修復出来ない関係
【五月一日 十二時】
「ほら言わんこっちゃない……」
「うおぉぉっ!? これ砂糖か! てへぺろ~」
塩と砂糖を間違えるという典型的なミスを犯す翔太。それを見て楽しそうに笑うお姉ちゃん。そんなこと気にも留めず、せっせと料理を作るお母さん。
「なんでポテトに砂糖振りかけちゃうかなぁ!? てか、もうこれ料理じゃないじゃろ! 論外!」
「や~つい、うっかり」
翔太はペロッと下を出して頭を掻く。
「将来の奥様~、ちゃんとサポートしてあげんとぉ~」
お姉ちゃんは、トマトを切りながら私を肘で小突く。
「そういうのじゃないってば……そろそろ怒るよ!?」
「もう怒っとるじゃん。あ、ほらよそ見せんとちゃんと鍋見て!」
「誰がよそ見させとるんかねぇ……ほんま」
料理自体、私もそんなに得意ではないので神経を使う。さらに指を怪我してはいけないので余計疲れる。それに加えてお姉ちゃんのイジリがあったら、もう私は死にかけの女である。
「もう、あんたら喧嘩せんの。大人じゃろうに。翔太君、ごめんね~」
お母さんが魚を捌きながら、呆れ口調で翔太にそう言った。
「いや~面白くっていいっすね~、一人暮らししてるといっつも静かで寂しいんですよ。これくらい賑やかなくらいが丁度いいですよ!」
と、言いながら翔太はポテトに塩を死ぬほどかける。
「ああああ!? 何しとん!?」
「何って塩かけとるんじゃけど。甘いポテトはちょっとね」
「そんなにかけたら辛いし体に悪いじゃんか! お父さん色々気にしとるんじゃけ! もうそれ翔太一人で食べてや!」
「えぇぇぇえ!? この量を!?」
翔太は、目を見開いて叫ぶ。ポテトは大皿に山盛りあり、正直いくら男性でもキツイんじゃないかと思う。味が味だし。
「自己責任でお願い致します」
私は隣の翔太に向かって心からの笑みを送ってやった。
「ひえぇええええ! 鬼だ! 鬼がおる!」
「誰が鬼じゃっ!」
「父さんの体を気遣う鬼なんて早々いないわよ。全く春紀は優しいんだからさ」
お姉ちゃんのテンションは明らかに下がっていた。そんな露骨に態度に出すのは止めて欲しい。
「俺には鬼で家族には天使……成る程、これは深い」
何が深いのよ、と思ったが口には出さず料理に集中することにした。そろそろ味噌汁もいい頃だ。懐かしい家庭の匂い、味噌が同じではないと結局いくら頑張ってもこうはならない。
「お母さん、こっちは出来たよ」
「じゃあ、お椀についで頂戴」
「は~い」
私は後ろに置いてあったお椀を手に取って、火を消した。そして、お玉で汁を掬ってお椀に入れる。
いい香り、凄く美味しそう。ちゃんと出来て良かった、と胸を撫で下ろした。
「お~普通に味噌汁作っとる」
翔太が鍋を覗き込む。
「当たり前じゃろ、翔太よりは料理出来るんじゃけ」
「俺だって任せて貰えたらちょちょいのちょいなんじゃけどね~」
「どの口がそれを言っとんかね、ほんまに」
塩と砂糖を間違えたくせに、どうしたらそんなに自信が持てるんだろうか。
「は~い、こっちもサラダ出来ました~」
お姉ちゃんはテレビ風にそう言った。確か、昼時に料理番組に少し前まで出演していた記憶がある。多分、すっかり癖になってしまっているんだろう。
「うん、じゃあそこ置いといて」
お母さんは素っ気なく返答した。
「貴方~昼ご飯出来ましたよ~」
お母さんの声が家全体に響き渡る。
「はぁ……」
思わず溜め息が漏れた。私達家族はもう全然修復出来そうもないんだって思ったから。その溜め息が隣の翔太に聞こえたらしく、不思議そうにこちらを見ていた。
「疲れたんか?」
「まぁ、そういうことにしとって」
私は翔太にそう言い捨てて、味噌汁を持ちリビングへと向かった。




