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恋のまにまに  作者: 羽元樹
2/11

1部1話-2

 以前より軽く感じるドアが隔てる外の景色に目をやると、眩しい日差しが降り注ぎ一瞬視界を奪う。

「……おはよう、翼姫」

 家から出た私に声をかけた彼は、二軒となりに住んでいる幼馴染の織田深朱だった。

 幼馴染といっても、たまにすれ違うと挨拶を交わす程度で、それほど仲のいいわけではない。

 今回もたまたま通学途中で、家の前を歩いていただけだろう。

 時刻は7時10分。普段は7時40分頃出てギリギリ、30分で少し余裕がある感じだ。

 従って、今日はかなり早いことになる。深朱はいつもこの時間に登校しているのだろうか?

「……体は、もう大丈夫なのか?」

 私の怪訝な視線も、さして気に止めない様子で言葉を紡ぐ。その声は『頼れるお兄さん』ってこんな感じの声なんだろうな、と思わせる声だ。現に彼は1年生にして生徒会の仕事を手伝っている優等生だ。背は高く180センチに届くくらいだろうか。中学の頃はサッカー部に所属し、活躍をしていたことを私は知っている。その細いように見えて、筋肉質の彼は『頼れるお兄さん』を具現化したような存在であろう。しかし、冷気を帯びた視線、言葉を多く発さない静寂を友とする彼の周囲には、人を寄せ付けないオーラを感じさせた。

 さすがに、生まれた頃から知っているので、そのオーラなど気にもならないのだが。

「心配をかけてすまぬな。おかげさまで壮健じゃよ」

 深朱は、その返事に僅かに頬を緩めた。

「それはよかったな」

「深朱は、どの程度知っておるのじゃ?」

眉間の間に皺を寄せたが、それも一瞬で、皺は溶けるように姿を失った。

「……自分の知らないところで、自分のことを知られているというのは不愉快ではないのか?」

「気にせぬよ。最近は疎遠にはなったが、幼馴染であろう?」

「……そうか。ある程度は羽衣から聞いている。羽衣を責めないでやってほしい」

「責めなどせぬよ。むしろ、羽衣が頼る相手は深朱しかおらぬのだ。相談相手になってくれた事に感謝しておるよ」

珍しく深朱は視線を泳がせた。

「羽衣を生徒会長に推薦したのは俺だ。完璧な生徒会長であろうと無理をしているのを知っている。まぁ、相談相手くらいしかできないがな」

 少し自重めいた笑いを浮かべた深朱は、視線を私から外した。

「では、俺は生徒会があるから、先に行かせてもらう」

「おぉ、気をつけてな」

「……翼姫も気をつけてな」

「心得た」

 ゆっくりと歩き出す深朱は、ふと立ち止まり、こちらへ振り返った。

「……そのほうがいい。翼姫は翼姫だ。忘れぬようにな」

「……忘れてはおらぬよ」

「ならいい。ではな」

 深朱は深朱なりに、私ことを心配していたのだろうか。

 小さくなっていく、大きな彼の背中を眺めていた。


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