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恋のまにまに  作者: 羽元樹
7/11

1部1話「銀髪青瞳の戦国姫」7

 無言で缶に入ったブラックコーヒー、カフェオレ、ミルクティーを差し出す深朱。

「うむ?わらわたちにくれるのか?」

「好きなヤツを選ぶといい」

 私はカフェオレをチョイスし、史華はミルクティーに手を伸ばす。

「うむ。感謝する」

「あ、あ、あ、ありがと…う」

 深朱がくれたカフェオレは少し熱めで日陰にいて少し冷えた体には心地がよかった。

「しかし、どうしたのじゃ?こんなところに」

 私の言葉に史華も追随するようにコクコクと首を縦に振る。

 質問に対し、無言でベンチの先客であった黒い弁当箱を持ち上げる。

「…となり、いいか?」

「かまわぬぞ」

 深朱、私、史華の三人が横並びに座る。深朱は「いただきます」と小さく呟き、弁当の包を開ける。美味しそうなサンドイッチが姿を現し、彼の口はサンドイッチに占領される。

「先客はお主だったか。元々、お主が昼食を取るベンチであったのじゃな」

「……学生全員の場所だ。気にする必要はない」

 中学の頃、サッカー部のエースで部活動、そして生徒会も並行して所属、彼は常に忙しさを纏っていた。

 中学の3年間、彼の顔を見て会話をすることがあっただろうか?同じく生徒会に所属していた一つ下の妹・羽衣から深朱の話を聞くことがあったが、まるでテレビの芸能人ニュースを聴いているような、関わり合いのない話のように思えた。

 高校に上がり、同じクラスになったものの、入学してすぐ生徒会に招かれたため授業以外はクラスにいないことが多かった。

 とはいえ、今朝からの教室の空気を深朱も理解しているだろう。

「…何があったのか、聞かぬのかの?」

「……相談に乗ろうか?……それは、相談を解決する責任を全うできるような者が言うことだ。俺には言える言葉ではない。そんな男でもいいと、手を伸ばしてくれるというのであれば、俺は全力でその手を掴む覚悟はある」

 積極的な受身というのだろうか。二律背反のような価値観を胸に抱く男だな、という認識を持った。

 史華のほうは。

「あ、あの、冷たくて怖いイメージだったんだけど……すごく優しい人なんだね」

 少し深朱に対し、警戒を緩める素振りを見せる。

「…じゃあの。わらわたちを助けてくれぬか?」

「その前に、何に困っているのか?」

 とかく空気を読む男だ。私たちの状況を把握していないとは思えない。

「浅井可憐を筆頭に女生徒から目を付けられたことかの」

「では、翼姫は、浅井の何を知っている?」

「……可憐の…?」

 2週間ほどの付き合いではあるのだが、当然、可憐のことは誰に対しても毒を吐く女だと…誰にでも?

「まさか…!?」

「浅井は、別に傷つけようと思って言っているわけではない。あいつは、人が傷つくことを知らないだけだ。お前のことをタツムリ、

島津のことをハムスターと呼んだようだが、俺はキリンと呼ばれている。動物に例える傾向にあるようだな。だからと言って、浅井に非がないわけではないが、君たちだけを目の敵にしているわけではない」

 私は歩くのが遅いからナメクジ、史華は小さくて大きな瞳の容姿からハムスター、深朱に至っては背が高いからというだけの理由でキリンと揶揄されたようだ。

「女生徒たちだが。翼姫が入院したさいに、『脳に異常があるかもしれない』とクラスに告げられていた。そんなヤツが銀髪青瞳で来てみろ。本格的に頭がおかしくなったのでは、と思っても不思議ではないだろう?それに…」

 ブラックコーヒーを一口含み、静かに飲み込む。

「自分より、地味で容姿に劣ると思っていた女子生徒が、あれだけのメタモルフォーゼ。女生徒は嫉妬するものではないのか?」

「あ~…」と史華は納得した様子。

「そうかの?自然に戻っただけなのだがの?」

「無理に地味にしていたのだから当然だろう?偽っていた翼姫にも非があるのではないか?」

 ぐっ……

「これは時間や翼姫のこれからの態度次第で改善していくものだと思うが。俺もフォローはしよう」

「そうなると、なぜ男子生徒は、わらわに気遣う素振りをしたのじゃ?」

 深朱は即座に答えた。

「男は美人に弱いのは世の常だろう?」

 わ、私は美人だったのか……

 そう衝撃的な言葉に、乾いた喉を潤すために含んだカフェオレは、不思議と渡された時よりも熱を帯びているように感じたのだった。


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