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知らなくて  作者: みなみ 陽
序曲
7/21

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【五月一日 午前九時】


「どうかどうかどうかどうか……」


 翔太は、目を瞑り両手を合わせてブツブツと神様に祈っている。多分祈っているのは将来のことについてだろう。翔太の幼い頃の夢は、正義のヒーローになることだった。確か戦隊物のテレビを見て影響を受けたからだと思う。そして、成長して多少夢は変わったが本質的には変わらず、役者になりたいと言っている。


「そんなにお願いせんでも神様はちゃんと翔太を見とるよ。大丈夫、焦らんくても」


 すると、手を合わせるのを止めて翔太は、むすーっと頬を膨らまして言った。


「神様は俺の何が気に食わんのよ~」

「まだまだ修行しろってことじゃないんかね? が――」


 頑張ろうと言いかけた時だった。突然静かで神聖な神社でピアノの音が響いた。その音で私は跳び上がった。最初にドーンとくる曲だから不意にこんなに大音量だとびっくりしてしまう。


「なんじゃ!?」


 翔太が驚いた顔で私を見る。


「ご、ごめん。音が小さいと気付きにくいからいつも大音量にしとるんよ。電話じゃ電話」


 私は慌てて鞄からスマホを取り出して、誰からの着信か確認する。画面には『お姉ちゃん』と書いてあった。


「お姉ちゃん? どうしたんじゃろ」


 お姉ちゃんからの突然の着信に疑問に思いつつも、応答ボタンを押した。


「もしもし? お姉ちゃん? どしたん?」

「あ、良かった。出てくれた」


 お姉ちゃんは笑っている。


「そりゃ出るけど……」

「デート中じゃろうけんさ、邪魔しちゃ悪いかねーって思っとったんじゃけど~」


 お姉ちゃんのからかう口調に、私は恥ずかしくなってきた。お姉ちゃんに二人で出掛ける所を見られていたという事実。これは死ぬまでネタにされてしまうかもしれない。


「違うって! 用事ないんじゃったら切るよ!」


 私は、耳からスマホを離して画面に向かって叫ぶ。


「あ~! ごめんって! 冗談じゃけん! 耳痛い……用事はちゃんとあるけぇ!」


 それを聞いて私は再び、耳にスマホを近付ける。


「じゃあ、はよ言って」

「え~と……電話じゃちょっと話しにくいけんさ~……帰って来てくれん? 近くに翔太君もおるなら余計にね」


 先程の私をからかう楽しそうな口調とは一転、何かを感じさせるような暗い口調でそう言った。


「え? うん、分かった」


 ただごとならぬ雰囲気に私は到底断ることなど出来なかった。私は、電話を切って鞄にスマホを戻した。隣で首を傾げる翔太が口を開く。


「どしたん、何事?」

「お姉ちゃんが戻って来てって。なんかあったんかね……」

「春紀のテンションが急に下がるけん、びっくりしたわ~」

「そんなに下がっとった?」

「結構ガクーンとね」


 翔太は手を上に持って行って、一気に下げた。


「まぁともかく……私は帰るけど翔太はどうする? まだ色々見たいんじゃったら見とってもいいよ」

「……分かった! 一人で見るかぁ~しゃーない」

「帰り道とか分かるよね? 迷ったりせんでよ」


 私は少し心配になった。翔太は元々ここに住んでいたとは言え、それは結構前の話だ。記憶に無くなっているかもしれない。だからこそ私を一緒に行こうと誘ったのかも。

 しかし、それは余計な心配だったみたいだ。


「な~に言っとん。迷う訳ねーじゃん。大丈夫!」


 ないないと言うように、翔太は両手を振った。


「私、てっきり道覚えとらんけん、一緒に行こうって言ったんかと思ったわ」

「いやいや違う違う」

「な~んだ。じゃあ、わざわざ一緒に行かんでも良かったって訳か~」


 私は、冗談っぽく言った。勿論冗談である。それを翔太も理解してか、笑いながら言った。


「ば~か。お前とじゃなかったら思い出語れんじゃろーが! 寂しいけど、行ってこい!」


 翔太は手を振った。私は恥ずかしくて、急いで後ろを向いて神社の階段を駆け下りた。ドッドッという音が、階段を駆け下りる音よりも速いようなそんな気がした。

***

【同日 午前十時】


「え……何言っとん?」


 遮光カーテンが閉められて真っ暗になったお姉ちゃんの部屋。用事があると言われて急いで家に帰るなり、この部屋に連れて来られた。そして、そこで私は衝撃的なことを言われた。


「嘘よね? また私をからかおうとしてそう言っとるだけよね?」


 私が問いかけても、お姉ちゃんは口を開かない。表情も部屋が暗くてよく見えない。だが、到底笑っているとは思えなかった。


「そんなん無理……」


 私はしゃがみ込んだ。姉の言ったことの恐ろしさに、震えが止まらなくなって立っているのが難しくなったから。


「お姉ちゃんからの最初で最後のお願い……聞いてくれるじゃろ? お願い。大丈夫じゃけん」


 大丈夫な訳無いじゃん……と言うことが出来なかった。

 私は断れない人間だ。今まで私はお姉ちゃんに数え切れない程のお願いをしてきた。おねえちゃんの苦労を見てきた。

 だからこそ、断る勇気がなかった。断らないといけないのに。


「分かった……私がやれることなら全部やる……」


 ごめんなさい翔太。私は――




















 ――将来また島で暮らせないかもしれない。

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