少女との邂逅
取り敢えず倒れた少女はボクの家まで運んだ。
え、病院でいいだろって?バカいえ、このパターンだと最悪手だ。彼女のケガから見るに家庭での虐待だろう。そうなると家の人に迷惑がかかるのはNGだ。
治療もある程度こちらでしよう。と言いつつもボク男、相手女。つまりボクがすると犯罪なわけで薊にしてもらってます。
ボクほんと何もしてない気がするんだけど。その間ボクはもう一つできることがあるのでしておく。
飯を作ることだ。
この場合大変重要な意味を持つことがある。
家庭で食事ができないなんてことは割と当たり前なことなのでそういうものがあると心のケアに
つながる。あるとなしでは大違いである。幸いなことに料理は苦手ではなく、しっかりしたメニュー以外ならあり合わせでアレンジレシピかつ即興で作ることぐらいなら可能である。
(事実、母さんがいないときに作ってみたら薊からは大絶賛であった。そして母さんが疲れたから作れといった際に軽くアイデンティティクライシスしていた。)
そして他にも理由はある。
地獄のパーティー。惨劇を起こさないことである。
今ボクが取り掛かっているものはエビチャーハンという何の変哲もないものである。
あ、薊が物欲しそうにこちらを見ている。そういう顔をされると弱る。頼んでこそないから自主的に
あげたくなるじゃないか。夕飯は母さんが作るんだぞ。
またあんな阿鼻叫喚の地獄絵図になるのは勘弁してほしいのだが。薊自身はそれがわかっているから言わないのだろう。あぁ、なんて良い子なのかしら。
エビチャーハンを作ることでなぜ地獄が回避できるかという話に戻る。
…結論を言おう。ボクはカニやエビが大の苦手である。我は家に大量の甲殻類があろうものなら食卓に
ほぼ確実に並ぶであろう。そんなことになればボクは、ほぼ無理やり食わされ…良ければ失神で済むだろう。
別にアレルギー持ちというわけではなくただ単に苦手というだけだ。
その点でいうと今の状況はとてつもなく危険である。
父さんが自分の患者からお礼として『豪華絢爛特性エビセット』なる大量のエビをもらってきてしまった。(帰ってきた際に話しかけてくる顔がどうも暗かったので薄々感づいてはいたが、見せてもらったときに泣きそうになったのはとても覚えている。)
というわけで我が家では近いうちにエビパーリーが始まる。それは何としても阻止しなければならない。
例えばエビの数を一人分ほど減らすとか。
と言ってもただそれだけではなく。こういう人には食べていてもらいたい。そういう思いもあったりする。
本当ならボクのほうがこうなるべきなんだ。
そんなこんなで準備の作業をしていると(エビ嫌いなのにさばけるのは【嫌いな人のほうが好きな人よりもそのことについて知っている理論】と同じである。)
少女は目が覚めた。
黒髪で染めていた痕跡は一切なく、その長い髪を三つ編みでまとめ上げている。眼鏡をつけており、それは最近のオシャレ眼鏡などとは違い極端に言うと【目立たない】【主張しない】という、いわゆるガリ勉がしているものでもない。クラスで浮いている人がつけるようなものであった。
服装もいわゆる模範的な着方をしている。
徹底的な人から覚えられないような姿である。しかもそれを故意に作っている。それは今までにない例であった。
その瞳には生気などもとからなかったという暗い目。そこからは【人の本質】を見抜くという特技を持つボクにすらその奥にあるものがわからない。理解ができない。それを表す言葉をボクは持ち合わせていた。
混沌(カオス)
それが彼女の本質なのだろうかはまだわからない。今、現時点で言えるのはそれくらいなのではないだろうか。恐らく薊はこのことについて察することはできていないのだろう。
正直、あの子にこのことを気付いてほしくない。まだ、深すぎる心の闇について知ってほしくない。
踏み入れてほしくない。
両親のことでもう十分なはずである。
こういう時に美咲の言葉はとてもよく刺さる。巻き込むべきではなかった。そう思ってしまう瞬間で
あった。
そしてこの人は【こちら側の人間】なのだろう。
ボクのような人間と…抱えるべきことがあるもの…ヒトとされない様な人間。
我が家のソファから起き上がった少女は開口一言目からこういった。
「御迷惑をお掛けして申し訳ありません。」
この反応も初めてである。今回はすべてが違う。今までの一般的な人物が虐待されたのとは訳が違う。
普通であるならば「ここはどこ。」というはずである。
この人は状況までも動転することなく把握し、正しく人に覚えられにくい手法を選択していた。
普通ならそうだが、だからこそボク達兄妹はことの異常性を認識することとなる。
「いや、それはこちらのセリフだよ。勝手に連れてきてごめん。」
「それはあなたがこちらの方が私にとってダメージが少ないと思ったからでしょう。それこそごめんなさい。」
すべて理解している。そう思わざるを得なかった。だから
「ボクは村上晃司、こっちは妹の薊。先に自己紹介をしたから聞こう。君は何者だ。」
「そう、わかる人に拾われたのね。」
そう、高校生には絶対にできない大人びた表情をして言った。
私こと柊薊はとても混乱している。
このお姉さんが目覚めて兄さんが顔を見た瞬間、お互いにとてもシリアスな表情をしていた。
私には到底理解できない領域にいるのでしょう。兄さんはおそらく特技で内面を知ったのだと思うが
あんな顔はただの一度たりとも見たことがないです。
また感じる…兄さんとの距離が…。本当の意味での天才。私の様に誰でもいつか到達できるものではなく…人がいくらあがいても到達できないところ。
また、オーラで相手もただ者でないこともよく理解できていたがこの人もまたそうなのであろう。
この人は怖い。近づいてはいけない。滅多に発動しない本能が私にそう訴えかける。叫ぶ…喚く…悲鳴を上げる。
だめだ、また兄さんの後ろに隠れることしかできない。ヒトが怖い。兄さん以外のヒトが怖い。
その中でも格別の存在…存在するのは創作物の中だけ…そう信じていたいヒト。
私はどうして良いかなんて全く分からなかった。
ただ単に戦慄することしかできなかった。
私はやはり兄さんの陰に隠れることしかできないのだと感じるほかなかった。
彼女はボクがどういう人間なのかを少し察したようでデフォルトの目立たない接し方を辞めたようだった。
彼女が言うことには母親が再婚してその夫が虐待をしているらしい。母は以前の夫に捨てられたらしまたそうなるのは嫌だという一心で止めることができないらしかった。
母親は男がいない間、その間を埋めるように彼女によく接しているらしいが、直接的に介入することはできないらしい。
その男は本来そうするような人物ではなかったそうなのだが、現実は違うものである。このような案件はかなりベタなパターンでこれは基本形ともいえる。しかしボクはこれは本質的には全くの別物なのではないかと考える。
というか名前聞いてないな。毎度のことながらポンコツ君にはつらい仕事だぜ。また順番間違えた。
コミュ力のないポンコツ君はこれで精一杯なのです。
「名前は?」
「一ノ瀬 希。」
「そうかい。その制服は西高か…。知り合いいねえな。」
「西沢高校2年3組よ。もちろん部活には入っていない。」
西沢高校。この辺の通学区域で大半の生徒が通うこととなる学校で、謎なことに偏差値はその辺の私立なんかよりよっぽど良かったりする。
そしてなぜか話題にも上がらない学年首位。全国模試一桁台がいたりする。もはや都市伝説である。
それはおそらく彼女なのだろう。人から忘れ去られることを得意としている彼女にとっては造作もないのだろう。
というか同い年だったの?割とびっくり。雰囲気めっちゃ大人ですし…中身が違ったら好みだったり
する。
「飯食うかい?軽く作ってやるよ。」
「やっぱり手馴れてるのね。お願いするわ。」
そう言ってボクはチャーハンの調理を再開していた。薊はその間もボクの背中に張り付いていた。
正直…やばいですね…シリアスな雰囲気の中これはよろしくない…自重せねば…人前だけどちょっと
ぐらいなら愛でてもいいよね…。
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉ」と、某テニスプレイヤー真っ青な脳内天使が叫ぶ。
「うるせぇぇぇぇぇぇぇぇ」脳内の悪魔が叫ぶ。
なんで?どうしてボクの脳内天使と悪魔熱血系なの?そうか…今とても混乱してるんだね…。
そんなスポ根たち放っておいて…ヤベッ…鼻血が…それこそ目も当てられん。薊のために自重します。
「どうしたの?」
「何でもないよ…。」
「鼻血出てるし…もしかして…シスコンなの?」
ハイ、意味なかったですね。まあ、でもぉ、シリアスは守り抜いたのでぇ…多少はいい…訳ないですよねぇ。
「シスコン…ふん、いい響きだ。薊ほどならならない方がおかしいのだ。狂っていると思うのなら…むしろ貴様の方だ!」
やべぇよ・・・やべぇよ・・・やっちまったYO。
シリアスまで持っていかれたぁぁ。
「分からなくもないよ。薊ちゃんとてもかわいいし、仕草も小動物のようで最高だわ。確かに今まで
見てきた中で最高よ。別にあなたの事キモイとは思わないわよ。」
今までの凍てつくような声色は消え、年相応ながらその色気を消すことのないアルトボイスを発した。
というか同志の気配がビンビンなのですが…。
色々と趣味が合いそうな気がします。ボク達…分かり合えるよね…。
薊がマスコットみたいな扱われ方だが…兄としては美咲みたいなのがいるので、このぐらいの扱いの方が安心です。
お兄ちゃんはやっぱりとても心配。
変なのに捕まらないようにね。男だけじゃぁないよ…女もだよ…。
少し和んでくれたようなのでひとまず安心。思わずこちらもすこし笑ってしまった。
当の薊本人はかなり恥ずかしそうだった。
米は文明の利器であるrice of SATOを使うこととした。いやぁ…パックご飯って、便利ですねぇ。
やりますねぇ。世の単身赴任のサラリーマンから愛されるわけですよ。というどうでもいい話は置いておいて。
最終段階の炒める作業に入っているのだが…なんか…楽しそうな声が聞こえるのですが…。気のせいですかねぇ。
結論…気のせいではありませんでしたぁぁ。どうしたのあの二人…さっきまでの雰囲気は…
さっきまで冷め切った人はどこへ…。
薊もなんかお姉さまとか呼んでるし。さっきまでボクの後ろに隠れておびえてたよね?正直羨ましいです。ボク、最初にお兄様って呼ばれたことあるんですよ。まあ…鼻血でそうだった。ボクにはハードルが高かった。というわけで、ボクはその呼び名で呼ばれたいのですが、できません。出会って一時間もたってない癖にぃ…。
そのことについては薊を全面肯定する兄さんですのでぇ…いいです。いつの間に仲良くなってるの?
薊が懐くとか大概ですよ。
ボクは色んな意味で戦慄していた。そんなこんなでボクは(生命線とも言える)エビチャーハンをテーブルの上に出した。ボクすごい形相してないよね…。若干心配。
「どうしたの?そんな苦虫をすりつぶしたような顔して。」
ハイ、してましたね。想定してたのとは違うの。それに気づいたのか薊が
「お姉さまはとてもいい人ですよ。なんでも話を合わせてくれます。どんな会話でも楽しくできます。
大好きです。でも…兄さんは…もっと好きですよ…。」
とても気を使わせました。それはそれでかなりのダメージが入りました。きっとゲームとかだと
「クリティカル」なんてSEが入るのでしょうね。心の傷を負った。
「ところで、もし薊ちゃんが男物の服しか着れない体質になったらどう思う?」
ふざけた質問してきやがった。
「薊はそのキャラには合ってねえ。それはもう少し美少年に見えるタイプでなければいけねえ。それに、かなりオシャレに貪欲だったり、欲しい服のために魔女契約するようなひとしか向いてない。」
あ、とあるゲームもキャラと同じ設定言われたからついついそのキャラも設定で返してしまった。
薊にはあれは合わないと思うからね…。本音言っちゃった。
(知ってる人は胸について言及するであろうが、薊の手前それは言い辛い。)
(正直、薊はその辺を少しばかり気にしているらしい。着物美人な容姿なんだからそっちの方がポイントは高いと思う。)
「やっぱり…同志なのね…。それについて知ってるとは。」
「少し知識のある奴はすぐにたどり着く。それよりも本当に…。」
「どうしたの…兄さんの机にぎっしり入っているR18って書いてあるゲームの事ですか?あれどういう
意味なのでしょう?お姉さまもしているのですか?」
とてもキョトンとしてそんな普通の人に言ったら人生終わりかねないセリフを吐く。純粋に育てたのが裏目に出たのか。
でも相手はおそらく同志である。社会的に死ぬことは恐らくないだろう。というかどうやって買ったの?虐待されてるんじゃなかったっけ?
「薊…後でお話があります…。」
そういった後、そのことについて聞いてみると新しいことが分かった。ほんとなんなんだよこの案件。
今日の先生の件の方がよっぽど簡単だったぜ。
その内容というのが
①父親は虐待をし、食事もまともにくれないが、しっかりと食事代や参考書代、その他雑費を月の初めにくれる。
②自分のすることに何も言わない。むしろ隔離するように部屋まで与えられているらしい。
③家の玄関に自分用の宅配受け取りボックスがある。
④彼女自体が特にすることもなく、学校の一部で人気のあるものをお得意のステルスで聞き、情報を得る。
⑤もらえる額がそれなりにいいらしい。
いや、なんだよこれ。もうわけわかんない。食費渡す例はあってもここまでしてるのはそうそうないぜ。
問題はより一層迷宮入りしそうだった。ほんと、誰か助けてください。お願いしますからぁ。
エビチャーハンは自分でいうのもなんだがかなりの自信作である。
その辺の店よりはうまい自信すらある。
運命の時は来た。
実食である。
「うん、おいしい。外で食べるより断然。それよりも……家庭の味ってこういうのを指すんだね。」
その頬には一筋の涙が流れていた。やはり、苦しんではいるようで、解決したいという思いもあるの
だということを認識することができた。
本質が混沌だとしても今はどうだかわからない。
今は多感な高校時代だぜ。どう感情が転んでいくかなんてわからない。キャラだって定まっている方が少ない。まとめきれるものか。
その瞬間この少女が普通の女子高校生であることを認識した。そして…何としても救ってあげたい。
今までみたいに成り行きでも…責任感からでも…義務感からでもない。
自分の意志でこの一人の少女を救ってあげたいと感じた。
「そうか…ならよかった。俺ができることならなんでもしよう。希…力になるよ。」
「出会って一日で下の名前って、距離感がおかしいわよ。」
そうクスクスと本当におかしそうに笑った。
「悪いね。ボッチには距離感がわかりにくいんだ。」
「私はたぶんあなたはボッチじゃないと思うんだけどね。それどころかフラグ数本ぐらい立ててるんじゃないかしら?」
「それはないと思うよ。告られたことが数回あっても全部遊びか罰ゲームという残念君だし。顔もそこまでよくないしね。」
「そう?人助けしてたらなるんじゃないの?」
「クラスの奴に言われたけどこう答えたよ。」
『現実と幻想は別のものだ混同するべきではないんだ。』なんか思い出すだけで悲しくなってくるなぁ。
ボクには下心はない。ほんとだよ。というか母さんの教育と育った環境のせいで基本的に女性に幻想は抱かないし、どちらかというと苦手な類でもある。これで下心抱く方が難しいと思う(それでも挑み続ける勇者と書いてBAKAと読む人々もいるそうだ。ついてけねえ。)
「兄さんは多少鈍感です。相手の人たちが少し不憫です。」
「どうした?何か言った?」
「いいえ、なんでもありません。」
いわゆる怒っている笑顔をこちらに向けてきた。少し他の人と違って上品さがあるのも特徴である。
「どうしたの?何か兄さん怒らせるようなこと言った?善処するよ。」
「どうもありませんから。続きをどうぞ。」
後で頭撫でて収めよう。溺愛している妹からのこの視線はライフがどんどん削られる。ボクはドM系シスコンではない!純愛系だ!この視線はキツイ。
「ああ、そういうこと。薊ちゃんも心労が絶えないみたいね。この朴念仁いつか矯正しないとね。いや、調教か。」
なんか矯正だけでもひどいのに調教とか怖い単語出て来たけど…。というか朴念仁ってなんだよ。ボク、周りには敏感ですよ。逃すことがないただ一つの耳…ボッチイヤー。やっぱ、悲しいな。泣いていいですか?
年甲斐もなくワンワン泣いてよろしいでしょうか!女性陣怖い。というか、出会って一日目の人に
「修正してやるぅ。」と某宇宙戦争物の2作目の主人公が言いそうなセリフに近いこと言いやがった。
そいつも確か遭遇したのが数回目の時だったっけ?体を通して出る力がぁ~!
「いやどうした!そこまで言われる必要ないと思いますが。」
「さあ、本題に戻りましょうか。」
「スルーはやめて、傷つく。」
心境はさながら変人が寄ってきてた時期のようだ。正直、あれのせいで大分孤立したと思う。いや、それだけじゃ…ないよな。決定的なのは他にある。
「私は他人から覚えられなければ何もされない。そう知ったから今の生き方をしている。でもこんなの間違っていることぐらいはとうの昔から気付いていた。歪んでいる、余計に何かされるかもしれない。こそこそ生きている方がいじめられやすいという統計もあるけどそれは甘いだけ。本気なら何もされない…気づかない。でも、時々これでいいのかと涙すら出ない状態のくせに思う。」
「他人の家の問題に介入するのは本当はご法度だけど…ボクは…君が手を差し出すならその手を引こう。ボクは君を助けたい。それが…偽りのないボクの本心だ!」
「本当にあなたはお人好しなのね…じゃあ…私はその差し伸べられた手を…掴んでしまいたい。私を…助けて。」
「その願い…しかと受け止めた。」
「そんな時でもパロネタ使うのね。」
「ツッコミはなしでお願いします。というかわかるのかよ。」
「有名でしょ。知ってるわよそのぐらい。」
「ははははははははははははは」
「ははははははははははははは」
笑った。頭がおかしくなったように笑った。
希も胸につかえていたものが少し取れた様で、さわやかな笑顔をしていた。
取り敢えず作戦を考え、それを決行する必要がある。立ち止まっても、現状の心持を変えても解決はしない。ボクが今まで得た中で一番信用している経験だ。またいずれ、作戦を考えるために合流する必要があるため、取り敢えずはボクの携帯の電話番号を教えておいた。親の問題上、携帯を契約することなぞできないし、こちらからかけると家庭環境が悪化しかねない。だから一方的にこちらのアドレスを教える形で終わらせた。希もそれについては理解できているようで話は早かった。
そう決めて、家へと帰っていった。自分の居場所がない。その場所へと…。
話は変わってボクの母さんについての話をしよう。
母さんはボクとほぼ同一の思考パターンを所持していて、それだけでなく一見しただけで親子だと気づかれる程姿かたちが似ている。考えてみよう。
もし、考え方が完全に一致していた場合を…。
何か隠し事をしようものなら…自分ならどうするかを考える。それが何を意味するか?
答えは至極簡単なことで…自分と同じことを思いついてしまう。要するに、何考えてるかは大概分かる。
逆に言えば、こちらも全く同じであるのだが…。
君たち…母という存在をなめるなかれ…大体一歩上手をいかれる。でも大体ボクと同じ軽いアホの子であるので、ボクにも出し抜くことが完全に不可能というわけでもない。
というか、問題がそれだけで済んでいたらどれだけ良いものか。
結構…ヒステリックぽいものを持ってたりする。簡単に言うと…癇癪持ち?
そこでさらに悪質なのは、キレた状態でも冷静さを保っていることが結構多いのである。
なぜにこんな変わった家族事情を話している?そんなこと簡単である。
それを応用したお説教中なのである。
いや、あの人セコイで。何がって、薊出しやがった。ただいま部屋でいじけてます。
お説教されたことについていじけるほどボクも子供ではない。それはやっぱり考えることが同じならばすぐにわかるのであろう。あんな残酷なこと平気でできるのか…。
『あんな奴人間じゃねぇ。』
そんなことさえ思ってしまうのであった。
ことの発端はボクが希に作ったエビチャーハンである。
覚えているであろうか…これはボクが自衛目的で作った側面もある。少し考えると変だとは思わないだろうか?
失神するほど苦手なのになぜメニューがエビのみになると分かったのか、勘のいい方は察しがついたであろう…。
我が母上はエビとかカニが大好物である。
そりゃあねえ、キレるよねえ。その時の会話を振り返ってみよう。
「ねえ、晃司?」
「なんだい、どうかしたかい?」
「悩み関係で人を連れてくるのはいいとは言ったけどさあ…。さすがにエビセット使うのはやりすぎではないかなとは思うよ。」
「あ、いや、それはね、ほら…あれだよ。エビ食いたくねえんだよ。」
「その言葉出ることは一言一句違わずに予測できておったわ。」
「うるせえ。そんなんだからボクはクローンとか言われるんだぞ!」
「そんなことは知らない。」
「てめえ、ボクがどれだけこの件について頭を悩ませてると思ってやがる!」
「それより、私が言うよりも効果がある方法思いついたんだけどさ。」
「貴様、まさか、それだけは止めろ!そんな残酷なことをして許されると思っているのか。」
「ふん、察しのいいガキは嫌いじゃないよ。おいで、薊。」
そう言って薊は少し…いやかなりビクビクしながら部屋へと入ってきた。
「ねえ、薊ちゃん?薊ちゃんは兄さんと一緒にエビ食べたかったよね?」
『止めろ…やめてくれよ・・・この先の言葉はわかる。その言葉を言われたら…ボク一時再起不能になるよ…。ただひたすらゲームするだけの廃人と化すよ。』
そんな心の言葉は当然届く筈もなく(どうせ母さんは一言一句違わずにわかってるだろうけどなあ…。)
「私は兄さんと食べたかったです。それにエビ自体も結構楽しみにしてました。でも、兄さんは何としても回避したかったのでしょうし、一人分しか使っていませんでした。」
ここで一呼吸を置き。
「兄さんが嫌ならば、それは楽しくなくなってしまいます。」
言われた、言われてしまいました。これはシスコンとしてかなりのダメージを負ってしまいます。
心に見えない矢が刺さったような感覚である。
まあこんな感じで今、傷を癒しております。…母さん普通のときはいい人なんだよ…キレやすいけど。
大体ここを除けばボクとほぼ同一なんだよね。アイデンティティと考えれば許せる。
心の傷はいつごろ癒えるのでしょうか?
わっかんねえわ。
ここでいう晃司君の違和感とはネグレクトと虐待は両立しずらいという構図です。
希の発言ではネグレクトの様な状態であったことが分かるけれども、実際に痣ができるなど実害を受けている。これは悩みとして何度か介入した彼にとっては混乱を招いてしまったのです。
ちなみに晃司君は不細工なわけではありません。彼の周りにいる人が彼の濃いめの顔をいじっていため、自信がないようです。