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オレンジ -即興小説トレーニングより- お題 純粋な殺人

作者: nagiko

この小説は過去、ホームページ「即興小説トレーニング」に1時間で記述したものを再掲しています。

http://sokkyo-shosetsu.com/novel.php?id=399042


私はあの人のことが好きだ。


そう思い始めるのがいつだったかはもう思い出せないくらい、私はあの人のことを見ていた。


教室の匂い、雨の信号待ち、昼食のカレーパンを食べる横顔を、私は拾い上げ、他の人に気づかれないように、目をつむり、大切に心の奥にしまう。

そして、夜、豆球の光がふんわりと照らす中で思い出し、想い出し、心が締め付けられるのだった。


いつものように布団に入る。今日はお母さんが布団を干してくれたから、布団がなんとなく熱を内包している気がした。

優しい感触に包まれ、私は電気を消した。

今日目をつむって最初に心に止まった鳥は、あのときのあの人の仕草だった。

私はその高い木の枝に止まった鳥を、おいでおいでをしてから指を差し出す。ここにとまって。


あの人は授業中だった。肩越しにあの人が先生の話を聞いていた。熱心でも退屈そうでもなく、ごく自然体に聞いていたのだ。私はだからこの人が好きなのだ。

ふと、手を肩において、あの人がちょっとうつむき、目を瞑る。

私は気づいていた。あの人のよくやる癖だった。

最近は見る回数が多くなった。私が気づいてからは、より回数を見かけることが増えたのだ。


止まってくれた小鳥はあたりをチッチッと見渡しながら、それでも逃げ出さないでいてくれる。

小鳥は、オレンジと黄色の合わせた、フワッとしたオーラで包まれていた。


私が気づけた、あなたさえ知らない、あなたのよくやるしぐさ。

私は布団の中でそれを真似してみる。肩に手を置き、目を瞑る。

誰と比較しても標準的な私の胸の間を遮るように手首を通し、肩越しに掌をおとす。

不思議と、手首に伝わる振動は、一定の速度を保ったままだった。

実際にやってみて、もう一方の手も肩に置きたくなった。まるで自分を抱いている気分、まるで貴方を…

私は貴方に守られるように、小鳥のゆったりした足の感触と共に、眠りに落ちていった。



朝、目が覚める。

目覚まし時計の2分前、私は手をおいて、まるで子供のようにけたたましく鳴り響く前に、子どもの頭を撫でるように、目覚ましを止める。

さて、今日も学校に行こう。



………

……


帰り道、私は河川敷の徐々に高くなっていく土手の上り際で、茜色に染まりゆく空を見ていた。

鳥が何匹か、軌道もそれぞれに、自由に空を飛んでいた。

私は立ち止まって、今に落ち往く夕日に目を下ろす。キィィ…と、自転車の擦れた音が鳴る。


私は急にあの人のことを思い出す。ほんとにふと思っただけなのに、その想いは私の感じた以上に大きく、広く、広がろうとする。

私はついに耐えきれなくなって、あの人の仕草を両手でする。心が落ち着くまで、と。

でも、やっぱり逆効果。あの人のことがさっきよりも近くに感じられて、心からこんこんと湧き出る感情に耐えきれなくなる。色濃く染まった空から、地面にポタポタと印影を残す。

私は耐えられなくなって声を出す。ぐずついていた感情は一気にこどものように泣きじゃくるようになった。

私は周りの目など気にせず泣いた。もう一心不乱に、止まらない涙をすくい上げるように手を動かす。それでも涙は、それ以上にこの気持ちは、止まることがなかった。止められない。

私は誰?貴方はだれ?ここはどこかも、なんでここにいるの?わからなくなるまで泣いた。ただ、あの人は私の大切な人。私のすべてを差し出しても、あの人がそばにいるだけでいい、一緒にいるだけで神様さえ許せてしまう。



ようやく涙の根源から溢れ出すことがなくなった頃、少し風が出てきていることに気づいた私は、自転車に手をかけ、前に進もうとする。

ふと空を見上げる。一番星がいち早く、心細げに輝いていた。

貴方は私を殺したのだ。私のすべてをあなたにあげよう。だから、そばにいて欲しい。



明日、告白しよう。そう決めて、私は自転車のグリップを強く握った。

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