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鬼の子、世界を征す  作者: ポレモン
5/6

エール

アルジャは女の子を抱え急いで家に向かったが、家に着くまでに辺りは完全に暗くなっていた。


家の前にはノワーとアーダが立っていて、アルジャが崖を登ってくるのを待ち構えていた。


ノワーは太い腕を体の前で構えとても怖い顔をしていたが、アルジャが近づいてくるにつれ、驚きの顔と共に走り寄って来た。


抱えている白い物の正体が分かったのだ。


ノワーが手を差し出してきたので、アルジャは白い少女を渡す。


間を開けずアーダがアルジャの前に跪き、強く強く抱きしめてくるのだった。


心なしか少し震え、その目には薄っすらと光るものがあった。


陽が沈んでも戻ってこない子供を、とても心配していたのだ。


「家に入ろう」


ノワーが妻と息子に語り掛けたのは、暫く経ってからだった。



女の子は全く目覚める様子は無かったが、呼吸も安定していて問題も無さそうだったのでベッドに寝かせ、


3人はテーブルに着き遅くなった夕飯を食べるのだった。


「何があった」


ひと段落付くと徐にノワーは尋ねた。


「海底洞窟で見つけたんだ」


アルジャより先ほどの出来事をたどたどしく説明を受けるも、さっぱり理解できなかった。


海の底に人が眠っていた?


それも羽の生えた女の子。


全てがノワーの常識の範囲外の話であった。



アーダは途中退席し女の子の様子を見にいった。


ベッドに横たわる彼女は精巧にできた人形のようでもあった。


存在感に乏しくとても希薄に見えるが、しっかり息づいているのが確認して取れた。


永い歴史を持つエルフでも、透明の羽を持つ種族のことは聞いたことが無い。


息子が嘘をついているとは微塵も考えていない。


アーダは女の子の頭を優しく摩り、現実を直視するのだった。



次の日になっても女の子は目覚めなかった。


アーダに任せノワーとアルジャは漁に出かけるのだった。



更に日が変わり夕方、アルジャが貝と海藻を取り戻ってくると、家の中から悲鳴が聞こえてきた。


慌てて家に飛び込むと、ベッドの上で暴れる女の子をアーダが必死に押さえつけていた。


髪を振り乱し、手足をしばたいてアーダの拘束を必死に逃れようとするも、五才くらいの女の子に大人の体を振りほどく力は無く、最後の抵抗とばかりに泣き続けているのであった。


「安心して・・・怖くないわよ・・・」


同じく髪をボサボサにしたアーダは女の子を腕の中に抱え込み、優しく語り掛けていた。


アーダの服は所々破けて、女の子の抵抗の凄さを物語っていた。


「お母さん!」


部屋に飛び込んでみたが、何が起こっているのかわからず入り口で硬直する。


するとアルジャを見つけた女の子は、アルジャに向かって手を指し伸ばし、さらに大きな声で泣くのであった。


恐る恐る近づくと、女の子はアルジャにしがみ付いて泣き止んだ。


暫くして女の子は眠りついたが、とても強い力で抱き着いていて、振り解くことは出来なかった。



日も暮れてノワーも戻り、家族の団らんが始まる。


ノワーの対面にアーダとアルジャが座る。


アルジャのお腹には、コアラの子供のように白い女の子がへばりついていた。


7歳の子供に5歳くらいの子供が抱き着いているのである。


アルジャの前面は視界が悪くとても不自由だった。


食べにくそうにしていると、アーダが見かねて食べさせてくれた。


少し恥ずかしく思いながらも、アルジャは嬉しかった。


「この子ずっと寝ているわね、何も食べなくて平気なのかしら?」


アーダは優しく頭をなでるも、女の子が目覚める雰囲気は無かった。


顔色は悪くない。かえって日増しに頬の赤みが増している。


「暫くはお前が付いていてやれ」


ノワーは昼間の話をきくと、アルジャにそう告げるのだった。



次の日アルジャが目覚めると、女の子は目を覚ましていた。


相変わらず抱き着かれたまま、青い目がアルジャをジッとのぞき込んでいた。


「おはよう」


言葉に反応すること無く、青い目はアルジャを見続ける。


起き上がると、アーダがしていたようにアルジャは頭を優しく撫でてあげるのだった。


青い目が細まり、女の子は気持ちよさそうにしていた。


昼間は庭で日光浴をしながら取り留めなく話しかけてみたが、女の子はアルジャを見つめるだけで声を発することはなかった。


背中の羽が陽の光を浴びで七色に輝きとても綺麗だった。


家事の合間にアーダもやって来て、女の子の頭を撫でていった。


そんな平穏な日が暫く続いた。


女の子はエールと名付けられた。


エールは何も食べなかったが、日を追うにつれ元気になっていった。



一週間くらい経った朝、アルジャが目覚めると


「おはよう」


相変わらず抱き着いたままではあるが、青い目を輝かせて初めて声を発した。


「おはよう、エール」


アルジャは優しく頭を撫でてあげてから、体を起こした。

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