落し物屋始めました
永遠にテストです
駅前通りから一本入った路地に、人知れず佇む木造平屋の古ぼけた建物があった。
一見、何のお店か分からないが、看板には薄っすらと「落物屋」と書かれている。
小雨の降る中、一人の男性が慣れた手つきで玄関の戸を開け店に入った。
「すいません。 傘を貸していただけないでしょうか」
スーツ姿の男性は、声をかけつつ入口の傘立てから適当に良さそうな傘を持ち出している。2度3度傘を振ってから確かめると、近くの鏡でみだりを整えつつ店の人が出てくるのを待った。
素材は良さそうなのに、あまり身なりを気にしない様子、無精ひげに寝癖と眠たそうに眼を擦っている。
しばらくして奥の方から若い女性の声が、ため息交じりに飛んでくる。
「ちょっと待っててください。」
濡れた手をエプロンでふきながら、ムスッとした表情で店員が現れた。
長い黒髪を後ろで結び笑顔が素敵な女性、だが今は残念な事にその面影はない。
1割の怒りと9割の諦め感の表情で視線を送っている。
男性はおさまりの悪い寝癖を直しながら、バツが悪そうな顔で挨拶をする。
「奏さん、おはようございます。」
「おはようございますって、なんでいつもいつも傘持って出ないですか。」
呆れた様子で話しかける女性も、黒髪の男性が笑顔を浮かべて軽く会釈をすると膨らませていた頬を縮め、諦めた様子で送り出した。
「わかったから、さっさといってらっしゃい。」
「必ず返しに来ますから、それじゃ行ってきます。」
店から出ていく後姿を送り、また一つため息をついて小さく微笑んだ。
「返しに来た試しなんか無い癖に。」
乱れた傘立てを直し外に目を向ける、雨は次第に強くなり始めていた。
ここまで読んでくれてありがとうございます
(続きを書く予定は今のところない)




