最終試練
石を投げられて以来、ずっと考えてきた。
何故人類に嫌われたのか。なにがいけなかったのか。その答えが、恩を押し付けるような偽善とも言える思想を持っていたからだと、カイは気づいた。
見ず知らずの男が訳の分からないものを勝手に作り出し、これはあなたの生活を便利にするものです。と言ったところで、その裏に「だから私に感謝し、尊敬の念を抱きなさい」というメッセージがあるように聞こえてしまう人が、少なからずいたに違いない。
他人に理解しがたい道理は、他人に都合のいいように解釈される。カイが心の底から人類のためと思っていても、それは受け取る者の受け取り方次第で変わるのだ。
だから、とカイは続ける。
「だから、私は人類のためでなく、大切なものを守るため、大切な人との生活を守るために、魔法を学びたいのです」
そういって、腕にしがみついていたシアを胸中へ運び、優しく抱擁した。シアの耳が赤く染まり、体温がぽっと高くなるのを感じた。
カイは、だからといって人類を見放したわけではなかった。自分自身、何故人類のために身を粉にして研究し動いてきたのかを考えると、寂しさを埋めるためという理由に思い当たった。誰からも一歩距離を置かれた存在として生きてきたため、寄り添ってくれる、必要としてくれる人を求めていたのだ。
しかし、今はカイを必要とし、寄り添ってくれる人ができた。シアである。
「大切な人を守るため、か...。
十分に、魔法を学ぶに値する理由だ」
「..................っ!それでは!」
「辛く厳しいぞ。付いてくる自信はあるのかね?」
「もちろんです!」
自分を一歩前に進めるため、カイはドルイド族に魔法を習う。
1年の月日が経った。
といっても、それは現実世界における1年であり、体感時間は5〜6年とも言える。
そして今まさに、最終試練が行われていた。
「ハァァァ!!!」
ムンウェルの周りを囲うように現れた業火は猛々しく、地獄の炎を思わせる。
「マグナ-アルボアッ‼︎」
そしてムンウェルの直下から、凄まじい勢いと力強さで大樹が発生し、ムンウェルを開いた幹の中へ閉じ込めてしまう。
それを確認した刹那、炎に働きかけその大樹ごと燃やしてしまった。熱量は近くにいるだけで溶けてしまいそうなもので、触れることはおろか見ることさえ苦痛なほどまばゆい。大樹は燃やし尽くされ、カイは炎を振り払う。
しかし、カイの額に浮かぶ汗は、まだ終わりではないことを教えるように溢れてくる。
「ここじゃっ!」
突如背後に現れたムンウェルは、手にしていた杖をカイの頭に当てるなり大破させた。
しかしムンウェルは、その無機質な感覚に違和感を覚え、そしてそれが泥で作られたドールだと気づく。
そして、次第に体が重くなる違和感にも包まれた。
「グラビティアルッ‼︎」
その声はムンウェルの頭上から降り落ちる。
地面に着地したムンウェルはクレーターを作り上げるほど重たくなり、次第に強まる自身への重力の負荷に眉をひそめる。
しかし仰向けになったムンウェルは口から小さな光球をとばし、カイの目の前へと動かす。
カイは一瞬だけそれに動揺してしまい、そしてそのコンマ数秒はムンウェルにとって十分な稼ぎだった。
光球は信じられないほどの光量を放ち、目の前にいたカイは思わず目を閉じる。このままではまずいと姿を消す瞬間、ムンウェルはカイの胸ぐらを掴んだ。
「これを耐えて見せよォ‼︎カイィィ‼︎」
「ウゥォォォオオオオ‼︎‼︎」
ムンウェルはカイを掴んだまま自由落下に身を任せ、杖先に禍々しい玉を形成する。カイはそれに対抗するよう手のひらを覆うような膜を形成する。
「くらぇぇぇぇ‼︎」「ティヤァァァア‼︎」
着地と同時にぶつかり合う杖先と手のひらはお互いの爆発力を相殺し、あたりに多大なる損害を巻き起こした。