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知らなくて  作者: みなみ 陽
迫り来る不穏な影
10/21

修復出来ない関係

【五月一日 十二時】

 

「ほら言わんこっちゃない……」

「うおぉぉっ!? これ砂糖か! てへぺろ~」


 塩と砂糖を間違えるという典型的なミスを犯す翔太。それを見て楽しそうに笑うお姉ちゃん。そんなこと気にも留めず、せっせと料理を作るお母さん。


「なんでポテトに砂糖振りかけちゃうかなぁ!? てか、もうこれ料理じゃないじゃろ! 論外!」

「や~つい、うっかり」


 翔太はペロッと下を出して頭を掻く。


「将来の奥様~、ちゃんとサポートしてあげんとぉ~」


 お姉ちゃんは、トマトを切りながら私を肘で小突く。


「そういうのじゃないってば……そろそろ怒るよ!?」

「もう怒っとるじゃん。あ、ほらよそ見せんとちゃんと鍋見て!」

「誰がよそ見させとるんかねぇ……ほんま」


 料理自体、私もそんなに得意ではないので神経を使う。さらに指を怪我してはいけないので余計疲れる。それに加えてお姉ちゃんのイジリがあったら、もう私は死にかけの女である。


「もう、あんたら喧嘩せんの。大人じゃろうに。翔太君、ごめんね~」


 お母さんが魚を捌きながら、呆れ口調で翔太にそう言った。


「いや~面白くっていいっすね~、一人暮らししてるといっつも静かで寂しいんですよ。これくらい賑やかなくらいが丁度いいですよ!」


 と、言いながら翔太はポテトに塩を死ぬほどかける。


「ああああ!? 何しとん!?」

「何って塩かけとるんじゃけど。甘いポテトはちょっとね」

「そんなにかけたら辛いし体に悪いじゃんか! お父さん色々気にしとるんじゃけ! もうそれ翔太一人で食べてや!」

「えぇぇぇえ!? この量を!?」


 翔太は、目を見開いて叫ぶ。ポテトは大皿に山盛りあり、正直いくら男性でもキツイんじゃないかと思う。味が味だし。


「自己責任でお願い致します」


 私は隣の翔太に向かって心からの笑みを送ってやった。


「ひえぇええええ! 鬼だ! 鬼がおる!」

「誰が鬼じゃっ!」

「父さんの体を気遣う鬼なんて早々いないわよ。全く春紀は優しいんだからさ」


 お姉ちゃんのテンションは明らかに下がっていた。そんな露骨に態度に出すのは止めて欲しい。


「俺には鬼で家族には天使……成る程、これは深い」


 何が深いのよ、と思ったが口には出さず料理に集中することにした。そろそろ味噌汁もいい頃だ。懐かしい家庭の匂い、味噌が同じではないと結局いくら頑張ってもこうはならない。


「お母さん、こっちは出来たよ」

「じゃあ、お椀についで頂戴」

「は~い」


 私は後ろに置いてあったお椀を手に取って、火を消した。そして、お玉で汁を掬ってお椀に入れる。

 いい香り、凄く美味しそう。ちゃんと出来て良かった、と胸を撫で下ろした。


「お~普通に味噌汁作っとる」


 翔太が鍋を覗き込む。


「当たり前じゃろ、翔太よりは料理出来るんじゃけ」

「俺だって任せて貰えたらちょちょいのちょいなんじゃけどね~」

「どの口がそれを言っとんかね、ほんまに」


 塩と砂糖を間違えたくせに、どうしたらそんなに自信が持てるんだろうか。


「は~い、こっちもサラダ出来ました~」


 お姉ちゃんはテレビ風にそう言った。確か、昼時に料理番組に少し前まで出演していた記憶がある。多分、すっかり癖になってしまっているんだろう。


「うん、じゃあそこ置いといて」


 お母さんは素っ気なく返答した。


「貴方~昼ご飯出来ましたよ~」


 お母さんの声が家全体に響き渡る。


「はぁ……」


 思わず溜め息が漏れた。私達家族はもう全然修復出来そうもないんだって思ったから。その溜め息が隣の翔太に聞こえたらしく、不思議そうにこちらを見ていた。


「疲れたんか?」

「まぁ、そういうことにしとって」


 私は翔太にそう言い捨てて、味噌汁を持ちリビングへと向かった。

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