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第四話 日の民



作業を一通り終えて昼ご飯を調達しに外にでると何やら市場のほうが騒がしかった。

近くにある店で肉を挟んだパンを二人分買う。

嫌な予感がしてそちらへ向かうと案の定今朝のオレンジ色のフードの連中が問題を起こしている。

どうやらルシェらしき人物が見つかってしまったらしく騎士が露店を片っ端から調べていた。

その中でこっそりと裏路地に入る灰色のローブが見えた俺はそちらへ向かう。

ちょうど曲がり角のあたりで灰色のローブとぶつかる。

「あ、きゃ?!」

「おっと、悪い。大丈夫か?」

ぶつかった衝撃で倒れかけたのを支えて立たせた。

ルシェの方はぶつかった相手が俺だと分かって安心したのか小さく息を吐く。

「は、ハルトさん……」

「いいからこっち、ここもすぐ見つかるから」

そう言って彼女の手を取って俺の工房へ向かう。

工房の中はあまり掃除していなかったのですこし埃っぽい。

「悪いな、たまにしかこっちに来なくて掃除ができてないんだ」

「いいえ、大丈夫です」

埃を払った椅子にタオルを敷いてそこに座ってもらう。

「さっき暴れてたのは今朝の連中だよな?」

そう確認を取れば彼女は申し訳なさそうに頷いた。


「事情はアクアマリンから聞いた。俺にも手伝えることがあるなら言ってほしい」

「アクアマリン様が?!」

「そ、俺の友人。イーリスって言うラピスラズリ候補経由で知り合ったんだ」

驚く彼女に知り合った経緯を説明する。

「イーリス、そうですか。彼が……」

ちらりとルシェの視線がドックに繋がれている飛行艇に向いた。

「あれは……?」

「俺の親父との合作。まだ未完成だけどな」

機械は心臓が無ければ動かない。

「ハルトさんは飛空艇技師だったんですね」

「あぁ、一応な」

そう言って備え付けてあった紅茶パックで紅茶を入れて差し出した。

「安物で悪いな」

「いいえ、ありがとうございます。二度も助けられちゃいましたね」

一度目は朝。

二度目は昼。

次は夜か?なんて思いながら紅茶を口にする。

俺は買っておいたパンを一つ差し出す。

「いいいいくらなんでもそこまでもらうわけには!」

そう言った所で再度彼女のお腹がきゅるると鳴った。

どうやら隠し事はできなそうだ。

諦めたようにパンを受け取って食べ始める。

味の濃い肉の肉汁を柔らかい白パンが吸っていてうまい。

俺のお気に入りのご飯の一つだ。

ルシェはうまく食べられないのか口の端から汁が溢れている。

自然とそれを親指で拭ってぺろりと舐めた。

「あ」

「あ」

ついやってしまったがこれはセクハラなんじゃ。

普段の自分がやらないような行動に驚く。

お互いに顔を赤くして顔を背けてしまう。

「わ、わるい!つい!」

「あ、いえ、その、私こそごめんなさい!」

あわわと慌てる姿が可愛い。

これも惚れた弱みかな。と俺は彼女を助けることに覚悟を決めた。


「アクアマリンからルシェが天海を目指していると聞いた」

「?!」

「実は俺もこの飛空艇を使って天海に行くのが夢なんだ」

「この飛空艇、で?」

問いかけに頷く。

「だから、協力しないか?」

「ですが、私にできることなんて……あ、これなんてどうでしょうか?」

そう言って彼女がカバンから取り出してきたのは瓶に入った真球状の薄緑色の結晶体だった。

「あ、危ないので蓋は開けないでくださいね」

「え?これは……?」

見間違えでなければ高純度の飛翔石に見える。

だけどこんな加工をされた飛翔石は見たことが無い。

「いつか、飛行艇を手に入れた時にって作成したものです」

「作成?!」

「あ、そこは、その……あまり聞かないでください」

困ったように俯いてしまった。

どうやら話せない事情が他にもあるらしい。

「悪い。聞かないようにするよ。で、これは使ってもいいものなのか?」

「はい。ぜひ使ってください!」

紅茶を置いて俺たちは飛空艇の方へ向かう。手すりにも少し埃がつもっていたので罪悪感がわいた。

ふわりと風が吹いて彼女の服の裾を揺らす。

ちらりと見えた太ももにドキッとする。

慌てて視線を逸らせて飛空艇の中へ入っていく。

底部の方へ行くと空のエンジンがあった。

「これは瓶のまま入れた方がいいのか?」

「いえ、私が中に納めますので貸してください」

そう言って俺から飛翔石の入った瓶を受け取る。

すると静かに瓶のふたを外した。

ふわりと風が生まれる。

「さぁ、貴方の力を貸して頂戴」

飛翔石は彼女の言葉に従うようにするりとエンジン内に入った。

その瞬間にパタンと蓋を閉じてナットで封を強める。

窓から中を見るとクルクルと飛翔石は回っていた。

「暴走は、なさそうですね」

「あぁ、しかもエネルギーの変換効率がすごいいいな」

少しだけ圧力を加えただけなのにギュオンと力強く動き出すエンジンに驚いている。

まさかこんなに早くこの飛行艇が動くことになるなんて。


だけど買い出しとか、出港の準備をしなければいけないのですぐには飛ばすわけなかった。

俺はルシェを連れて出来る限り裏道を使って家に連れて帰る。

元々一家で住んでいたので幸いこの家には空き部屋がいくつかあるのでそのうちの一部屋を貸す。

服は海の民だった母親のものが残っていたのでそれを洗濯して着てもらうことになった。

「あ、ヤベ。仕事のこと忘れてた!」

昼休みを大幅にオーバーして工場に戻ると親方にしこたま怒られた。

でもまぁ帰ってこないことを心配して怒ってくれていると分かっているので辛くはない。

「親父さん、俺がいない間になにかあったか?」

「あ?……ソールの連中が来て指名手配犯の人相書きを配って行ったくらいだな」

ほらよ、と見せられたのはルシェにそっくりな人相書きだ。

こんな人相書きを用意するほど向こうは本格的に探し始めている。

ルシェには準備が整うまで家から出ないように伝えないといけないな。

「……親父さん、俺近いうちにここを出るよ」

「なんでぇ、エンジンの目途でもついたのかよ」

「あぁ、それに少し急ぎなんだ。出港許可証の取り方おしえてくれ」

そう頼めばしょうがねぇなぁと一から許可証の発行方法を教えてくれる。

必要な個所はメモを取って、各工場に配られている書類に記入をしていく。

「……こういっちゃなんだが、お前がいなくなると寂しくなるな」

ぽんと油の汚れを吸った手袋をした大きな手が頭に置かれる。

悪気はないのを知っているので文句は言わない。

「すみません。夢が叶いそうなんで」

「頼むから堕ちてくれるなよ?」

「はい、そこらへんの整備はばっちりですし」

むしろ俺がいなことでこの工場は大丈夫なんだろうかと少し心配になった。

「ちゃんとやってこいよ」

ドンと背中を押されて送り出される。

その手に必要事項を記入した書類を手に役場へむかう。

手続きは案外すぐ終わった。

ただ許可証の発行は一日かかるらしく明日また取りに来なければいけない。


夜ごはん用の食材をいくつか買いながら市場を抜けていくとそこかしこに指名手配所が張り出されていた。

随分必死だな。と思いながらも俺は家に戻る。


「あ、おかえりなさい!」


随分と暇をしていたのかパァっと表情を輝かせて出迎えてくれるルシェが天使のように可愛いです。鼻血出てないかな。

なんでこんなに可愛い子が俺の嫁じゃないんだ。(血涙)

「許可証の発行は明日になるらしいから出発は明日だよ」

「そうなんですか?飛空艇ってもっと簡単に飛んじゃうものだと思ってました」

俺はルシェを抱きしめたい誘惑を振り切ってキッチンに食材を運んでいく。

「それは多分定期船だからじゃないかな。定期船はわざわざ許可証を取り直す必要がないからな」

「へー、詳しいんですね」

「いずれは飛ぶ予定だったからな。色々調べたんだよ」

会話をしながら俺は食材を切り始める。

ニンジンにジャガイモ、玉ねぎとお肉……そう、今日作るのはカレーだ。

いつも自炊しているので特に危なげもなく出来上がったカレーを見てルシェは目を輝かせる。

「料理もできるなんてすごいですね!」

「え、いつも一人の時はどうしてたんだ?」

「あの、果物を……」

ガシっと彼女の肩を掴んだ。

「俺といるかぎりちゃんとしたもの食わせてやるからな!」

「あ、ありがとうございます?」

その後夕飯を食べた俺たちは順番にシャワーを浴びている。

脱衣所から出たらルシェの姿が見当たらなかった。

慌てて探すと彼女はベランダにいる。


さらりと風に流される髪の隙間からポロリと涙がこぼれたのが見えた。

その手には雫型の石が嵌まった指輪が一つあり、鎖が通されて手に収まっている。


「ルシェ?」


名前を呼ぶとハッとした風にこちらを振り返る彼女の瞳は涙で潤んでいた。

「ハルトさん……ごめんなさい。外に出ない方がいいんでしたね」

「あ」

何かを言う前に横をすり抜けて中に戻って行ってしまう。


あの涙は一体なんだったんだろう?

俺にはわかりそうもなかった。



◆◆◆


翌日、飛行艇の出港許可証を手に入れた俺たちは俺のドックに来ていた。

結局昨日の涙の理由は聞けずにいる。


「エンジン起動、出力安定。舵の動き問題無し。床の掃除も問題無し!」

いつでも飛び立てる。

その時だった。


ガンガン!


と荒い動作でドックに駆けこんでくる集団がいた。

オレンジ色のローブを来た騎士が複数人乗り込んでくる。

一体いつばれたんだ?!

そんな思いを口にする前に手を動かした。


「いたぞ!魔女ルシエールだ!!」

「行かせるな!」

「捕まえろ!!」


怒声が響き渡る。

その声に委縮するようにルシェは俺の腕を頼りなさげに掴む。


飛空艇シルフィオン号、出港だ!!」


船に奴らが乗り込んでくる前に俺は飛空艇を出港させる。

遮るモノが何もない空が迎え入れてくれた。

ここからは自由だ。


「ハルトさん、ここからすぐに天海へ?」

「いや、まずは設備調達にリバティアへ向かおう。大丈夫だ。知り合いの店がある」

「はい、わかりました!」



こうして俺たちは自由な空へと飛び出したのだった。




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