プロローグ
光闇火水風土の六神が争いました
光の神が唯一神となり他の神と眷属を地上に落としました。
闇の眷属の鬼が地上を支配し、力を貯めて闇の神を復活させました。
闇の神は光の神に再度戦いを挑むのですが、負けてしまい
眷属の鬼共々、今度は地中深くに封印されてしまいます。
支配者の鬼がいなくなった後、
エルフとドワーフ・人間の間に戦争がおこり、エルフが勝利します。
エルフは連合王国をつくり、大陸を支配するのでした。
ここから話が始まります。
昔、エルフとドワーフ・人間連合の間に戦争が起こった。
敗れたドワーフは不毛の山脈へ、人間は辺境の荒れ地へ追いやられ、
豊かな大地はエルフの支配するところとなり、部族ごとに九つの王国を作りこれを治めた。
もともと他種族との交流を極端に嫌う性質であったが、おなじエルフであってもそれは変わらず、
九つの国は其々に結界をつくり、他部族との交流さえ禁止するのであった。
エルフは魔法に秀でていた種族であったため、その結界はとても強力で他種族にそれを破る術はなかった。
他の種族同士もエルフの結界に阻まれることによって、分割統治の平和な時代は長く続いた。
戦乱はエルフ九王国の一つ、ダークエルフ国から始まった。
本来エルフは風の神ベントの眷属であり、すべからくベント神に祈りを捧げ日々過ごしていた。
しかしダークエルフは太古にエルフとバンパイアとの間に生まれた者の子孫であり、
大概にしてエルフの特徴を備えている者たちであったが、闇の因子を体内に宿す者たちでもあった。
ダークエルフの国では永い隔絶の間に風の神ベントへの信仰はすたれ、闇の神オブスキュリテへのそれに取って代わったのだった。
闇の神殿の司教が王を廃し国政を担うようになると、ダークエルフは隣のエルフ国へ攻め込むのであった。
結界を過信し平和に浸っていたエルフの国は瞬く間に侵略され、北方のエルフ三王国はダークエルフの支配下に置かれるのであった。
他のエルフの国はドワーフと人間の国に助けを求め、ダークエルフの国を包囲することで、なんとか力の均衡を保つことができた。
大陸の北方に三分の一の領土を治めるに至ったダークエルフは帝国を名乗り、闇の神殿の司教は皇帝を僭称した。
南方の三分の一を治めるエルフの四王国は、大陸中央に君臨するハイエルフ国へ使者を送るのであるが、
強力な結界に阻まれ会うことができず、またハイエルフの国も沈黙を貫いた。
北方のドワーフの国と東方の人間の国は古の経緯によりエルフに非協力的ではあったが、帝国は両国にとっても脅威であり、不本意ながらも対帝国の包囲網に参加する形になるのであった。
そのような中、友好の懸け橋として両国の王の元に、うら若きエルフの王女が降嫁したのだった。
数年間は各地で散発的な戦闘がありはしたが、比較的平和な時間がすぎるのだった。
しかし帝国が旧エルフ王国の組み込みを完了すると、真っ先に最弱と思われた人間の国への攻勢が行われた。
一時期、人間の国の王都は陥落するのであるが、もともと人間の住む地は痩せており、掛かる費用に釣り合う対価が得られるものではなかった。
また人間は退去するにあたって徹底的な焦土戦術をおこなっており、ダークエルフは早々に退却を余儀なくされるのであった。
その王都陥落のさなか、王城に一人取り残される姿があった。
エルフの王女アーダである
人間によるエルフへの反感は強く、嫁いで来てより誰にも見向かれることはなかった。まるで存在しないかのように扱われた。
エルフの国から付いてきた女官達とは直ぐに引き離され、アーダには話し相手も居なかった。
王女という手前アーダは其れなりの待遇を受けているが、風の噂で娼館で妓女をさせられていると聞き、彼女らの安否を考えると居てもたってもいられない日々を過ごしているのであった。
そのような彼女のもとに更に容赦なく不幸はやって来た。ダークエルフの侵攻である。
真っ先に逃げ出したのは王と貴族連中だった。
彼らが王城の端々で談笑する姿も今は無く、城は唯々広く、そして静かであった。
城内の庭園にて何時もと変わらず鮮やかに咲き乱れる花を眺め、、アーダは誰にともなく語り掛けた。
「見捨てられてしまいましたか・・・? いや、あの方にとって、もともと私は存在していなかったのでしょうね」
人間との懸け橋になるべく送られて来たもののエルフに対する憎悪は凄まじく、王に謁見することは終ぞ叶わなかった。
「いま私に出来ること・・・」
木々の生い茂るエルフの森を、優しかった父王や母上を瞼の裏に思い描き、目じりより零れ落ちるものを彼女は抑えることができなかった。
年老いたエルフであれば永い年月の間に心の機微も失い、まるで大樹のように、どのような風雨が来ようとも決して心乱すことはないだろうが、彼女は生まれて間もないエルフであった。本来の胸の内は新芽のごとく若さに満ち溢れ、小さなことにも一喜一憂する多感な年ごろなのであった。
しかしエルフの国にいたころの天真爛漫な笑顔は人間の国に来てすぐに失われ、今では憂いに満ち溢れている。
『ダークエルフは闇の邪法により人の生気を食すと言う。』
自身の行く末に恐怖を覚えるも、見知らぬ人間の国で一人逃げることは不可能に近いことであった。
アーダが思索にふけるでもなく漫然と庭園を眺めていると、背後から一人分の足音と鎧の擦れる金属音が聞えてきた。
訝しみ後ろを振り向くと漆黒の鎧を纏った騎士が近づいてきた。左手に持つ兜には羽飾りがついている。
黒い髪を短くそろえ、黒い瞳は眼光だけで他のものを威圧する。浅黒い肌は精悍さがにじみ出て、まるで御伽噺にでてくる魔人のようであった。
あまりの黒々しさから、一瞬ダークエルフがもう攻め込んできたのかと思ったが、騎士の胸にある人間の王国の記章を目に止め、安堵の吐息をもらすのであった。
騎士はアーダの前まで来ると跪き
「王女殿下、間もなく敵が参ります。早く落ち延びられませ」
「貴方様は? 場内で見かけたことの無い鎧を纏っておられますが」
「私は黒の騎士団団長ノワーと申します。陛下より王城の死守を命じられました」
「そうですか。お勤めご苦労様です。ノワー殿、寸暇も惜しい時に時間をお取りして申し訳ありません。私に構わず、自身の務めを果たされませ」
「は、御心のままに。して、殿下はこちらで如何なされておられるのでしょうか?」
「私は・・・。私はどうやら陛下に捨てられてしまったようです。かくなる上は城と運命を共に・・・」
ノワーは顔を伏せたまま動かず、アーダは逡巡する。
さりとてアーダには他に掛ける言葉があるわけでもなく、
この場を去るにしても、最後を迎えるにあたり思い入れのある場所はこの庭園以外思い浮かばなかった。
この城にきてより自身を押し殺すことに慣れきってしまっていた。
アーダは足元に咲く花のように、唯々その場に佇み続けた。
あとは身の回りを世話してくれた人間のメイドのように、ノワーが能面を張り付けたような無表情な顔をしてこの場から去るのを見送れば、僅かばかりの時間といえ、楽しかったエルフ王国の思い出に耽ることができると思い、虚空に視線を彷徨わせるのだった。
ノワーは膝まづく前にアーダの瞳から零れる涙を見落としはしなかった。
輿入れより数年、公の行事に参加することのないアーダは人目に触れることは無かった。
しかし近衛ではないにしても騎士団の団長であるノワーは城へ来ることもあり、数える程ではあるがはアーダの姿を目にする機会があった。
陽を反射し輝きをます金色の髪、森の賢人と謡われるのももっともと思える深く澄んだ碧眼。女神を象ったと言われても頷ける繊細な顔立ちに尖った耳がミスマッチしていてアクセントを醸し出していた。細くしなやかな体は抱きしめたら折れてしまいそうだ。
そして何よりも、儚く佇むその姿に、たとえ王女と分かっていても惹かれずにはいられなかった。
ノワーもまた王に嫌われる虐げられる存在だったからであろうか。
故に全滅必至の王城防衛を仰せつかり、今ここに居るのである。
王の避難の時間を稼ぐため、命を賭して時間を稼ぐことであるが、
黒の騎士団に至っては、仮にダークエルフを撃退したとしても名誉を与えられることはなく、
撤退しようものなら、反逆罪で死罪を仰せつかるのは目に見えていた。
王国において、黒目・黒髪の人間は唯一神リュミエールに反逆した鬼の一族の末裔と信じられ差別を受けているからである。
身体能力も一般的人間より高く兵士向きではあるのだが、粗暴な振る舞いをするものが多く、街中では生き辛かった。
実際にほとんどの者が賊に身を落とし、兵士に成れるものは稀であった。
それ故、賊を捉えると黒目・黒髪であることから、さらに嫌われるという悪循環をもたらしているのだった。
賊退治を他の騎士団は忌避したので、黒の騎士団が優先して討伐を命じられた。
中には家族を盗賊の中に見かける者もあり、賊との戦いはシュールを極めた。
ノワーは思う
黒目・黒髪というだけで蔑まれてきた日々を。
民衆を守る為ではあるが、手にかけてきた黒目・黒髪の同胞の姿を。
ここしか居場所がなく耐えてきたが、今国が滅びようとしている。
俺は命に値するだけの恩をこの国から受けただろうか?
騎士でありながら目の前にいる女一人助けられないのか?
離れたところにある泉から湧き出る水の音だけが、今この空間を支配していた。
「・・・捨てられた者同士・・・」
ノワーは顔を上げ、アーダを見上げる。
王の怒りを恐れ、城に居る全ての者から無視され続けた女を。
しかし其れは生まれ持った高貴さを全く損ないはしなかった。
だが今、彼女は生きる望みを失い碧の瞳をくすませている。
その姿はとても儚く、空気に溶けて消えてしまいそうだった。
ノワーは立ち上がり、アーダの両肩にそっと自身の両手を添えた。
ガラス細工で出来ているかのような華奢な肩は、少し力を込めれば容易に壊れてしまいそうだった。
「要らないというのなら・・・」
黒い目に稲光が走る。
不敵に顔が歪む。
それは鎖に縛られた猛獣が野に放たれる瞬間だった。
「要らないなら、俺が貰おう」
ノアーは驚くアーダをしり目に軽々と抱き上げると、大股で庭園を後にするのだった。
ダークエルフ軍が到着したとき、本来防衛に当たっているはずの黒の騎士団の姿は無く、王都は無血にて開城された。
しかし街には猫の子一匹存在せず、食料は全て持ち去られた状態であった。
ダークエルフ軍は数か月占領したものの、得る物無くして撤兵を余儀なくされるのであった。
暫くして黒の騎士団の中には、賊に身をやつして捕縛されるものもいたが、団長ノワーの行方は終ぞ知られることはなかった。
エルフの王女アーダについては、ダークエルフに連れ去られ行方不明と公式に発表された。
アーダはダークエルフを見たことがありません。
ダークエルフの外見は
銀髪・紫目・黒い肌(黒檀のような)を予定しています