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第二話 紅茶の魔法使い


「あの、ありがとうございます」

そう言って彼女は背負っていたショルダーバックから幾つかの瓶を取り出した。

パッと見では茶葉のように見える。

「私こうみえても紅茶のブレンドもできるんですよ」

お礼に一瓶作成してくれるという。

「いや、別にお礼目当てで助けたわけじゃないよ!」

「私がお礼したいのです」

密閉された瓶をいくつか開けて茶葉を合わせていく。

「どれも美味しい葉なので、気に入っていただけると嬉しいんですけど……」

フンフンと鼻歌を歌いながらそれは完成していく。

「俺の幼馴染も紅茶が好きなんだ」

「そうなんですか?」

「そ、淹れ方もそいつに教わったんだ」

キッチンの隅には普段使わないような専門の器具も置いてある。

その幼馴染がここを訪れなくなって久しい。

この空の大陸から海の民の国へ引っ越してしまったからだ。

強い適正を見込まれて時期ラピスラズリになるのだとか。

時々送られてくる手紙にはそう書かれていた。

もう随分長いこと手紙が届いていないし、俺には関係の無い話だが。


「できました!青りんごティーです」

そう言って見せてくれた瓶の中にはドライフルーツらしいものが見える。

「じゃあ早速飲んでみようか」

そう言って器具の用意をしていると控えめに隣に立って準備を手伝ってくれた。

なにこれ可愛いんですけど。

正規の手順に従って入れたその紅茶は澄んだ青色をしている。

初めて見る色だったので恐る恐る口に含んだ

「……あぁ、だから青りんごティー」

青色の中でリンゴの爽やかな甘みが舌の上を通っていく。

「どうですか?」

彼女は不安そうに首を傾げている。

「うん、これは好きだ」

「本当ですか?良かったです!これは瓶ごとプレゼントしますので!」

そう言って押し付けられてしまった。


二人して落ち着いて紅茶を飲んでいて気が付いた。

「そう言えば自己紹介してなかったな。俺はハルト・シェローティアだ」

「あ、そ、そうですね。私はルシエール・ルルティア・マリンダストと言います。ルシェと呼んでください」

「そうか。俺もハルトって呼んでくれていいよ」

まさかのミドルネーム持ちだった。

海のアクアリスタあたりの貴族だったりするんだろうか。

「ルシェはどうして迷いの森へ?」

「あ、あの……追われていたのもありますが。永久の花というのを探していて……」

「永久の花……?トコハナのことか?それだったら裏庭に咲いている時期だな」

「えぇ?!本当ですか!!」

永久の花ことトコハナは消して枯れることなく全ての季節で花をつけていることで有名な花だ。

母が好きだったので裏庭の花壇に植えられていたはず。

「もう外に出ても平気だろうし、案内するよ」

そう言って裏口の方へ彼女を案内する。

転ばないように手を差し出せばおずおずと手を重ねてきた。

何この可愛い生き物。

とまた思考が飛びかけたのを引き戻して裏庭に出る。

あまり世話をしっかりしていなかったので雑草すら生えているそこに数輪のトコハナは白い光を放ちながら咲いていた。

「わぁ、これがトコハナなんですね?」

問いかけられたので頷いて答える。

「失礼します」

彼女は一言断ってから一輪を摘み取った。

その花を大事そうにカバンから取り出した瓶に仕舞う。

「トコハナなんか何に使うんだ?」

「いろんなお薬の材料になりますよ」

戻りましょうと言われて家の中に戻る。

「たとえば……風邪の薬にもなりますし、古い伝承では人魚症候群マーメイドシンドロームを治したともいわれています。つまり万能薬の素ですね」

「へぇ、そんなすごいんだなぁ」

そんなすごい花が自宅の裏庭に自生しているとは思わなかった。

「もし必要ならもっと持って行ってもいいんだぞ?」

「いえ、鮮度も重要なので乱獲は無意味です。なのでそろそろお暇させていただこうと思います」

濡れた服も乾いた頃でしょうし。と彼女は言った。

確かに濡れていた服もローブも乾いている。

脱衣所に行く彼女を見送った。


あれ、そう言えば彼女が着てた俺の服洗濯するの俺じゃね?

彼シャツという単語が頭をよぎって頭を振る。

彼女に会ってから本当に思考がおかしい。

少し落ち着かないと。


脱衣所から出てきた彼女は最初にあった時と同じ青いローブに身を包んでいた。

そこで思いつき自分の灰色ローブを被せる。

「青じゃ目立つからな。追われているならこれで行くと良い」

「え、でもそしたらハルトさんの分が……」

「それこそ替えなんていっぱいあるからいいよ」

そう言って送り出せば何度も頭を下げながら彼女は走り去って行った。


さようなら俺の初恋。

なんて感傷に浸る前に俺も出かける支度をする。

普段は街の工場で飛翔エンジン整備のアルバイトをしているのだ。



そうして俺はガチャガチャとした工具箱を持って家の鍵を閉めて外へ出るのだった。




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