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ミツ  作者: 鈴本恭一
9/10

第9話

10



あの子が言う。



「思い出せた?」



ミツは言う。



「思い出せた、あなたのことを」


「でも、きっとまた忘れちゃうんでしょう?」


「忘れちゃうかもしれない」


「忘れてもいいんじゃない?」


「忘れたくないよ」


「子供の頃の記憶だもの。忘れるに決まってる。そんなことで苦しんでるのはきみだけだよ」



あの子が笑う。こんな笑い方だった。




   月光の下。


   竜の泳ぐ夜。


   白銀の髪と黄金の瞳をした幼い少女が、あの子の姿で、あどけなく微笑む。




「もし…」



ミツは訊く。



「もし、あなたを忘れて生きていっても、私を許してくれる?」


「許す」



あの子は言う。



「いや、許さないかも」


「どっち」


「どっちも」


「どっちもかぁ」



ミツは笑った。「そっかぁ」と笑う。



あの子も、笑っていた。


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