにそういう名前って痛い、よなって」
「ちゃんと思い知らせてくれたのはあのおじさんね。命の恩人だわ!」
旅の途中で、冒険者引退して故郷で農業でもして身を立てるというおじさんが乗ってきたそうだ。数日で乗り換えるために別れたそうだが。
あれ?命を助けられたのでは?
「片足無くって、義足作るくらいは持ってるって言ってたけど、農作業舐めすぎよね」
「生きてて、貯蓄があるのはいい方なのかもな。もしかしたら仲間が餞別でもくれたのか」
あれ?命の恩人ではなかったのか?
「そのおじさんの名前がねー、英雄と同じイジルだったのよ。
おじさんがいなかったら、自分達も同じように名乗っていたかも、と思うと・・・」
「背筋が凍りそうだな」
命よりもっと大切なものを救ってくれたらしい。
最初に現れたというか倒したのはポイズンスパイダー。
木の上を自由に移動しているので、相当目を凝らさなければ発見できない。
それがいきなり落下して毒牙で噛み付いてくる。
順番で上を見ていたイジワが剣を毒袋を避けつつ数閃、器用だ。
足の無くなったスパイダーが転がる。
全員が上を見ていると首が痛いので順番であり、ちょうど担当のイジワの上だった。
他にはハイドバイパーが主なモンスターで、これは擬態して飛びかかってくる。
力が強く皮も硬いので手強いが、毒は持たない。一旦動き出せば擬態は出来ないので、巻き付かれずに切断できれば良い。
たまに噛み付くそうだが。
メインはオーガで、少なくともBランクの力がなければ全滅必至と言われている。
これらがそれぞれ住み分けて存在するようだ。
三人は二歩分も離れず、敵に合わせて対応できるように準備。
「緊張でチビりそうね」
もよおしたら2人が背を向け、中央すぐ側でする事になる。
この緊張状態では音など聞いても何とも思わないし、からかう気にもならない。
そもそもエリア手前で済ませてあるし、腹を壊したら来ない。
「なんか来・・・!」
いつでも跳べるように構える。
痩せているが引き締まった毛の少ない、長身のサル。
遠いが、敵の印象。
オークはたまに冒険者の落とした剣など持っているが、力の割に技術は無いに等しいので問題はない。
こいつは素手だ。
オーガは頭がいいそうだが、武器を持たず、自分の持つ敏捷性とオーク以上の力で戦う。人間の胴体など簡単に千切るそうだ。
オーガの来る線上へ跳ぶ。
一旦速度を落とした敵にこちらから一気に跳び斬りつける。
まさかこちらから攻めると思わなかったのか、一旦速度の落ちたオーガ。その腕を斬りつける。
僅かに傷をつけたが、避けられた。
左右に跳ぶオーガを追う。8割の跳躍では相手のほうが速い。
エイプなどの比ではない。
こちらも全力の跳躍で追いつけてもコケてはシャレにならない。
恐らくだが【丈夫な体】があればこいつの一撃で命を落とすことはないと思う。
だがこちらにも決め手がない。
どれだけの知能があるのかは知らないが、ニヤリと笑った気がした。
オーガは一気にイジワとルナノがいる方へ跳んだ!
決定的な悪手だった。
空中を跳ぶオーガに向かい全力100%で跳ぶ。追いつく。
首を一閃。
ルナノとそれを庇うように構えるイジワからなるべく離れるように左へ思い切り蹴る。
【足】の力か、ちょっと蹴りすぎたかも。既に事切れていたオーガは体が拗じれ飛んでいく。
自分も右へ逸れていく。
お決まりのゴロゴロと転がる展開だが、今回はナイスだ。
オーガは魔石以外特には持ち帰らず。
食べられないことはないが、誰も欲しがらず流通しないのだとか。
意外と美味かったりして。
魔石だけでも1万ジョネン、ひと月なら遊んで暮らせそうな金額だ。
蜘蛛の毒も量によるが、5000程度。
ここで儲けるならバイパーだろう。
大きさや質によるが5万はする。
頭の中で“15”の数字が見える。もう少し上がっても良さそうだが。
実は翌日オーガ1匹仕留めると16になり、後は数匹狩らねば上がらなかった。
実質は15.9くらいだったのかもしれない。
初見だったオーガの更なる対策等のため、その日は帰ったんだが。
オーガを仕留めたことをリーダーであるイジワが小声で言うと、受付のお姉さんに奥に連れ込まれた。
もちろん3人共。
ギルドのまあまあ美人の普通の受付のお姉さんはサエラというらしい。
やっと読めるようになった名札の文字を見ただけだが。
オーガについては特に問題ないらしい。無理しない様心配はされたが。
問題どころか、ハイドバイパー皮が手に入れば嬉しいとのこと。
5万ということは、マージンも結構取れてるんだろうな・・・。
防具にも使えるので、必要なら加工等安価で武器屋に回すとのこと。
自分で武器屋や加工業者に持ち込んでも構わないそうだが、その場合はギルドでの実績には加算されないようだ。
本題は、ドラゴン関係、というかひどく曖昧な話だった。
「オーガの出るエリアから少し戻ったところですね。こちら側からは険しすぎて一旦戻るか、戻る際に余程のことがあって迷いでもしなければ着かない所ですが、そこに子供らしき小さなドラゴンが行き来しているようです。
このドラゴンはBランク冒険者が遭遇していて、炎のブレスを吐くだけで、弱いそうですがすぐに逃げて追えなかったそうです。
その時の逃げ方、というのが・・・壁を作ったそうです。
目に見えない魔法の障壁のようで、触れると動けなくなります。
飛び越えようとしても同じだそうです。
しばらく経てば障壁の効果が消えたというか、それ自体消えたそうです。
実はこれに関する調査と討伐が依頼されています。
但し、実質Bランク以上の信用できる冒険者のみに限定されています。
詳しい事情は分かりませんが・・・」
実質Bランクか、なるほど。
現実のランクはまだまだ遠いけれど・・・。