元勇者な私と元魔王な彼
久々の小説です。何となく短編書きたくて…
子供の頃からよく夢を見ていた。
お化けに追いかけられたり、空を飛んだり、魔法が使えたり。
小さい頃からファンタジー物の本やゲームをするのが好きだったのでその影響かな?と勝手に思っていた。
だけど…ひとつだけ気になる夢がある。
赤黒く燃え盛る炎の中でもがき苦しむ黒く大きな影。おそらく魔王だと思う。
私はその様子を片膝着いてお腹を抱え激痛に耐えながら見ていた。おそらく、深傷を負った勇者。
この状況から勇者が魔王を倒すシーン…だと思う。
「おのれ…おのれ!!!勇者!!必ず貴様をーーー」
魔王の叫び声を最後まで聞けずに私はいつも目を覚ます。
この夢は小さな頃から何度も見た。
普通同じ夢ってみないような気がするので気になっていたが歳を重ね大人になると忙しくなり、夢自体あまり見なくなっていた。
私こと、水田雫25才は入社3年目の7月に急きょ転勤を命じられた。
新しい事業を立ち上げて人手が足りず困っているらしい。
私はお世辞にも可愛いとか美人とかいう人種ではなく、自分でもブスだとわかっている。
なので清潔感だけは気を付けた身なりをいつもしている。
ゴワゴワな黒髪を一つに束ね、目が悪いので黒縁メガネをかけ、ほぼノーメーク。
アゴが少しシャクれているのがコンプレックスだ。
体系は普通だけど、いつも少し猫背なのは自分に自信がないからとわかっている。
今年4月に新卒できゃぴきゃぴ可愛い若い女の子が入社してきたので私みたいな鬱陶しい奴はいらないのだろう。
転勤のことを断るのなら会社辞めてもいいんだよ、というニュアンスを含ませた上司の言葉に私はイエスと言うしかなかった。
急ぎということもあり、辞令が出た次の週末には引越さなければいけなかった。
転勤先は二つ隣の県で今まで実家から通っていたが初めてひとり暮らしをすることになった。
ダンボール2箱に必要最低限のモノを詰め込み、会社が準備してくれたアパートに車で向かうと4階建てのアパートの2階の部屋が私の部屋で、新築らしく綺麗な1DKの部屋に少し私の心は救われた。
車に詰め込んでいた布団とダンボール2箱を部屋に運び入れて新しい職場が良いところであることを願いつつ、運び込んだ布団の上でうたた寝をしてしまった。
辺りは薄暗くでゴロゴロと雷の音が響き、ザーザーと強い雨が窓をたたく音がする。
左右に本棚があり、私は1メートル位の通路に立っていた。
図書館?
でも照明がついていない。
ピカッと雷の光が窓から差込、私の数メートル奥に人が見えた。
背丈が大きく男性だということはわかるけど、顔は暗くて見えない。
「※※、このままでは国は滅びでしまう。そう思わないか?愚かな王族や貴族をなんとしても止めなければ…」
大きな男が私の肩を両手でがっしり掴む。顔が見えても良い距離なのに、なぜが顔が黒くなってわからない。
「俺とこの世界を変えよう!俺と一緒に着てくれるよな!」
掴まれてる肩の手に力がこもり痛くなる。私はなんて返事をするか考えていると突然バンっと大きな音がした。
その後ゾロゾロと兵隊がなだれ込み大きな男を取り押さえる。
大きな男は怒り狂い私を睨んだ。
「※※!!!まさか貴様が裏切るとは!!」
違う…
「違う!!!」
私は無意識にそう叫んで飛び起きた。
変な汗を全身にかいてドキドキと動機がする。
ゆ、夢か…
久しぶりにハッキリと入り込んだ夢を見た。
窓の外を見るといつの間にか暗くなっていたので、私は引越で肉体的、精神的に疲れているのだと思いシャワーを浴びて早々に寝る事にした。
週明け、転勤先に初出社した。
私の会社は制服がなく、私の仕事は恐らく事務なので適当にしっかりめの黒のパンツとジャケット姿で出勤した。
商業ビルの7階にテナントがあり、その一室が事務所になっている。
少し緊張しながら事務所に入ると段ボールが散乱し、ごちゃごちゃと散らかっている部屋にパソコンが乗ったデスクが10個位並んでおり、電話の音が鳴り響く中、数人の社員がバタバタと仕事をしていた。
忙しいというのは本当らしい。
事務所に入って来た私に気が付く人は誰もいなく、私は誰に話し掛けようか辺りを見回していると背後の扉から誰か入って来た。
丁度良かった、この人に話しかけようと振り返ると、そこには私より顔ひとつ背が高く目つきの鋭い男性が私を見下ろして固まっていた。
「…」
「あ、あの?」
大柄な男性は私を見て目を見開き固まっていたが、私の言葉にまるで我に返ったような反応をして、私の横を通り過ぎ社員の一人に話し掛けた。
「紺野!今日から配属になった子だ!仕事教えてやれ」
「は、はい!!」
そう指示出す大柄な男性は上座のデスクに腰をかけてパソコンをさわり仕事をし出した。
紺野と呼ばれていた社員は若い細身の男性で私の元に小走りで駆け寄る。
「ごめん、気が付かなかったよ。俺、紺野武司。えーと」
「あ、今日からお世話になります水田雫です」
「そうそう、水田さんだったね。見ての通り、今めちゃくちゃ忙しいから水田さんには事務全般をお願いしたいんだ。早速、色々やって欲しいことがあるから。デスクはこっちだよ」
そういうと紺野さん部屋の奥に進み大柄な男性の近くの席に案内した。
「あの方は…」
小声で紺野さんに聞くと
「空波部長。名前ぐらい聞いたことない?」
紺野さんも小声で返してくれた。空波部長という名前は聞いたことがある。
とても、やり手の若い部長で次期社長の噂だってある。そんな凄い人が仕切っている部署とは知らなかった。
私が恐る恐る空波部長を見るとなぜか空波部長もこちらを見て目が合ってしまった。
私は急いでそらして紺野さんから仕事を教わることに集中した。
初日から莫大な仕事を与えられヒーヒー言いながらこなす日々が数日つづいた。
忙しいおかげで余計な事を考えず嫌でも他の社員とコミュニケーションをとらなくてはいけなくて、あっという間に私は職場に馴染んでいった。
「水田ちゃん、A社に見積もりメールしておいて」
「はい、データ送って下さい」
「契約書の追加、ファイリングよろしく。水田さん、ここ置いておくね」
「わかりました。後でまとめておきます」
「領収書まとめて経理に連絡しておいて」
「本日中に連絡します」
6人の営業さんは皆さん気の良い方ばかりで、主に営業事務と事務所の片付けが私の仕事だ。
営業さんは私に気兼ねなく話しかけてくるのだが、なぜか空波部長だけは私に話し掛けてこなかった。
私に用事があるときはなぜか紺野さん経由でお願いされる。
もしかして…嫌われてる…?
もさったい女がやって来たからだろうか?
そんなこんなで異動して一月がたち、私の歓迎会を開いてくれることになった。
事務所近くの居酒屋で紺野さんが仕切って開催され、途中から空波部長がやって来た。
その頃には営業さんも私もほろ酔い状態になっていた。
「お前たち…」
あきれ顔で営業さん達を見ると空波部長は準備していた上座に腰を下ろした。
「あー部長~お疲れ様です~」
「遅いっすよーーー!」
週末で次の日休みな営業さんも多く、気持ちよく酔っぱらっているようで私も楽しい気持ちになって普段はあまり飲まないアルコールを多めに飲んでしまった。
と、言ってもビール2杯であるが…
頬を赤くしてヘラヘラ笑っている私を空波部長は目を細め睨んでいるようだった。
「空波部長~水田ちゃん怯えますから睨まないで下さいよ~」
「…睨んでない」
空波部長は酔った営業さんに言われて、目をそらし、注文していた焼酎のお湯割りに口をつけて飲み出した。
私はブスで嫌われているのは仕方ないので、これ以上嫌われないように注意しようと思い、焼き鳥を食べた。
楽しい時間はあっという間に過ぎて二次会行く人と帰る組に別れた。
私は二次会に誘われたが結構酔ってフラフラしていたので帰る事にした。
「えー主役の水田ちゃん帰っちゃうの?」
かなり酔っぱらっている紺野さんが私が帰るのを制止しようと私の肩を掴もうとした瞬間、私と紺野さんの間に空波部長が割り込んだ。
「どうせ今から行きつけのスナックに行くのだろう?水田が行っても困るだけだ。ほら、あいつら待ってるぞ」
空波部長は紺野さんの肩を掴み180度回転させて待っている他の営業の元に押しやった。
空波部長は私を庇ってくれた?のかな?
「あ、あの、ありがとうございます」
「…」
無反応な空波部長に私の思い上がりだったかも、と思い一礼して「お先に失礼します」と挨拶をして家に帰ることにした。
歩いて帰るには距離があるし、タクシーで帰ろうかなーと歩き出すと不意に肩を掴まれた。
その瞬間電気が走ったようなビリビリとした感覚が一緒全身を走る。
自分の体に何が起こったのかわからず恐る恐る肩の手の主を見ると空波部長だった。
「…大丈夫か?」
「え…は、はぃ」
さっきのはなんだったのだろう…酔ってるせい…?
真っ直ぐに空波部長を見れず目を泳がせて視線を外すと空波部長は私の肩から手を離した。
「…家の近くまで送ろう。タクシーを捕まえてくる」
「そんな、ご迷惑かけられません」
引き止めようとすると、酔ったせいかフラっとなり空波部長の胸元に倒れ込む形になってしまった。
その瞬間、またさっきの電気のようなビビビという衝撃が全身に走る。
な、なんだこれは…
「…※※」
聞こえるか聞こえないか小さな声で空波部長が呟いた。
私は血の気が引いて、バッと空波部長を突き放す。
なぜかわからないがそうしなくてはいけないと思ったのだ。
「は!す、すみません。空波部長」
「いや…だいぶ酔っているようだな」
そう言ってタクシーを停めて私を家の近くまで送ってくれた。
私がタクシーを降りるとなぜか空波部長もタクシー料金を支払ってタクシーから降りている。もしかして、空波部長もこの辺りに住んでいるのかな?
「空波部長…?」
「部屋はどこだ」
真っ直ぐに見つめる空波部長の瞳にだじろぎながら、まさかブスとはいえ若い女子社員の部屋に上がる気ではないだろうかと不安になってきた。
「えっと、あのー」
「どこだと聞いている。鍵を貸せ」
本気ですか…?
私の鞄を取り上げ問答無用に私の住んでいるアパートに行くので私は渋々自分の部屋に案内した。
鍵を開けて部屋に入ると引っ越してまだ一月しか経っていないので家具が少なく悲しい事にダンボールがテーブルである。こんな部屋、上司とはいえ異性に見られたくなかった…
「あ、あのーこれは」
小さなプライドが何か言い訳をしようとした瞬間、空波部長の左手がガシッと私の額を掴む。
「眠れ…※※」
空波部長がそう呟くと私は瞬時に意識が遠のいた。
真っ赤な炎が街の至る所で上がり、逃げまどう人々。
煙の匂いと血の匂い、数百匹の魔物が街を壊している。
なんて事だ…なぜこんな事が…
街のシンボルだった時計台の棟に魔王が立って
「ふ、ふふふ、ははははは!!※※!これでいい、これで新しい国が作れる!あはははは!」
魔王は私を見つめ黒い笑みを浮かべる。
「※※、これはお前が導いたのだ!!」
こんなことになるなんで思ってなかった…私はただ、親友のお前を助けたくて…それだけで…
全部俺のせいだ…俺が…こいつを倒さなければ!!
強い思いを抱き、バッと瞳を開くと目の前になぜか空波部長の顔があり、さっきのは夢だと気がついた。しかし夢で見た魔王の顔を思い出す。
あの顔は…空波部長。
「目が覚めたか」
「え?いや、その…え?」
私は状況が把握出来ないでいた。
なぜなら、私は自分の部屋の布団の中で横になり、なぜか空波部長に添い寝されているからである。
ふ、服はちゃんと着ているらしい。
「本当、嫌になるな運命って。広い世界の中、こんなに近くに生まれ変わるなんて」
少しため息交じりに話しかけてくる空波部長に私の体は固まって動けないでいた。
「しかも同じ会社とか。覚えて無いだろうが、お前がいた支店でシズクを見つけた時、俺の中の封じられていた記憶が溢れ出した。ああ、運命なんだと。」
「空波部長?」
「薄々勘づいているだろうが、お前の親友で魔王になった俺は勇者になったお前に倒された」
「勇者…私が?」
なんで…私の夢の話を知ってるの?
添い寝している空波部長の顔と私の顔との距離は十数㎝位しかなく、恥ずかしがって戸惑っている私を眺めて少し目を細めて小さく微笑んでいた。
「あの世界のお前も真面目で、周りの事ばかり優先して自分の幸せは二の次って感じだったな…勇者になった理由だって、俺を止める為とかぬかしていたし」
「…す、すみません。私、なにもわからなくて…」
夢で見た情報しか私はわからない。
ただ、ひとつ、確かな事は…今現在一つの布団の中に空波部長と入って寝ている事だ。
この状態をどうしたらいいのかわからず、どんどん顔が赤くなり熱くなっていく。
そんな私に気がついた空波部長はプッと笑い吹き出した。
「お前の生まれ変わりが…女でよかった…」
そう優しく囁くと空波部長の顔が私の顔にゆっくり近づいてくる。
空波部長の黒く透き通った瞳は愛おしそうに私の瞳を映し、心が吸い込まれていく…
これは…
キスをされると察した私は空波部長の顔面を両手で抑え、布団から飛び起きて部屋の壁面まで後退り逃げた。
「なななな、なにするんですか!?」
私は心臓をバクバクさせながら真っ赤な顔をして空波部長を睨むと、空波部長は不服そうな表情を浮かべ布団の上で上半身を起こした。
「シズク…あの世界ではお前は男だったから手出し出来なかったが、今は女だから問題ないだろう?」
「お、おっしゃっている意味が…」
「俺が最後に言った言葉も覚えてないのか?」
ん?
私は今まで見た夢の中の記憶を探る。
最後の言葉…魔王を倒すシーンだろうか?
壮絶な闘いの末に、何とか魔王を倒した勇者(私)は物凄ーく痛い傷を負っていて…あ、私は魔王倒した後、自分も死んだんだ。
その前に最後、魔王からの言葉は…
うーんうーん、と私が考え込み思い出す。
『おのれ…おのれ!!!勇者!!必ず貴様をーーー
「俺のモノにしてやる」』
空波部長の声が静かに部屋に響く。
私は目を丸くして赤面していた顔をさらに赤くした。
空波部長の黒い笑みを浮かべ気のせいかもしれないが魔王のオーラを纏い布団から出て私との距離を詰めてきた。
私は背後に壁があるのでこれ以上逃げられず、顔を引き攣らせる。
「お前は俺のモノになる運命だ。諦めろ」
そう呟くと空波部長は私の両頬を掴み、強引に口づけをした。
それは決して優しいものではなく、怒りや愛おしさや憎さや喜びの感情が入り交じった情熱的な口づけだった。
抵抗するべきなのか。
でも、嫌ではない、むしろ喜びの感情がなぜか溢れ出し私は涙が溢れてきた。
それを空波部長は親指で拭い、私を布団へ押し倒した。
そして…その後の記憶がない…
森の中、鳥のさえずりが聞こえる。
私は肩から鞄をさげており、魔法学校の帰り道だ。
森の木々の隙間から木漏れ日が差し込む。
そこには肩から鞄をさげた親友のクウハが立っている。
「なあ、シズク。俺はお前が居てくれて本当に良かったと思っている」
満面に笑みを浮かべるクウハに私は胸がぎゅっと苦しくなりドキドキしている。
「俺だって…ずっとクウハの傍にいたい!」
私は男だ。でも、クウハの事が好きなんだ。
クウハに恋をしていたんだ…だから。
切なく苦しい思いを感じて私が目を覚ますと私はアパートの布団の中だった。
夢…ん?
スースーする私の体は何も服を着ていない…。
ガチャっとシャワールームの扉が開き、全裸で腰にタオルを巻いた空波部長が頭をタオルで拭きながら現れた。
「雫、目が覚めたか?」
…これは…その…
自分のカラダの違和感を感じ、確信した私は顔を真っ赤にして布団の中に潜った。
そ、そんな、私、空波部長と…クウハと…
元勇者の感情は喜び、水田雫の感情は上司とそんな関係になってしまった複雑な心境となって心の整理が出来なくなった。
そんな私に空波部長はクスリと不敵な笑みを浮かべて
「安心しろ、俺はもう雫を手放す気はないから。」
こうして、私(元勇者)と空波部長(元魔王)の恋愛が始まりました。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!短編書くと続きが書きたくなるのは何ででしょう?(笑)でも、いざ書こうとすると書けない…パソコン壊れて修理中だし(>_<)仕事×2で疲れたので気晴らし投稿ですーあ~これでまた小説書きたい病になったらどうしよう…(*´∀`)




