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第六話 歳月



がはっと詰まっていた息を吐くように意識を取り戻した。

目を覚ました部屋は薄暗く、時刻が夜であると知らせてくる。

「ハルト?起きたのか?」

そう言ったのはベッドサイドに座っていた男だ。

窓からの月明かりでかろうじてそれが知っている人物だと分かった。

「親父……?それじゃ、ここはソールなのか?」

それは数年前に音信不通となった親父だった。

親父は俺の問に首を横に振って違うと答える。

「ここは海の民の都だ。お前、何があったか思いだせるか?」

「海の民の都……?俺はリバティアにいたんじゃ……そうだ!ルシェ!助けないと!!」

あわてて起き上がろうとすると腕に力が入らずベッドに倒れこんでしまう。

「落ち着け!彼女は無事だ……今のところはな」

「どういうことなんだ……?」

この力の入らない体は一体何なんだろう。

しかも抉られたはずの脇腹の痛みが無い。

「落ち着いて聞け……お前はリバティアでファレナに襲われて瀕死の重傷を負った。その後設備が整っているこっちに移されてきて二年間も眠ったままだったんだ」

「にっ?!二年もだって?!」

「それにこれを見ろ」

そう言って親父が二年で伸びた俺の髪を掬い取る。

月の光しか判断できる材料はないが俺の髪の色はソールの血が色濃く出たオレンジ色だったはずだ。

それが今みている色は紫色に見える。

「な、んだよこれ……俺、どうしちまったんだ……?」

髪の色が変わるなんて通常ありえない。

「それに関してはアクアマリン様から説明がある。今は眠って体力を回復させるんだ」

親父は俺に眠る様に言う。

確かに疲れているのか瞳を閉じれば睡魔がやってくる。

俺は抗えずに眠ってしまった。



◆◆◆



翌朝、アクアマリンが俺の元へ訪れた。

入口に護衛のラピスラズリをたたせている。

「ハルトさん……目が覚めてよかったです。……アクアリスタの問題に巻き込んでしまってすみません」

「そんなことより、説明をしてくれ。何が起きているんだ」

そう言えば申し訳なさそうに瞳を伏せる。

「人魚症候群……お聞きになったことはありますよね」

「あぁ、だんだんと人魚になっていくって病気だろ?」

「ルシェはその人魚症候群の感染者、つまり人魚なんです。彼女は人魚としてとても長い時を生きています。それこそ、ハルトさんよりもっともっと長く」

「……」

急に言われても信じられない内容だった。

ルシェが感染者で人魚?だって彼女に感染者の証である鱗は無かったし、人魚らしい鰭もなかった。

「ハルトさんは『人魚の血肉を喰らうと不老不死を手に入れる』って聞いたこと、ありませんか?」

「……ある」

でもそれは子供の頃に聞いた童話の話の中でだ。

現実に人魚がいようが不老不死なんてありえないと思っている。

「これは代々のアクアマリンとラピスラズリしか知りませんが事実ルシェは年を取りません、故にファレナに狙われていたのです。その実験体として」

だからずっとオレンジのフードの連中に追われていたのか。

ルシェが俺に言えなかったのはこのことじゃないだろうか。

「じゃあ何か?ルシェは今もまだ実験体として利用されつづけているっていうのか?」

「アクアリスタとソール両方から彼女の返還を要求していますが未だのまれていません……ですので恐らくはその通りかと」

「早く助けに行かないと……!」

「待ってください!」

今の俺はアクアマリンの細腕にすら叶わないほど力が衰えていた。

ベッドに押し戻されて少し落ち着く。

「ルシェが生きている証拠はあなたです。ハルトさん」

「俺?」

「貴方には今ルシェの血が混ざっています。人魚の血が。だから怪我も治っていますし、髪の色は恐らくその影響で変わってしまったんでしょう。それが彼女が生きている証です」

俺はのびた髪を掬い取る。

この色はルシェがくれた色なのか。

きっとあのキスの時に血を飲まされたんだろう。

死なないで、と彼女は言っていた。

だから生きるために人魚の血が俺を生かしたんだ。

「俺は今……人魚、なのか?」

「いえ、おそらく半分人魚半分人間な状態だと医師が言っていました」

「そうか……」

彼女と同じ人魚なら喜んでなった。

そうすれば同じ時を生きられるから。

「アクアマリン、俺は彼女を救うためにこれからどうすればいい……?」

「まずは安静にして体力を戻してください。何をするにも貴方の体がついてこれなければ意味がないので」

つまり早まるなと暗に釘を刺されてしまった。

「……わかったよ」



◆◆◆



それからの数か月はリハビリをして過ごした。

二年という歳月は俺の体をボロボロにしてしまっていたらしくこれがとてもこたえる。

しかし人魚の血のおかげか数か月で日常生活に支障が無いほど動き回れるようになったのは奇跡だと医者に言われた。

今度は不意打ちをされないようにと剣の稽古も親父に習っている。


「違う!そうじゃない!右からの反応が遅すぎる!」

「わかってる!!」


ガンガンと木剣で打ち合う姿は親子には見えない。

汗が飛び散るレベルで打ち合う。

日の民である親父は元ルビーの護衛ロードナイトだった時があるため指南役としては最強だったりする。

いくつもの打撲跡を着けながらも親父に向かって行く。


ルシェが攫われたのは俺の見通しが甘かったからだ。

あんなに早く敵が動くと思っていなかったうえ人ごみに紛れているからと安心したから。

ルシェ、めちゃくちゃ泣いてたな。

涙を拭ってやりたいのに体が自由に動かなくて、悔しくて……


あんな思いはもうごめんだ……!


「ああああああああ!!」



今日も渾身の一撃を叩き込むのだった。




◆◆◆



ある日、アクアマリンに呼び出された。

俺の体調も整い、ルシェ奪還の手筈が整ったとのことだ。

会議室に通された俺は親父の隣の椅子に座る。

「今回の作戦は少人数で行います」

そう告げたのは1人のラピスラズリだった。

「ファレナにはすでに何人ものスパイを送り込んでいますのでその片に手引きしてもらうことになる」

「ただし、ルシェの周りの警護は厳重にされていて普段でも近づけないようになっているのよ」

「だから日の国側から抗争を仕掛ける。つまり陽動作戦だな」

作戦日時も決まっているらしい。

説明されるままに頷いておく。

親父は日の国側の人間なのでそちらに参加する。



俺は数人のラピスラズリと一緒に突入部隊に編入されることが決まった。





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