帰郷
帰郷にあたってはどうしても連れて行かなければならない人がいる。
それぞれのパートナーだ。
ルナノとザンは問題無い。
リュリュさんの予定を考慮に入れなければならなかった。
昨夜すぐに確認、特別な事件でも無ければ休めるそうだ。
イジワが転移石を握りイメージを送り、ユウが魔力を流す。
一筋縄では行かないだろう。
父親や祖父が、たとえ本心で嬉しくともそれを素直に出してくれるか。
自分達の事を棚に上げて、冒険者を否定し続けたのだ。
時間がかかるだろう。
それを踏まえて先に訪問する。
一方ルナノは50万ジョネンもの大金を持ち出したのにサバサバしている。
理解してもらえなければ別にいいとまで言う。
当然だが、できれば和解して欲しい。
全員念の為のローブ姿で広場に出現した。
町中ではなく、昔イジワとルナノが冒険者ごっこをした丘だ。
すぐにローブを脱ぐ。
リリアも冒険者姿だ。
アードス討伐によって、彼女の正当性が証明された。
もう顔を隠す必要はない。
あの時生まれ変わったという思いもあり、リリアという呼び名のままだ。
帰宅は静かだった。
「ただいま」
「坊っちゃん、お帰りなさいませ」
執事だろう。
恐らく家族や屋敷の者全てが事の次第を分かっているようだ。
ザンユウ全員とリュリュがダイニングに通され座った。
シンヨルは若干狭い応接間で待つ。
割と質素な造りと広さであり、7人でも多いくらいだ。
2人、男が入ってきた。
イジワ、いやアレンとリュリュは立ち上がる。
「ただいま帰りました。妻のリュリュです」
リュリュの正式名は、リュリュ・ラミルス・ルノワとなっている。
最後が家名であり、公爵はルノワの名声を優先させた。
父親と祖父は無言だがイジワが続ける。
「ザンユウのパーティーメンバーです」
「へんぴな所までようこそ」
辛うじて父親が返した。
ザンが立ち上がったのに倣って、全員立ち上がって一礼。
全員着席したが、落ち着かない。
沈黙。
やがて、やっと父親が俯き気味だった顔を上げ、声を張った。
「立派になりおって!」
父親は堰を切ったように経緯を語る。
噂が届く前に速攻でラミルス公爵は手紙を送ったようだ。
そこには、イジワと出会った経緯から、昔ここを訪ねた事やその時の思い出話など全て話してしまった事が詳細に書かれていたそうだ。
アレンを許さなければ公爵自ら乗り込むと、脅迫めいたことまで書いてあったらしい。
祖父はうんうん頷いている。
「何はともあれ、ザンユウに乾杯だ」
祖父も頷く。
余計な事は話さないつもりのようだ。
さっきの執事とメイド一人がグラスを用意しワインのようなものを注ぐ。
乾杯の音頭を取ることはなく、父親たちは勝手に飲み干しおかわりする。
「リュリュさん、アレンをよろしく頼みます」
「わしからもよろしく頼みます」
「いえ、こちらこそふつつかものですが」
なんだか普通の遣り取りになった。
ザン達にも何か話したそうだが踏ん切りがつかないようだ。
「じゃあ、エビノ商会にも行くので。また来ます」
一応宿の心配をしてくれたが、もう取ってあると言っておく。
ゴザに帰ったり適当にできるので状況に合わせて考える。
エビノ商会本店の上階がルナノの過ごした家だ。
全員でぞろぞろ入るのはさすがにやめ、軽装のルナノだけ入っていく。
しばらく経つとルナノが戻り、家の入り口へ案内する。
2階へ上がると両親揃って待っていた。
「おかえり、よく生きてたな」「おかえり」
「ただいま、心配かけてごめんね」
涙の再会だ。
ルノワ家に届いた手紙の報せを受けて、両親は彼女がルナノと確信した。
ノートにびっしりと“魔斬の両腕”からザンユウに至る活躍が書き込まれている。
アイドルになるのを猛反対した親が、テレビに出たのをきっかけにビデオを溜めまくったりスクラップを全部保存しているパターンだ。
アレンと離婚したというのだけが心配だったそうだが・・・。
あれは家出の言い訳で、ザンと結婚しただけだと言うと笑っていた。
もしかして、ルノワ家でも勘違いしているかも。
持ち逃げした金を返そうとすると、あれは餞別で自分が払ったからと言い父親は頑として受け取らない。
本題であるイジワの実母ラリアの消息について聞く。
生きてさえ入れば転移で近くに行けるが、近況は聞いておかなければ。
彼女は支店長で売上げを伸ばし、一部で気味の悪い儀式の道具を扱ったが評判は決して悪くはなかった。
ひと月前、ちょうどアードス討伐の頃、一身上の都合で退職した。
行き先は分からないそうだ。
仕事があると告げて一旦別れる。
そういえば最後までルナノの本名は分からなかった。
その方がいいのかもしれない。
イジワのイメージにより、ラリアの近くへ跳ぶ。
山の麓の一軒家、ボロのログハウスにいるらしい。
「これは、感知出来なかったはずですね。
呪われなどとは種類の違う、アードスとも違います。
魂が侵食されている、とでも言うんでしょうか」
ユウの言葉は残酷な事実を告げていた。