氷解
大変お待たせしました。
これからもよろしくお願いいたします。
イジワは一人で小屋に入って行った。
相手は魔物では無い。
様子を見つつ、必要ならザンとユウのみが加わる算段だ。
意外にも、会った瞬間彼女は気づいた。
40代のはずが60歳くらいに見える。
「アレン・・・」
「かあさん、お久しぶりです」
「ああ、聞いたよ。新しい英雄さんのメンバーだそうだねえ。
おめでとう。
さあ、ひと思いにやっとくれ」
まるで、いや普通の親子の再会そのものだった。
だが最後の一言だけが異常だった。
これまで知っていた悪魔教の面々とはまるで別だ。
「仲間が来てます、さっき言ってた・・・。
会ってもらえますか?」
念話を受け、ゆっくりと小屋へ向かうザンとユウ。
イジワ含め、全員が意外な成り行きに困惑した。たとえ会えても一筋縄ではいかないはずだった。
「あの頃はただひたすら、無実の罪で追い出された恨みを晴らすことだけ考えていた。罪の無い人達をむごたらしく殺す事さえ平気だったんだ。
でもね、私は常に誰かとの関わりが無きゃ生きていけないんだねえ。
メイリア様、教祖様に出会ってからはただひたすらメイリア様のためだけに生きてきた」
3人が尋ねずとも、彼女は語っていた。
「ずっとうまくやってきたんだよ。
普通に商いの売上を工夫し、その一方で呪術用品を仕入れつつ素知らぬ顔で生贄の儀式を続けた、メイリア様のためだけに。
変わったのはアードスの死が伝わってきた直後だった。
一切使いの者が来なくなった、見捨てられたんだね。
さあ、役立たずの私を殺しておくれ!」
最後の言葉に激しい違和感はある。罪の意識ではなく「役立たず」だからだと言うのだ。
だが、この人は助けなれば。
ユウが動いた。
【想】で固定した白金色の魔法陣だ。
あらゆるものを癒やす力は、大聖堂の戦いで2人の悪魔教徒を完全浄化し、呪いをかけられた魔物を干からびさせた。
その効果は。
ユウは瞬時に魔法陣を消した。危なかった!
そこには干からび痩せ細った彼女の姿があった。
かつての魔物どものように死ぬ寸前だ。
『呪われ』であればとっくに死んでいるはず、これは『呪い』ではなく根源的で、かつ超強力なものだ。
だから『癒やし』が追いつかずぎりぎり死ななかった。
怪我の功名とでもいうべきか・・・。
「アレン、今までありがとう。もっと一緒にいたかった」
イジワに抱き支えられ弱々しい声を出すラリア。
悪魔教の影響が薄れたのは確かなのだろうか。
「まだ助けられるはず!」
ザンが2人の目の前で剣を構える。目を瞑り集中する。
イジワもユウも信じて待った。ラリアは意味の分からぬまま覚悟した。
数分経っただろうか、剣は光に変わった。
光の剣が無数に振るわれた。
かつて魔法陣を細断した時より速く、イジワの腕ごと斬りまくる。
斬れてない、肉体はどこも。
ひげ剃りCMを思い出す間も無い早わざだった。
――――
ザンは頭の奥のゲージに集中した。
全属性の時の左右の斬りと光、3ゲージ。
斬りを0に維持するのは訓練で可能になった、問題はここからだ。
ぴくりぴくりと光ゲージが少しだけ見えるが足りない、すぐ消える。
集中を続けるが変わらない、助けたいのに。
ふと、ルナノのあの時を思い出す。
大事な人。
『斬らずに斬る』
半分行かないがゲージが安定した、剣が変化し無我夢中で振った。
――――
「アレン」
「かあさん! かあさんだ!」
ザンとユウには何が変わったのか見た目には分からなかった。
イジワは瞬時に変化を見つけたらしい、昔の母に戻ったのか。
ユウはイジワの言葉を聞き、自分でも探った。
大丈夫だ、あとは信じるしか無い。
ぎりぎりまで魔力を使い、心の癒やしまで念じて魔法陣を放つ。
イジワの母ラリアの肉体は回復した。
心の癒やしはすぐには無理だろう、いつもの光と少し違った気はしたが。
心は日々の積み重ねで自ら癒せすしかない。
「これが話に聞いた『癒やし』のちからなんですね。
今なら何でもできそう・・・。
今まで恐ろしい事をやった自分がこんなに恵まれていいんでしょうか。
いえ、ともかくザンユウのお二人、ありがとうございます」
少しだが若さは戻っているが、削られた魂は戻っていない。
さっきまでは侵食というか、何かに蝕まれた状態とは天地の差だが。
何より、イジワの彼女を見る表情が笑顔だ。
それだけで充分かもしれない。
ユウは決めた、これから毎日彼女を癒やし、遠くからでも見続けよう。
忘れないようアツノにも一声掛けておく。
(よしっ、うん!
すけじゅーる管理は任せておくがよいぞ。
こんなんでましたけど)
久しぶりに出て来れ、フルゼリフのアツノだった。
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