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空になった夕飯のトレーを二階の給食室に戻して、たまたまそこにいたおじいさんに声をかけてみたが、無視された。
2人して舌打ちすると、小柄で口紅の目立つお婆さんが「あの人、耳が遠いのよ」と教えてくれた。
この人となら確実に会話ができるとわかったので、2人は小柄な口紅の目立つお婆さんに
「部屋のテレビはちゃんと映りますか?」と聞いた。
するとお婆さんは口紅でベタベタする唇をピタピタ言わせながら
「私の部屋は通販、世界の秘境、時代劇が入るわよ。通販で黒真珠を買おうと思って一回の受付で電話を借りたけれど、繋がらなかったわ。回線が混雑してますの繰り返しだったの。世界の秘境はね、ひたすら美しい映像がクラシック音楽と一緒に流れているだけ。時代劇も、ちょっと古いわね。まぁ、好きだからいいんだけど」
本当にこの老人ホームはテレビの電波が届いていないのかもしれない。そもそもブラウン管テレビだ。
2人は不満を感じながらも、いつお金がもらえるのかわからなかったので一回の受付に行った。
「あー、お給料ね!……はい、今日は午後からだったから1人5千円。明日からもよろしくね」
5000円という額に2人はいささか不満ではあったが、確かに仕事を始めたのは午後からだったので仕方ないと思った。
「あれ?」タケシが足を止めてお札をまじまじと見てる。
「タケシさん、お札、見つめたって増えないっすよ」
「なんか変じゃない?白髭のおじさんが5枚だよ」
「千円札で5枚くれたんじゃないっすか?」
「うーん?なんかなぁ、なんか、違う気がする…」
ヒロシもタケシも、なんか違うという感覚で止まり、まぁいいか と部屋に戻った。
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ど田舎に来てから2日目。朝6時に起きて、朝食を貰い、朝食の時間が終わり次第そのテーブルの掃除を任されて、それが終わると外での仕事を命じられた。
それは、ひたすら穴を掘るしごとだった。
「畑仕事って、こんなに深く穴掘るもんすかね?」
「うーん、畑なんてやったことないからわからないけど、なんでこんなサイズなんだろうね」
ヒロシとタケシは、縦1メートル、横50センチ、深さ50センチほどの穴を掘れとスタッフの高橋さんから命令されていた。
軍手を履き、ザクッ ザクッとひたすら穴を作る。
「自給自足だから、有料といえど安く済むのかもしれないよね」
タケシは少し離れたところに実るインゲンやトマトを見て言った。
「にしても疲れるな。ドカタ仕事と同じようなものだ」
「午前で終わるからマシじゃない?」
「まぁ、な」
二つ目の穴を掘り終わった時、ヒロシは腕で額の汗をぬぐいながら視線を斜面に移した。
200メートルも奥に行くと、そこはもう山。
山の一部を切り取って平地にし、この建物を建てたのだろう。
「ん?」
見間違いか、ヒロシは木々の中に人影を発見した。
きっと枝とかが人に見えたんだろう。
「ねぇ、なんだかこれ、お墓じゃない?」
タケシが縁起でもないことを言い出した。
「このサイズ感。棺桶は入らないけど、土葬とか…」
「うーん、いや、畑っつうんだから畑なんだろ?」
自分たちが墓穴を掘ってるなんて考えたくもなかったのでヒロシはタケシの戯言を否定した。