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悩みと救いは狂気の果てに  作者: 三島三城
その① プロローグのようなお話
3/28

これからと日常


 薊の健気な発言で散ったボクは意外にも早く復帰した。

なんか一晩で戻れたのは久しぶりじゃあないか?希の件もある、やることがあるから復活は早くないとね…。そう言って、自己完結してみれば、時刻はすでに7時半を回っていた。

薊の次に何が大切かと聞かれてみれば、ほぼ確実に【睡眠】と答える、睡眠中毒者であるボクでさえそのことに動揺して跳ね起きた。誰もリビングにいる気配がない…というか、父さんもう行ったのかよ…。


我が家は父さんを除く全員が朝に弱い。

ボクは先ほども言った通りに睡眠中毒者であり、母さんは30超えてから朝弱くなった。

そして意外なことに薊は超が付くほどの低血圧で、起こすのがかわいそうに思えてくる。


 というか家は確実に7時には出ないと朝自習に遅れる…。…確実に減点…受験が…推薦が…。

高校2年なので受験のじの字ぐらいは考える(と言いつつも朝自習に行く程度なんだけれども…。)のである。

一応7時50分までに出れば本遅刻は免れる(幸いなことに中学の方には朝自習という悪しき風習はない。)。よし、母さんに八つ当たりブローで起こしてから薊起こそう…決めた。ぜっっっっったいにしてやるもんねえ。あの人よくするし。


 念のため制服に着替えて、例の作戦をしたらおもっきし反撃食らった…

死ぬかと思った…。

満身創痍になりながらも眠る愛しの妹を起こしに行く。

「朝ですよー。遅刻寸前ですよー。兄さんの色んなsan値がやばいよー。」

割と必死で声をかける。そこで帰ってきたのが…。

「兄さんごめんなさい…。まだ起きられそうにない。私のことはいいから…先に進んで…。それが…精一杯の…メッセージです。」

「薊ぃー。いろいろとツッコミたいけど、起きてぇ、マジでヤバイ。」

「兄さん、もう疲れたんだ…少し眠ってもいいよね…。」

薊がほとんど使わないネタという概念をぶち込んできた。いや、最後の絵描き少年のはちょっと良かったよ…。

「どこの名作劇場ですか。起きなさい。」

なんか、こういうときだけだよね…。ボクって、兄なんだと思えるの…。


 それから数分間ほど死亡フラグのような発言を繰り返すという普段ではあり得ない妹を諫めては起床を促し、

「もう、ゴールしてもいいですか…。」と言ってきたので流石に

関西弁で返したあたりで目が覚めたようである。

 いや、意地でも起きようとしない態度に「かわいい」と思ってしまうボクも立派な重症患者だが、今回はそれどころではなかった。


着替えが終わって、かなり恥ずかしそうにしながら階段を駆け下り、その過程で床に寝転ぶ母さんを

足蹴りにして(犯人はボクです。)

簡易的な棒状の朝ご飯をカバンに詰め込み(どうやってもカロリー0イト)、玄関から駆け出した。

とても慌ただしい村上家の朝である。


 結論から言えば、電車に間に合い遅刻しなかった。

しかし、二人の人物に目をつけられてしまった。親友である小鳥遊公仕、担任教師である小川哲郎。

たかしたちとはいつも同じ電車に乗っていたため、どうしたのかと問い詰められた。

また先生は、唯一の朝自習皆勤賞に王手をかけていたんだけどなあと、

「給料上がんなくなったんだけど、どうすんの?」

という意味でかるくおどされた。


 この先生かなりハイスペックである。

元T大首席で、医者をしつつ研究に励んで特許も何個か取ってるらしい。そして、気付いた時には金の亡者と化した校長及び上層部を持つこの学校の教師となっていた。

 いや、どうしたらそうなるよ…。

将来有望な研究者がどうしたら教師になるんだよ。

先生曰く、「所属していた組織がやばいとこだった。」との事である。

組織ってなんだよ、やばいってなに、よく生きてるねえ。動揺は隠せない。隠す気みんなないよね?

というよりもみんな口封じされないか心配してた。



授業が終わり各々が帰路につく。

昼休みに朝急いでたために摂取できなかった薊成分を取りに行ったのはご愛嬌である。

膝に抱えて優しく頭撫でただけだよ…変なことって何さ。今回の事件を小鳥遊イ~ズに言うべきかは

悩む。たかしも安心してたみたいだし、かといって隠し事は良くない。どうっすかねえ。

と言いつつも話したんだけどね。帰ってきたのが

「三つ編みメガネのお姉さんタイプの同い年。なんてドストライクな。」

「お姉さま、お姉さま、お姉さま、薊ちゃんが心を許した。アッババババババッバババババババッバッババッバババb…」

妹の方とか崩壊してんぞ。怖えよ。というかたかしは欲望がダダ洩れだ。希に手出すとさすがに絞める。


 実のところ昼休みにボクは小川先生とOHANASHIしていた。その辺に気づいていた、たかしはそのことについて聞こうとしてきた。

その話は薊には少し知られたくはないのでバグった美咲の介抱を薊に押し付けて(最愛の妹に押し付けんなよ)二人で別の車両に移る。

「何の話してたんだ。あの先生少し胡散臭いしさあ、なんか言われてない?」

「まあ、いつもの事さ、秋元に柊家の事件の裏情報聞いてたら。『そういうのにはなるべくかかわらない方がいい。』と言われただけ。」

「なんか組織が何のってホントっぽさそうだな…。」

「そのときのことはさあ。」

そう言って、今日の昼休みを振り返ってみる。




 薊を愛でに…もとい、ボクの小遣いを掌握している薊から昼の分をもらった後、ボクは週に一度だけの【とあること】をした。

 

柊家の事件についての調査である。


 警察のお偉いさんを父に持つ秋元という生徒がいる。ホントは軽いトラウマがあるけど薊のためだ仕方ない。

秋元とはまだ文理でクラス分けや男女別クラスだったりした高1のときのクラスメイトである。

主にヤツから苦しめられたのは3学期である。秋元が一番後ろの席で、ボクがその前に座っていた。

あいつは悪い奴ではないが…少し…いや、かなり問題があった。


 常軌を逸した変人である。


 その当時変人から絡まれやすかったボクは当然の様にその標的であった。

この頃からある類稀なる変人処理技能を所有するボクでさえさばききれなかった彼は間違いなく学校一であろう。

この学校は主に二つの種類の人間で構築されていた。

【変人】と【オタク】である。

軽度重度にかかわらず皆どちらかに属する。【オタク】勢力は主な感染源を除くとそのほとんどが話を合わせようとしてズブズブといったものだ。ほとんどがライトヲタであるこちらに対して、【変人】は重度が多い。ちなみに学年首位はこちらに属する。

【変人】の方が上位者が多い傾向だが、軽い社会不適合者が多いのも特徴である。

秋元はその中でもかなり上位に属する変じry…。ボクの後ろから「お前の腕に動物園作る」とか

「お前のケツにある洞窟に叫びたい」などを毎時間言われる。正直カウンセリングとか受けようかと

思った。文理で別れたことで秋元とは別れられたと思ったが…薊の事もあり、

兄であるボクはそこへ向かうのである。


 秋元によると


①ただいま公開されていることはすべて正しく嘘はない。

②薊の叔父が数か月前から行方不明となっており、これが随分と練られた計画であったこと。

③この襲撃には傭兵が用いられたが、その直接の手段ではない。

④この事件には第三者が存在して傭兵はその人物に【普通では有得ない】殺され方をした。

⑤柊家は何らかの実験を行っており、その背後には警察を黙らせるほどの大きな【何者か】がいる。

⑥そろそろ抑圧が強くて捜査が中止になりそうだということ。

⑦逆らえば警察組織が一変するということ。

以上の7つの事を聞いた。3までは聞いていたが、ついに聞き出してくれたらしい。ことは思ったよりも

深刻そうである。しかし、まだ何もできないのでここは耐えるしかない。


 いつか【何かをできる力】を手に入れるまで…。


 そんな話を苦労しながら聞いていると、誰かから肩に手をかけられた。

…かなりの威圧を載せて…。


 背後にいたのは小川先生であった。

「人生の先輩として言う、お前の嫌いな【教師】としてでなく!」

「はあ…」

「そういうことにはなるべく関わるな。例えそれが…大切なもののためでも…。」

「どういうことですか。」

「言葉通りの意味さ。そういうのは本当にヤバイ…命も危険にさらすことになる。本当に大切なら、その命を犠牲にはするなよ…。」

流石、元ヤバい組織。本当にヤバイんだろうなあ。そう思うと。

「あと、柊家にも謎は多い。お前が以前もめた、三笠組よりも前からある

名家ではあるがその実態はほとんど知られていない。というかヤクザともめんなよ。」

「あははあ~、そうですよねえ。でも、熊のじいさんは割といい人でした。」

思い出す、二番目の悩みでヤクザの本拠地まで鉄パイプで突っ込んでいったこと……何してんだろ……そして、なんで無双できたんだろう。その時に現組長の三笠熊次郎に認められ、学校の裏運営でのことについて少しOHANASHIした。

「お前、まだ発生してないのに何でできんだよ。【あの件】もあるし、ちなみに知ってるとは思うが

先生方は恐ろしさから犯人については探さないことにしている。安心しろよ。」

 発生…何のことだろう。まさか、最近ある【アレ】について知っているのだろうか。

「やべ、知らないんだった…さっきの事については聞くなそのうち分かる。」

そんな意味深な言葉を残して彼は次の授業に向かった。…やば、授業は始まってまう。気付いたときにはは手遅れだった。取り敢えず走った…走りましたようぅ。遅れた…。




 回想終了。

「何その人…いろいろ怪しいけど…というかヤクザと正面衝突したの。」

「あ、その時たかしは距離があったから知らなかったんだよね…忘れてた。」

「確かに前、鉄パイプ持って不良グループ壊滅させたけどさ…。」

正直に言うとボクは棒状の武器さえあればそれなりに戦える。素手だとチンピラ一人かなあ。

実は、チンピラや不良の大半は口だけである(この地域に限る)。この辺りは不良の聖地と言われつつも平和なのはそのあたりが関係している。

「そろそろ落ち着いただろうし戻ろうか…薊は怒らないだろうけど、相手があの百合っこだから

心配…。」

「人の妹をなんだと思ってやがる…ま、認めます。」

「お兄ちゃ~ん…なにいってるのかなあ?」

前の車両に戻ったあたりで言った、たかしは処刑宣言を聞いた。

「後で散らす。」

「なにを!」

やっぱり何でもない日常が一番だ!そう思ったときに携帯が鳴る。この番号は…希…。

日常はすぐに崩壊する。




 電話は駅に着いた時だったためそこで二人と別れた。

「もしもし、晃司君だよね?一応電車が駅に着く時間だったと思うけどどうだった?」

タイミングの神である…というか時間覚えて電話してきたのかよあの人…。と軽く戦慄する。

「どうした?タイミングは取り敢えず完璧、もしかしてあの件で。」

「そう、今日でいいかしら。これからそちらの家に行ってもいい?一緒じゃないときに行くとお母様

どういう反応するでしょう…うふふ。」

怖え、この女怖え。よく母さんはこの手の話はないかと聞いてくるため、実際にされるとかなりの

ダメージを負うこととなる。

「絶対に先に帰るかんな。」

と一旦薊を見るとその目はさながら

「私もお姉さまとお話ししたい」と語っているようだった。

「薊に代わる少し話してやってくれ。」

少し気を使ってみると薊は「ありがとう兄さん」と言ってその電話を代わった。


 結論を言うと、希の方が早かった。なんで…。それだけでなく、母さんを取り込んでいた。

…なんかすげえ盛り上がってるんですけど、後が怖いんすけど。

「晃司君、遅かったね。」

「いや、こっちは全速だったよ。希の家の方が遠いはずなのに…。」

「電話してたのはこの家でだったんだよ…晃司…。」

そう母さんは付け加える。少々いいネタが入ったためか朝の事は許されたっぽい。

「いや、来ていいか先に聞けよ!」

「晃司君なら許してくれるだろうしぃ。」

「あんた、二次災害が起きることに気付いてましたよねえ…ねえ!」

「兄さん落ち着いてください。お姉さまもからかうのも止めてください…。」

このアマぁ…いつか仕返ししてやる…。

なんでこんな人本気で助けたいなんて思ったんだろう?

「恋心じゃない?」

「心を読むな!あと違う!あんたのせいでそんな感情誰にも抱けねえよ!」

思考パターンが同じというのはデメリットしかないよ。ヒトがバジュラの様に分かり合えたら争いが

起きるよ…。

「あんた、心の底が分かるんだったら大丈夫でしょうに…希ちゃんなら認めるよ…ニマニマ。」

「40歳が変な擬音使ってんじゃねえ…。薊が混乱してるじゃないか『兄さんとお姉さま…』とか言い

出してるじゃないか。」

『何か言ってくださいよぉ。』と視線を希に向けると…。

「さあ、どうでしょうね。どうなるかは分かりませんよ。」

「あんたは敵なんですね!そうなんですね!」

薊がなんかオーバーヒートしてるから止めてほしい。さっきから『ポッポ、ポッポ』とかいう蒸気みたいな擬音が聞こえてくるよ…。あ、倒れた…え、ちょいまてや。

「薊ぃ~~~。しっかりしろ起きるんだ。なんてことしやがる…」

「薊ちゃんが倒れた、この人でなしぃ!」

「てめえが主な犯人だよ!」

愉快な依頼者であった。




 それから、少しお茶にしてから薊は目を覚ました。起きて早々爆弾発言をして…ボクは凍り付いた。

「…お姉さまなら許せるような気がします。」

「薊まで何言ってるの…。」

このネタであと数か月程…あと、たかしからも弄られることになるのだが、また別の話である。


フリーズから蘇りボクと薊と希は作戦会議を始めた。ちなみに母さんは

『この話に大人が介入するとろくなことにならないからね、くれぐれも怪我をしないように、させない

ようにね。』と言って消えていった。

まあ、そうなんだけど変なところで経験豊富だからねあの人。

「まずどうするか…どうやって切り込むかですよね。どうやって話し合いを始めましょうか…。」

「やっぱ、こういう時は正面からの電撃作戦で行くしかないんじゃないか。」

「そうだね、それが一番なんだろうね。」

こういう時は長引かせると後々面倒なことになりかねない。外堀から埋めるという手もあるが、いざ対面したときどのようなことをするかなんて…もう、分かったものじゃあない。

そんな感じで作戦会議は進み、某ファシズムな総統閣下が得意とした戦法で行くことを決めた。

「勝敗を決めるのはスピードです。一日で終わらなければ逆に悪化の一途をたどるだけだ。何としても本日中に終わらせる。」


某種の歌姫のセリフをいただいてその結果を述べた。

しかし、この時はあんな理由で失敗するとは思わなかっただろう、ただ一人を除いて…。




 希の家は徒歩で行ける距離であるのでボク達三人は徒歩で向かった。家を出る際に母さんが薊に何かの袋を渡した…というかどう見てもバットの袋である。しかも色んなポケットが付いた割と高級なの。

薊が少し重そうにしていたことから本物の金属バットが入っていることが分かった。

いや、少し前に『ケガさせないように。』なんて言った人の行動とは思えない。やっぱ、少しおかしいよあの人。そんなことを思いつつ先を急いだ。そのとき、薊からバットをもらうというか重そうだから

持とうとしても

「これは薊が持つべきものなんだよって言ってましたから大丈夫です。」

と言っていた。…健気である…。母さんなにしてんだよ。




 出発前にお母様が話があるといって私を呼びました。

「薊ちゃん、あなたにしかできないことがあるの…。」

そう言って出したのが先ほどのモノでした。

「なんですか、これ?」

「特殊な製法のバットとでも言っとこうか。中にメモを入れてあるから異常なことが起きたら見なさい。たぶん今回のがきっかけで目覚めると思う。たぶんあなたも一度見たことあると思うけど、晃司が怖いと思ったことがない?」

それは何度かある…昨日の教師とのときも…そして兄さんはそのことについて一切の記憶がない。確かにある。目覚めるとは何なのだろう?あれがただの片鱗ということなのだろうか。その数々の疑問を胸に

しまい返しました。

「分かりました。」

「絶対に逃げないでね、私も本当は付いていきたい…この役目を薊ちゃんに押し付けることはしたくはなかったんだけどね。ごめんね。」

その言葉には、苦しみなんかでは言い表せない様な苦渋の心境があったと  同時に希望もあったことに気付いた。だから、大切な兄さんのため答えた。


「任せてください。」と


 弱弱しさなど一切ない表情で答えた。





 そうこうしているうちに目的地である一ノ瀬家に着いた。作戦通りに正面突破である。けど最低限のマナーは忘れずに例えそれがどのような…娘を虐待するようなクズだとしても。

インターフォンを鳴らす。

「初めまして、村上と申します。少々希さんについてお話があります。」

そこに沈黙という名の居心地の悪い空間が走る。いや、なんであんたらもそんな顔してんの、特に希…緊張とか恐怖じゃないよねどうしたんだよ。三つ編み少女は少し頬を染めている。

なんか変なこと言った覚えないんだけども…。

「お入りなさい。」

それは恐らくうまくいけば味方につける可能性である母親だった。

「それでは失礼いたします。」

ここからボクたちの本当の戦いが始まろうとしている。


 ボク達はリビングへと通された。その際母親に少し謝る希が見えた。確かに、この人がどうなるかわからないし、トラウマを引き出すかもしれない、何よりも僅かだとしても人間性が残っていたのはこの人のおかげなのだろう。見ていてとても複雑な気分である…。

 リビングに到着したボクたちは食卓であろうテーブル席に座らされた。

当然のことながら、この手の席は4人用なので必然的に薊は別の席をもらった。話し合いは始まる…。

「お前たちは希のなんなんだ、何しに来た、そして何ができる。」

「ボク達は友達だ。」

そのことにひどく動揺したのが父親であった。

「なぜ、こいつと友達になんてなれる。こんな得体のしれないガキと。」

「得体のしれないことの何がいけない、相手の事を知ろうともしないのはいけない。」

「そんな奴、すぐに捨てるべきなんだよ、こいつは再婚したときについて来た邪魔ものなんだよ。」

「邪魔者だからって、そんな風に暴行する理由にはならない。」

「お前にこの気持ちはわからない…いや分かるはずなんだ。ただ気付かないだけだけどな。」

「あんたは、」

「むしろ、育てただけでも感謝してほしいね。お前には俺の苦しみなんかまだ理解できんだろうがな。」

【苦しみ】…その言葉を聞いた瞬間何かが弾けた。


自分の中の何かがあふれ出るようだった。


「苦しみぃ、苦しみねぇ、お前が言うなよっていう話なんだけどさぁ~。オレはそういうのはいいんだわ。お前はもうくたばっちまえよ。」

そういって机をたたく、それは真っ二つに割れるのではなく


【粉々になった】という表現が正しいだろう。


その時にはもうすでに【ボク】の意識はなくなっていた。




 兄さんから禍々しい何かを感じた。

これがお母様の言っていたことなのだろうか。兄さんの目は紅く染まり、いつものどこか優しい声も

恐怖しか感じない。


 別の何か


 そう思えるほどのモノであった。一人称もボクからオレへと変わった。

お母様曰く、「晃司はある事件を境に自分の事をボクというようになった。」

つまり、あれは兄さんが少なくとも正気ではないことを示していた。メモを見るしかない…。

書かれていたことは

①これはとてつもない非常時に他人に晃司を任せるときに限り使用を許可する。

②晃司の言動がおかしくなった時はまだ大丈夫これもまだ効果を発揮しない。

③使うタイミングは晃司の瞳が赤く染まったとき、もしくは一人称がオレへと戻ったときである。

④このバットは私たち一族の秘密の製法によって作られたので大変貴重な 一品ものです。注意して使いましょう。

⑤使い方は簡単です。使うタイミングになったとき、注意をそらさせて後頭部を思いっきり強打しましょう。大丈夫、脳細胞はすぐに再生するから。


思いっきり唖然とした。え、兄さんに向かって使うの?いや、脳細胞破壊するぐらい強くですか?

そしてすぐには再生しませんよ。

そう心の中でツッコむ。そして、兄さんを見るとなんかスプーン握ってる。何する気だろう。そう考え

ていたのも束の間で晃司は希の父親の頭を掴んでスプーンを目に近づけた。

「希の受けた傷や苦しみってのはなぁ……こうやってテメエの薄汚れた眼球を掬い出されることでも足りねぇんだよ。」

この光景は薊にはとてもショックなことであった。兄さんはどこかしら人を傷つけることに躊躇を覚えていた。だからこそこの躊躇もためらいもなく、まるで狂ったような兄さんは違和感の塊であり、恐怖の象徴だった。

 自分を卑下するようなことはなく、むしろ尊大な態度をとっている。そして、母親の言いつけを破り相手を傷つけようとしている。

『もう私の知ってる兄さんじゃない。』

そう思うのも無理はなかった。また、違う見方をする者が一人…他の者…そして、自分さえも気づかないことを一人の少女は気付いた。

「お姉さまどうして、そんな切望していたものを見るような目で…」

その声はその主には届かなかった。




「おいおい、ドォオシタァ!このまま眼球えぐられてのかぁ?」

兄さんの暴走はヒートアップし続ける。それを止めなければならない、だから彼女は震える身体に鞭を打った。大切な兄を取り戻すために…。優しい兄さんに戻ってもらうために。このことは両親を失った薊だからこそ酷く堪える。また大切なものを失う…今の唯一の拠り所を…依存の対象を…。だからこそまた、それが力になる。普通であるならこの段階で心は折れるだろう。でも、少し強ければその先にたどり着く。

『兄さんを助ける!』

直後、メモの指令通りに動く。

後頭部を強打…普通なら重症だ。でも、予測してあり、一品ものということもあるが、何よりも今はあの異常性で後頭部直撃程度で倒れるかの方が問題だ。そんなこと考える余裕なんてない、だからするのであった。




 バットは兄さんの後頭部にしっかりと当たった。そのまま地面へと倒れこむ。晃司は意識を失った。

同時にこの作戦の失敗を意味していた。薊と希は晃司の腕を肩に乗せた。そして、家を後にした。


 家を出るとすぐに村上家の母に連絡をする。車を出してくれるそうで、

希も村上家へ行くこととなった。誰でもなく…薊の申し出で…。一ノ瀬邸が遠のいていく…そして、知ることになるだろう晃司の身に起こったことを…。晃司やその母親その家系にある秘密を…。


晃司君はいわゆる鈍感系主人公ではないけれど無自覚にキザなセリフを吐くなどします。

これの理由はまだ大分先になるを思います。それまで読んでいただけるように精進いたします。

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