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鬼の子、世界を征す  作者: ポレモン
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白い卵

アルジャに友達はいない。


島の東側には村があり、沢山の人が住んでいると父さんから聞いているが、行くことは固く禁じられていた。


アルジャの世界は、父さん母さんと暮らす崖の上の家、家の前に広がる空き地、崖の下の海。


これが全てであった。


空き地より東は森で覆われていたが、この森にさへ入ることは許されなかった。


小さいころ一人で森に入ったのを見つかったとき、父さんに一晩納屋に閉じ込められたのだった。


助けを求めて一晩中泣き叫んでも、母さんも助けに来てはくれなかった。


言いつけを守らない悪い子として捨てられてしまったのでないか?


月光も入らない真っ暗な納屋の中で、恐怖におびえた一晩をアルジャは決して忘れない。


泣きながら寝てしまったのだろう、


目を覚ますと母さんのベッドのなかにいて、抱きすくめられていた。


少し目元を腫らした母さんの寝顔をみて、二度と森へは入らないと心に決めるのであった。



アルジャの遊び場はもっぱら海である。


崖から飛び込みをしたり、父さんに作ってもらった銛で魚を取ったりもした。


綺麗な貝殻を見つけると母さんにプレゼントした。


「ありがとうアルジャ、とっても素敵な色合いね」


陽に翳し、光の変化を楽しむ母さんはとても楽しそうだった。


魚を食べれない母さんの為に海藻を取ってくるのも、今ではアルジャの仕事だった。



アルジャは父さんと同じ黒い髪をしていたが、全体的に母さんに似ていた。


顔の作りは端正で鼻筋は細く通っており、耳は空に向けて突き出していた。


日に焼けてすっかり小麦色になっているが、肌は乳白色をしていた。


目と髪の色に違いがあるがアルジャはエルフであった。


森の朝露を必要とし、風魔法の素養があった。


ただもっとも注意を惹くのは、赤い瞳だった。


昼の日差しの下では黒く見えるのだが、夜の暗がりの中では鈍い赤色を発した。


その目は特別で、暗闇でも物を見分けることが出来た。



家の下の崖には、海中に大きな洞窟が開いていた。


その穴はとても深く、普段は限界まで潜っても底は見えないのだが、


その日は年に一度の大潮だった。


家に帰る前に崖の上から見ると、普段は海の底にあたる部分まで潮が引いていた。


すると海中洞窟の中に、キラッと光る何かをみつけるのだった。


太陽は水平線にお尻を付けていた。


アルジャは急いで崖を降り、飛び込むのだった。


洞窟はとても深く、いくら潜っても底が見えなかった。


太陽は刻一刻と沈んでいき、あたりが闇に包まれていく。


おおよそ常人では周囲の判別が付かず、潜るのも困難な状況ではあるが、


アルジャの瞳は暗くなるとともに赤い光を増し、奥に潜む白い物体を見逃すことはなかった。


そろそろ戻らないと息が続かないというところでアルジャは洞窟の底へ到着した。


そこには半分壁に埋もれた状態の白い球体があった。


表面は滑らかで凹凸もなく、石のように硬かった。


球の大きさはアルジャの身長程あり、それを抱えて海上までもっていくのは不可能だった。


諦めきれず白い石を銛で叩くと、半分に割れたのだった。


より正確を期すなら、球体の正面が上部を支点として上に開いたのであった。


中には、白い何かが置いてあった。


海面の光は相当失われている、日没も近い。息も限界に達していた。


アルジャは白い何かを抱え、急いで海上を目指すのであった。



崖下の岩場に戻って来た時に、既に陽は沈んでいた。


西の空にその残滓を留めるも、東からは漆黒の闇が天を覆わんと迫っていた。


一息ついてアルジャは白いものを確認すると、それは白いワンピースを着た、自分より一回り小さい女の子だった。


長い髪は燃えるように赤く、肌は透き通るように白かった。


何より特徴的なのは背中に羽が生えていたのである。透明に輝くその羽は薄れゆく光を懸命に集め、キラキラと輝いていた。


しかし驚いている時間は無かった。女の子は息をしていなかった。


アルジャはノワーに教わった人口呼吸を思い出し、息を吹き込んでは心臓マッサージをするのだった。


数回繰り返すと、女の子の呼吸が戻り目がいきなり開いた。


その瞳は透き通るように青く、まるで大空のようだった。


しかし青い目はアルジャを見定めると直ぐに閉じてしまった。


呼吸は安定しているが再び目を開ける気配はなかったので、アルジャは女の子を抱きかかえ帰路を急ぐのだった。

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