実家
ザンとユウは新たな課題に取り組んでいた。
アードス達を倒して1ヶ月。
動きを待つが何の音沙汰もない、平和そのものだ。
ウインドからの報せもない、動けないのだろうか?
ザンは属性攻撃を極めつつある。
更にレベル上昇すれば分かることがあるかもしれないが。
それよりも、理解困難な課題が出ていた。
(物理的に斬らない究極の斬りを極めるのじゃ)
単一属性では左右の斬り、全属性では加えて専用のゲージが見える。
全属性時のそれらの奇妙な挙動は感じていた。
切れ味を示すらしきゲージを敢えて低く抑えた時、専用ゲージのみ増えた。
斬れないのに斬れる、なぞなぞみたいだ。
ユウは複数魔法陣発動に成功した。
感覚のみで反復練習の末にやっとのことで出来た。
【想】つまり魔法維持に関しては複数は無理なようだ。
アツノが『仕様じゃ』と教えてくれた。
(守りを極めるのじゃ)
引き換えに出された課題だ。
単純ではあるが、様々な方法がある。
アリアの結界のように障壁を持続できたら。
魔法具現化でもある【想】を使って作るが、最も効果のある方法を試行錯誤する。
イジワは本から抜き出された方法を全て試した。
出来たのは“光斬”に似た、遠隔の突き“光突”ともう一つ。
正直色々な派手な技があったが、興味があるのはもう一つの方だった。
連続の防御無視攻撃だ。
具体的に技名などは無いが、最も現実的で役に立ちそうだ。
これだけは信用して、出来るという前提で練習を続けた。
以前のように突き刺すのでなく、斬りの瞬間に発動することで出来る。
それ自体まだ未完成だが、“神速”と組み合わせることで突きも可能かもしれない。
ユウだけが知っていた。
世界の運命を握るプロジェクト。
アツノは重要そうで分かり難いヒントはくれるが、具体的指示はしない。
自ら何かを得ることが大事だそうだ。
確かにそうだが、本当の狙いは別にあるはず。
ルナノ、ルーナ、そして特にリリアに秘密の指示や講習をしているのだ。
新たな世界の構築へ向けて。
今日もその時が来た。
全員全裸だ。
風呂だ。
既にアリアの結界を活用して、健康的なおっぱい祭りは続行中だ。
実際に感触をそれぞれ確認しながら、食べ物や運動方法について語る。
アツノに絶賛放置プレイされ中のアリアは熱心に聞いているだけだ。
成長チェックなるイベントもあるが、都合により省略する。
ここ一月での新展開はおしり祭りだ。
黙々と洗い場で並んで背中を流す過程で行う、アツノのアドバイスだ。
部屋に帰ってからそれぞれの感想やアドバイスが交わされる。
女性にとっては重要なスタイル維持のための会話だ。
断じて、断じていやらしい物ではないのである。
楽しんでいるのは自分だけだとそれぞれが勝手に思っていたが。
世界は救われるのか。
9時頃だが、例によって全員集合。
今日はイジワもいる、この後愛の巣へ帰るそうだ。
「今日は俺から話がある、みんな気になっていたはずだが」
心当たりはある。
エビノ商会のラリアという人物、ウインドの裏切り者リストの最後に名前があった。
だが確かに同郷であるが、エビノ商会というのはルナノの実家のはず。
ルナノは特に何も反応していないが、イジワの表情が渋い。
以前も同じことを思った気がする。
「もう一月以上うごきがないですし、もうひとりは確かに気になるです」
「指示を待っているのでは話になりませんしね」
珍しくリリアがすぐに答えた。
「家出したからあんまり戻りたくないけど、イジワの件もあるからバレてるかもね」
「ああ、親父と爺さんにもちゃんと報告するべき時期だな。
まあそんな事は全然大した事じゃない」
エビノ商会とか具体的な名前は出ないまま『残り一人』ということで話は進む。
「あっ、エビノ商会ってのは私の実家になります。
旅費とか持ち逃げしてここに来たから帰りづらかったんで」
「金持ちが冒険者でここまで来るとは、すげえもんだな」
「いや、全面的にザンのおかげ。心も体も・・・」
続けてのツッコミができずロロが撤退。
「ラリアという人物は・・・俺の母親だ」
その場が凍りつく。
複雑な事情がありそうだ。
「彼女はうちの家政婦だった。
あらぬ盗みの疑いをかけられて追い出された。
真犯人は分かったが、復帰を断ったそうだ」
「10歳まで一緒にいたのよね。
おじさんも2番目の妻で子供が出来て、こだわりもなかったのよね。
イジワ本人は大事にされすぎだったけど」
複雑だ。
ここで語りきれない事情もあるのだろう。
「出来ればルナノと2人で片を付けたいが・・・。
ユウにもザンにも皆にも迷惑を掛ける」
迷惑などと・・・。
一番苦しいのはイジワ自身に決まっているのに。
「大丈夫です。絶対に解呪して元に戻します」
「オレも全力を尽くす、イジワの家族ならオレの家族でもある」
「あたしも」「俺も」「私もよ」(わしもじゃ)
なにげにアツノの同意があるのは心強い。
R15なのでよろしくおねがいします。