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第八話 天海へ


それから数日が経ち、ルシェの体調も整ってきた頃出港することになった。

人員は俺とルシェとなぜかシエナの三人だ。

ルシェの体調管理のために乗り込むのだとか。


俺は最後の調整と称して飛空艇のメンテナンスをしている。

ルシェ奪還の際に結構無茶な操縦をしたが逆鱗を使用していたおかげか飛ぶのに支障はなさそうだった。

「あ、ここの装甲強化しておこうかな……」

細かくない傷がついた箇所がある。

竜鱗の粉末を混ぜたパテをそこに塗り込んでいる時だった。

「あの、ハルト……?」

「え?あ、どうしたルシェ?」

「忙しい所ごめんなさい……あの、これどう、かな?」

少し恥ずかしそうにやってきたルシェはどうやら着せ替え人形にされたらしく海の民のちょっとふわふわした服を着せられていて、その場でひらりと回って見せる。


「控えめに言って可愛い」


思った事を偽りなく伝えると困ったように顔を伏せた。

耳まで真っ赤になっている。

可愛い。

「ハルトってそういうこと普通に言いますよね!」

「思った事を口にして何が悪いのか」

「は、恥ずかしくないんです?!」

俺は飛空艇の壁にルシェを壁ドンする。

空いている手で彼女の髪を掬い取ると口づけた。

「こういうこと、俺が恥ずかしくないと思ってるのか?」

「ひぇ……」

きっと今俺の顔も赤くなっているに違いない。

精一杯の努力の結果がこれだからだ。

「は、ハルトさん……!」

「ハルトでいいって言っただろ?」

「ハルトぉ……これ、見られてるんですよぉ……」

そう言って顔を覆ったルシェに慌てて腕を離して当たりを見回すとアクアマリンがしてやったりとしたどや顔でこっちを見ていた。

あれ、親父もいねぇか?

「ちょ、おまえら!!」

慌てて野次馬共を追い払う。

「悪いルシェ、でも俺も本気だから……」

「ふぁい……」

ゆでだこのように真っ赤になったルシェも可愛らしい。

彼女は着替えてきますと言って逃げて行ってしまった。



◆◆◆


「シルフィオン号出港する!」

その掛け声に合わせてエンジンが浮力を発し始めた。

あれからルシェやシエナからの視線が痛い。

それを気にしないようにして俺は舵を切る。

この世界で展開に行くためには二つ手段がある。

一つは飛空艇によって雷雲を超えていく方法。

もう一つはチケットと呼ばれる海の民を連れて海柱を昇って行く方法。

今回は小型の飛空艇なので雷雲を超える方法を選ぶ。


この世界は下と上空を海に覆われた水鏡の世界だ。

丁度飛行大陸の真上あたりに異常な風や雷雲がとどまっている事が多い。

今日はその中でも風の影響が少ないと思われているポイントを狙って上昇していく。

雷雨がバリバリと船体を削る。

風も吹きつけているので船内はシャッフルされているような状態に陥った。

「うわぁあ!」

「きゃあ!」

「しっかり捕まってろ!!」

思い切り揺れる船内で側面パイプに捕まっていたルシェが体勢を崩してこちらに倒れこんでくる。

「おっと」

慌てて受け止めるとぎゅっとしがみ付いて来た。

なんだこの可愛らしい生き物。

「もうすぐ抜けるぞ!」

雷雲の先に光が見えた。

ぶわぁっと雷雲が晴れていく。


クォオオオン


と天海クジラの鳴き声が聞こえる。

天海クジラの背に生える無数の結晶体が太陽ほど強い発光をしていた。

まさかこんなに間近で天海クジラを見る日がくるとは思ってなかったので感動する。


「すごい……」

シエナが言う。

その言葉に頷いた。


「天海クジラの背なかに、人魚種の街があると聞きました」

「わかった」

そう言われて飛空艇の進路を天海クジラの背なかへ向ける。

天海クジラは逃げることなくその場に浮上し続けていた。

よくよく近くを見ると発着場らしい場所をみつけたのでそこに降りる。


そこではふわふわと浮いた人魚種が出迎えてくれた。


「人間と混ざり物が何をしにここへ来た」


行き成りの暴言に少し不機嫌になる。

「アルス様に謁見しに参りました。ルルティアと言えば通じるはずです」

俺が何かを言い返す前にルシェが言った。

その言葉に何か覚えでもあるのか人魚種の男はここで待つように言い中へ去って行く。

アルス、その言葉に聞き覚えがあった。

ルシェと昔婚姻をする予定だった人魚種の名前だ。

ここでも奴の面影を見ることになるとは思わずさらに機嫌が下降する。


暫くすると男が戻ってきた。

「王が謁見を許可された。ついてこられよ」

そう言って先頭を行くので三人大人しくついていく。

いくつかの視線を感じながら、辿り着いたのは大きな扉の前だった。

「この中に王がいらっしゃる。中へ入るといい」

じゃあ遠慮なくと扉を押し開けて中に入るとそこには人魚種が二人しかいなかった。

1人は玉座に座り、もう一人は傍に控えている。

「やぁ、ルルティア。無事だったんだね。その様子だと血を分け与えたのかい?」

そう言った王の視線が俺を捕らえた。

その視線に少し敵意を感じる。

「久しぶりねアルス……分かっているでしょう?私と彼を人魚症候群から解放してほしいの」

「それで君はいいのかい?せっかく得た永遠を失うことになるよ?なんならここで僕の妃になればいい」

ルシェは首を横に振る。

「私は十分なほどに生きたわ。元々永遠を生きる貴方達と違って私にとって永遠は地獄そのものよ」

フラれた。それを理解したのか王の視線が落胆に変わる。

「……分かったよ」

アルス王が手を一振りするとルシェと俺の体から何かが抜き取られる感覚があった。

ルシェに至っては鱗状になっていた皮膚がもとのすべすべな肌になっている。

俺の紫色だった髪色も元のオレンジ色に戻っていた。

こんなに簡単に戻せるものだったのか。

「さぁ、もう行くと良い。君の顔はもう見たくないよ」

最後にアルス王を見ると悲し気な表情でルシェを見送っていた。

追い出されるように結晶の城を後にすると人魚種の一人が飛空艇を整えてくれている。


そこでシエナがいないことに気が付いた。



◆◆◆



「君は行かなくていいのかい?」

アルス王の言葉に私は首を横に振る。

「いいえ、一つ聞きたい事があるの。貴方達の周りでレイドという男が現れたりしなかったかしら?」

ポケットから紫色の透明なカードを取り出して王へ向けた。

その行動に攻撃の意思を感じたのか傍に控えていた男が剣に手をかける。

「よい。……我の周りではそのような名前も、怪しい人影も現れてはいない」

そう言えばカードはキラリと光った。

「嘘はないようですね。ありがとうございます」

そう言って出て行った二人を追うように謁見の間を後にする。


二人は飛空艇で待っていた。

「ごめーん!迷子になっちゃて~!」

「お前何してんだよ……」

呆れたように言うハルトの足に軽い蹴りを入れる。

「いって」

「ほら、早く行こうよ!」

二人より先に乗り込むと呆れたようにため息をついた二人も乗り込んできた。



◆◆◆



再び雷雲を抜けてボロボロになりながらも海の民の国に帰り着くと、待っていたのかアクアマリンたちに出迎えられた。

早く行きましょうと飛行艇のタラップを降りていくルシェとシエナに呆れながらも飛空艇を降りる。

「あの、ハルト、さん……」

躊躇いがちにこちらを向いたルシェが手を差し出して来た。

「ハルトでいいって言ってるだろ?」

そう言って俺はその手を掴んで引き寄せる。

ぎゅっと抱きしめてその唇にキスをした。

周りから囃し立てるような声が聞こえるが無視する。


「そろそろ返事くれてもいいんじゃねぇの?」


唇を放しでぺろりと舐める。

すると顔をトマトのように真っ赤になった。


「ふあぁああ……!」


意味不明な声を上げて俺の腕の中で悶えるルシェも可愛らしい。

もう手放す気はなかった。



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