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ザン、始まりの森へ

ふわっと浮いた感覚とともに、僕は見知らぬ森にひとりで着地した。


ここはなだらかな山の中腹、遠くにはもっと険しそうな山々が並んで見える。

木々の種類は分からない、でも普通の日本の森っぽい。

50メートルくらい先はもう見えないが、それほど密集した森ではない。



至って平和な森。もしかしたらここは日本なんじゃないか?


結局、不思議な力で飛ばされただけ?

あるいは意識を失っているうちにここに連れてこられた?

などと想像してみる。




ガサ、ガサと何者かが近づいて来るのに気づく。一番手近な木に一応身を隠す。


現れたのは金髪外人風男女カップル、革鎧っぽい服装にそれぞれ剣と杖を構えている。

僕にもそう大した装備でないのは分かった。


ちょっと年季だけはある?いやいや汚れてるだけにも見える。

若い。新米冒険者かな?


「パーティーとはぐれたのか?」

「あ、まあ、そんな感じです・・・」


僕が冒険者に見えているらしい。


と、そういえば鏡で自分の姿を見ることも出来ていない。

自分の胸、肩、腰などを触ると、やはり革鎧っぽいものを着ているようだ。


傍から見れば冒険者だな、これは。


それも新品を見に付けた新米おっさん冒険者。

34歳のおっさんならそれなりの経験を積んでいるのが普通だろうが、とてもそうは見えないだろうね。


まあいい、色んな冒険者がいるだろうし。

商人や農民でうまくいかなくて、あるいは一攫千金を狙って冒険者になる者だっているだろう。


全くこの世界については知らないが。



大事なことに気づいた。


男性はもう剣を構えず警戒もしていない。

当然かも知れない、僕には何も武器がない。


武器無しで森に放置かよ!なんたるブラック!


「あー、よければ一緒に付いてくるか?」


「あっ、近くに町があるんですか」

「割と近いぜ、自分のいる場所も分からんのか?

・・・もっとも、俺たちの今日の上がりが無いからもうちょっとつきあわせて構わないならな」


彼がペアの彼女に顔を向けると、彼女も頷いた。



彼らはペアの初心者パーティー。

名前はイジワとルナノ。


イジワ、ルナノ・・・イジワルナノ、意地悪なの?背筋に戦慄。

僕は誰も知られぬまま、山中でこの二人に殺されるのだろうか。

殺されずとも身ぐるみ剥がれて、「お金はありませんから~」と泣きつき放置され、やがて獣か魔物に食われ・・・・・。


お金は無いはず・・・いや確認していなかった。

懐に革袋らしきものがあった。

こっそり中身を見る。

金に光るコイン、数枚はある。


これは駄目だ、殺害放置コース確定か?

いやいや、日本語でイジワル(2人あわせて)だけどもこちらとは言語が違う。

まさか、親が「命名:意地悪」なんてつけないし。



「知ってると思うけど、ここはゴブリンが出るから後ろと横にも気をつけろよ。結構素早いし」

「あ、はい」

「初級治癒と初級火魔法しか使えないけど、牽制と引きつけはできるからまあ大丈夫だけど」


ビクッとなりつつ生返事。

どうせどうにもならないなら、身を守ることに徹しよう。

覚悟を決めなければ。



彼らはなんとなく僕の事を聞いてくる。

ここは用意した設定どおりに。


全く普通の小さな、小さ~な商店で働いていたが、平凡な毎日に嫌気が差して冒険者を目指した、という感じ。

貯金でとにかく遠くに旅してきたからこの辺の常識は分からない。


なんで森に居たかって?

ちょっと考えたが、「興味本位で少しだけ森に入ったらいつの間にかここに」うんいい感じに言い訳出来た。

さっきとちょっと違ってる気がするが気にしない。



「ゴブリンの事言ってて良かったな。ほんとに初心者なんだ。

鎧はちゃんとしてるのに武器無しとか、間抜けだなー」

「わざわざ言わなくてもいいでしょ!

分かりきってるし・・・。あ、ごめん」


僕は「あはは」と照れ笑いするしかなかった。


やはりブラック確定だな。

いや、僕をここに送った「女神会社」のほうね。


武器無しで森に放り出すとか。




ふと、イジワが足を止め、背を屈める。

何かいる、っぽい。

「後ろ!えっ、オーク!?逃げろ!」


振り向くと、でかい!

人間で言えばレスラーを超えるような大男・ゴリラ。

オークだが。


もちろん全力逃走、しようとしてコケる。


シティーボーイ(おっさん)に山は無理です。

もう足も結構疲れてるし、何につまづいたかは分からんけどとにかく地面はデコボコだし。


逃げろと言ったはずのイジワは僕の方に走って来る。



オークはひとっ飛びに僕の上に飛びかかって来た。イジワは完全に間に合わない。

彼女は魔法でなんちゃらとか言ってたけどもう無理だろう。



何もできない、押しつぶされる。


かばう両手は一瞬で骨折、いや全身圧迫骨折、内蔵破r・・・終わった。


ドン、ぶしゃぁ




まだ意識はある。

あとの二人はどうしているのだろう。

初心者だったな、逃げ延びてくれれば・・・。


「生きてるか?」

「これってまさか?」


2人で何言ってんだ、逃げろよ。

僕はもう血まみれ、動けな・・・動ける?力は入るが、動けば傷口が開くだろう。


「ライトヒール!」

初級って言ってたな。

せめて出来るだけでもってことか。変化は感じない。



そんな事より、なぜ2人共ここにいる。

治療なんてしている・・・そうか、彼が落下したオークにとどめを刺したのか。


オークがどの位の強さかは知らないが、とにかく周囲は静かだしオークも沈黙している。

倒せたのか。


安心とともに、これからどうなるのかどっと色々なことが頭に渦巻く。

怪我は治るんだろうか、動けない僕はどうなるんだろうか。


彼らに救護義務なんて無いだろうし、そんな事していたら仕事は上がったりだろうし・・・。



「治癒が効かない、ぜんぜん」


そりゃそうだろう、死にかけに初級治癒って。

この娘はバカなのかな。

あっ、治そうとしてくれてるのにゴメン、と心の中で謝る。


「まさか、あんた無傷じゃない?」

意味分からん。



「どういう意味です?」


「重症でも、ライトヒールでも止血とか効果はあるのよ。

それで助かることもたまにだけどあるし。

で、全力で使っても全然魔力減ってないし」


「お前結構凄い?

引きつけての風魔法か、こんなにすっぱり切れてるし」


「すっぱりですか。

もう無理ならよいです、いや、よくないけど諦めます。

お金は差し上げます。

短い間でしたけどありがとうございました」



僕は懐から革袋を取り出す。

どうせ死んだら持っていくんだろうけど、僕が渡すほうが罪の意識も少ないだろうし。

ここでの『罪の意識』がどんなものか知らないけれど・・。


「おまえ馬鹿か・・・いやごめん」

彼女、(ルナノだったか)のジト目にイジワが言い直した。


「これだけ見事にオーク倒して、なぜか押し潰されかけて無傷って。

その上死ぬ前みたいなこと言って、ふざけてるのか?」


僕は腕を動かしてみる。

あ、さっきから動いてたか。


両腕を付いて上半身を起こす。

腹、脇腹、肩、それから大事なところを触ってみる。

最後は本当に念入りに、大事なのだから。


「ちょっ」

「おいっ」


無事だ!僥倖。


一気に立ち上がる。

誤解しないで欲しい。足で立ち上がる。

だいたい大丈夫と分かったので細かいことはもう気にならなかった。



視界の左上に“5”と出ている。

いや、視界じゃなく頭の中っていうか。


目に見えないけど認識できる。これはレベルだ。

1から5に上がったのが自分でわかった。


オークってこんなにレベルが上がるのか。


いやいや、5上がるってことが凄いのか普通なのか、魔物(モンスター?)でどのくらい強いのかとか全く分からん。



「良かった、2人ともありがとう!」


「礼を言われる意味が分からんが、まあ、良かったな・・・」

「すごい風魔法ね!ちゃんと見えなかったわ、悔しいけど」

「ああ、Cランクの奴が使うのを見たことがあるがこんなにスッパリ切れるもんなのか」



状況は分かった。


オークに襲われた僕はフライングボディーアタックっぽいのを受けた。


しかし、衝突直前で風魔法でオークを真っ二つに・・・。

風魔法?

魔法?



全然話違うよ―、女神さん!!

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