最悪の家族の団欒
【五月一日 十二時】
微笑ましく今日あった出来事を語りながら、私達は食卓を囲んでいる――――なんてことはあるはずもなく、殺伐とした家族の団欒とは思えないほどに空気が悪い。
会話も一切なく、ただただ食べる音だけがそこにある。勝紀は当然いないし、これを家族の団欒と称するには無理があるようにも感じる。
ただ、この空気はいつものこと。昔から変わってなどいない。しかし、客人が来ているのにこの空気は珍しい。だが、隣の翔太はそれを大して気にしていないのか、普通に美味しそうに食べている。
頑張って作っても食事がちっとも美味しいとは感じない。一刻も早くこの場から立ち去ってしまいたい。
が、そんな空気をお姉ちゃんの声が突然切り裂いた。
「どうせ一対一で話してなんてくれないだろうから今言ってもいい?」
誰に対して言っているのだろうかと、私はお姉ちゃんを見る。お姉ちゃんの視線はお父さんに向けられていた。
お父さんは食事の手を止めることも、お姉ちゃんに視線を向けることもなく言った。
「芸能界なんて辞めるっちゅう話だったらいくらでも聞いちゃる」
「は?」
お姉ちゃんは、バンッと箸を置く。
「どうして私の話を聞いてくれんのん!? 芸能界は絶対に辞めんけん! 父さんが何をしても! 私は知っとんじゃけぇね、根も葉もない噂を週刊誌に流したことくらい!」
「え……」
思わず声が漏れた。お父さんは、そこまでしてお姉ちゃんに芸能界を辞めて欲しいのだろうか。
「なんのことじゃ」
「とぼけんでや! ネットニュースにもなっとる!」
お姉ちゃんは、机に置いていたスマホをつつき始める。そして、そのスマホの画面を私達に見えるようにスマホをゆっくりと動かしながら言った。
ゴシック体で強く書かれたタイトルに私は驚愕した。
『本当はピアニストになりたかった桜庭由紀!? 関係者に漏らした芸能界への不満!』
お父さんはやっと顔を上げた。その顔は笑っている。してやったりと、自分の行為を認めるような笑顔。
「あんな泥臭い品のない集団と一緒におったらお前もそうなる。いや、もう既にそれに近くなってきちょる。わしらの家系は代々音楽家と決まっとる。それなのにお前が言うことを聞かずに勝手に家を飛び出すけぇ、こうなったんじゃ」
「決まっとるってなんでですか」
意外にもお父さんに最初に物申したのは翔太だった。
「翔太君には関係のないことよ」
お母さんは、お茶を優雅に飲みながら言った。
「確かに俺は死ぬほど関係ない赤の他人ですけど……自分の道は自分で決めるべきだと思います! 由紀さんのやってることは凄いことなんすよ!? 自分の持ってる夢をちゃんと自分で叶えるって……それを親が邪魔してどうするんすか? 家系とかそんなに縛られてちゃ駄目ですよ!!!」
そう語る翔太の眼は本気だった。
「今日の食事の空気がずっと重苦しかったのってこれのせいですか? 昔はワイワイしてたイメージがあったんすけど。この空気をどうにかしたかったけど、俺には出来そうもないっすわ!」
翔太はそう言うと、合掌のポーズをして、逃げるようにリビングから去っていった。
「翔太……」
翔太の言ってることは一番正しい。翔太の見たこの食事風景が本当の姿。もはや客人の前ですら隠し切れなくなるほどの険悪さ。
私は悲しかった。




