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第9話
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あの子が言う。
「思い出せた?」
ミツは言う。
「思い出せた、あなたのことを」
「でも、きっとまた忘れちゃうんでしょう?」
「忘れちゃうかもしれない」
「忘れてもいいんじゃない?」
「忘れたくないよ」
「子供の頃の記憶だもの。忘れるに決まってる。そんなことで苦しんでるのはきみだけだよ」
あの子が笑う。こんな笑い方だった。
月光の下。
竜の泳ぐ夜。
白銀の髪と黄金の瞳をした幼い少女が、あの子の姿で、あどけなく微笑む。
「もし…」
ミツは訊く。
「もし、あなたを忘れて生きていっても、私を許してくれる?」
「許す」
あの子は言う。
「いや、許さないかも」
「どっち」
「どっちも」
「どっちもかぁ」
ミツは笑った。「そっかぁ」と笑う。
あの子も、笑っていた。




