第6話 妾の冒険者生活は管理されてしまうらしいのだ...
「それなんだが、まずはCランクになってもらう」
「うむ? 意味がないのではなかったのか?」
「まぁ、取り敢えずだ。さっきも言ったが俺にはCまでしか上げれんからな」
「むぅ...」
てっきり依頼が美味しいAランクくらいまで上げてくれるのかと思っておったのだが結局Cランクなのか。
だけど、CランクでもDよりは御金が稼げそうだし、このままDに上げられるよりはCにしてくれただけでも良かったのかもしれんな。
何やら妾がCランクの依頼をやりすぎると言っておったが、怒られる前に稼ぎきってしまえば問題ないのだ。
後でごめんなさいして、少し大人しくしとけば大丈夫だろう。
--むふふ
貯まったらどうしようか...。やはり最初は宝物庫からか? キラキラした宝物を沢山貯め込みたいのだ。
「だが、Cにする代わりに受ける依頼は俺が選ぶ。
ランクを上げるための実績も必要だしな、少しずつ勉強できるようにしてやるよ」
「なっ、ちょっと待つのだっ」
「駄目だ待たねぇ」
「ぬぐっ」
「お前、依頼受けまくるつもりだっただろ」
「な、なんでばれたのだ」
「顔がにやけすぎだ」
「ぬぅ...」
まさか顔に出てたとは迂闊だった。これでは宝物庫は無理ではないかっ!
キラキラピカピカの宝石や硬貨を溜め込む予定だったというのに...。
「この条件が認められないなら、他の冒険者の生活を護るために登録を拒否するしか無くなるぞ、いいのか?」
「そ、それは困るぞっ」
稼ぐ手段が無くなるのは非常にマズイのだ。仕方ない宝物庫の夢は一旦諦めるか。
冒険者ギルドに入らなければ死活問題になってしまうからな、将来的に稼ぐためには仕方がないのだ。
「......わかったのだ」
「そうか」
渋々だが頷きながら返事をした、それを見てグラディスも頷き返して来た。
ふふふ、今は従順だが諦めてはおらんのだ。すぐに沢山稼げる方法を見つけ出してみせるぞ。
「それじゃあリィナ、こいつのプレートをCに更新しといてくれ。
詳しい事は俺が後で話しておく」
「はい、わかりましたっ」
グラディスが扉の方へ声をかけると、リィナが返事をして走り寄ってきた。
「レムリアさん、お疲れ様です。それでは一旦受付でプレートの書き換えをしますので、私の後についてきて下さい」
「うむ、わかったのだっ」
笑顔で声をかけられて、お姉さんと一緒に訓練場を後にする。
「それにしても、レムリアさんって凄いんですね」
「む? そ、そうか?」
「はい、試験であそこまで圧勝した人は初めて見ました...」
焼け焦げた通路に入ると、お姉さんから感心するような口調で話し掛けられてしまったぞ。やっぱりアレはやりすぎていたのか。1発攻撃を当てただけで圧勝して凄いと言われてしまったら、今後はどこまで力を抑えれば目立たないというのだ?
むぅ、もういっそ諦めて全力でやってしまった方が良いかもしれんな。詮索されるよりも言い訳を考えて誤魔化す方が面倒になってきてしまったのだ。
そんな感じで話しながら受付まで戻ってくると、リィナお姉さんからプレートを出して下さいと言われて手渡した。
「しばらくお待ちください」
そう言われて待っていると、少ししてから戻ってきたリィナお姉さんにCランクへと上書きされたプレートを手渡された...のだが。一緒に手渡されたこの紙の束は一体なんなのだ?
「そちらはギルドプレートの説明書になります」
「説明書?」
なんだ、ギルドプレートとは説明書が必要な機能なんぞ備えておるのか?
「はい、紛失時の手続きや、緊急時の機能などがありますので、後で必ず読んでおいて下さい」
「うむ、わかったのだ...」
むぅ、面倒だが後で目を通さんといかんか、紛失や緊急時の事と言われてしまえば放置するわけにはいかんしな。
それから二階にあるグラディスの部屋につれていかれると、そこでは今後の事を説明された。
- - - - -
・ 妾に知識をつけてもらうため、受ける依頼はグラディスが選ぶ。
・ 一日に受けられる依頼は3回まで
・ 何か在ればすぐにグラディスに報告する事
- - - - -
しかしこれは...。
「3回までとは少なすぎやしないか?」
「馬鹿言え、普通は一日に依頼を1つ片付けられれば良い方だぞ」
「むぅ、そうなのか」
そう言われてしまうと、増やしてくれとは言い難いぞ。あまり無茶を言って『なら1回にするぞ』と言われてしまっては困るしな。
「ところで、知識をつけるとはどうやるつもりなのだ?」
「ああそれか、それは俺が教えるのがうまいやつとパーティを組ませるから、一緒に冒険をして学んでくれ」
「パーティを組むのか?」
「そうだ、それ以外に方法はねぇだろ」
「そ、そうか」
パーティを組むのはかまわんが、知らない人といきなりはちょっと緊張してしまうのだ。
「そう言えばレム、お前『エルフ』みたいだが魔法は使えるのか?」
「勿論、使えるに決まっているのだっ」
だが、妾は『エルフ』ではないぞ...と、続けようとした言葉は飲み込む事にしておいた。
またいらぬ事を言って騒ぎになったり、追い出されてしまっては堪ったものではない。
--妾も学習したのだっ
それに『エルフ』だと勘違いしてくれたおかげで魔法が使えると言う事にできたからな。ラッキーなのだ。
良くわからんが、これまで聞いてきた感じだとエルフは魔法を使うのが当たり前みたいだからな。これならソードマンで魔法を使っても誤魔化せそうなのだ。
「ほう、どんな魔法が使えるんだ? 支援系か、それとも攻撃系か?」
「ふむ...」
これはなんて返せば良いのだ? この世界の魔法はまだ何も知らんし困ったぞ。
前の世界の魔法なら全部使えるのだが、それを言ってしまうとソードマンでは無いとバレてしまうのだ。
そうだな、支援系なら地味そうだし近接職とも相性がいい。身体能力が強化されるだけだし、この世界に存在しない魔法でも見た目でバレることは無いな。よしっ。
「使えるのは主に支援魔法なのだ!」
「そうか、ならヒールやプロテクトなんかは使えるんだな?」
ふむ、魔法の名前は前の世界と同じだな。なら多分効果も似たようなものだろう。
「勿論、使えるのだ」
「そうか...」
うむ? 何故そこで落ち込んだ様な表情になるのだ?
「どうかしたのか?」
「あぁいや、お前試験では魔法使ってなかっただろ?
手を抜かれてあの座間だと思うと、ちょっとな...」
「いっ、いや、だが、近接戦闘中に魔法の詠唱なんぞやっとれんだろう?」
「まぁそうなんだが、お前さんなら出来そうな気がしてな」
「......。」
--な、なんか見抜かれとるのだっ
「まぁ...それはもう良い。
それで、御前さんの方から質問とかはあるか?」
「そうだな...。
取り敢えず今夜の宿が切実なのだ...」
もう日が完全に落ちてしまっているし、また街を散策していては確実に朝日が登ってしまうだろう。
「宿か? それならギルドの正面にある四葉亭が良いぞ」
「四葉亭か」
「ああ」
確かギルドを探す目印の1つで聞いた宿屋だな。何と、正面にあったのか、そんなの全く気づかなかったぞ。
「あそこなら、冒険者は今の時間からでも部屋が借りられるしな」
「冒険者だけなのか?」
「そうだ、あの宿とギルドは提携してんだよ。
急な依頼があった時や他所から冒険者が来た時に貸し出せるようにな。
俺の紹介状があれば、1ヶ月は一日銀貨1枚で滞在できるぞ?」
「紹介状が欲しいのだっ!」
「わかった、それじゃあ書いてやる」
「ありがとうなのだ!」
「おう、それで他には何もねぇか?」
「ふむ、宿以外にか...」
んー。何かか...。あっ。
「依頼が欲しいのだっ」
今のうちにもらっておけば、明日はすぐに御金を稼ぎに行けるのだ。
「あー......。
そっちは明日の昼まで待ってくれ。
組める相手を探すから、日程を調節せにゃならん」
「むぅ...しかし金が無いから、少しでも早く稼ぎたいのだ」
「それは...そうだな、それじゃあすぐに出来そうな依頼を、明日までに何か1つ見繕っといてやるよ」
「おおっ、頼むのだっ」
「ああ、それじゃあ他に質問が無いなら今日は此処らで解散って事になるが...」
「異論は無いのだ」
「よし、それじゃあ紹介状書くから少し待っとけ」
そう言うとグラディスは棚から書類を出してきて、何か書き込んでから魔力を込めて版を紙に押し付けた。
その紙を手渡されて受け取ると、適当に別れの言葉を言ってから部屋を後にした。
「む?」
階段を降りると、先程まではいなかった人混みが出来上がっていた。どうやらギルドの混み合う時間帯はこの辺りみたいだな。
どうやらみんな依頼の完了報告をしにきてるみたいで、受付でやりとりをしてから報酬の入った袋を受け取っていた。
そんな人混みをなんとか掻き分けて入り口までたどり着く。みんな背が高いせいで腰につけた武器の柄が額にあたってきて鬱陶しかったのだ。
どうにか押し戻されそうになるのを我慢しながら、ギルドから外へと脱出する。うぅ、魔法を使ってふっ飛ばすところだったぞ。
やっぱり人混みは危険なのだ、人に取り囲まれると周囲が全く見えなくなるぞ。
周囲を見て回りたいところではあるが、下手に動くとまた迷いそうなのだ。仕方ないので寄り道などはせずに真っ直ぐ宿屋を目指すことにした。たどり着けなくて野宿になるとか絶対に嫌だからなっ。
--バタン
言われた通りの場所にあった宿屋に入ると、やる気のなさそうなおっさんがカウンターに座って何やら本を読んでいた。
他に人は見当たらないし、あのおっさんに話しかければ良いのだろうか?
「あの...」
「一晩銀貨3枚」
恐る恐る声をかけると、愛想が微塵も感じられない声が返ってきた。
「いや、これがあるのだが...」
値段だけを告げてきた無愛想なおっさんに、ギルドでもらった紙を手渡す。おっさんはそれをちらっと見ると、また無愛想に言葉を掛けてくる。
「一日銀貨1枚、最長で30日だ」
「う、うむ」
--コトッ
革袋から銀貨を1枚取り出すとカウンターの上に置く。
「晩御飯は1食銅貨2枚で付けられるがどうする?」
「ふむ...」
この世界の通貨単位は、リィナから『自分は異国人だ』とか理由を付けて聞いておいたのだ。
・銅貨10枚で銀貨1枚
・銀貨10枚で金貨1枚
銀貨から金貨までが100枚なのは、生活するだけだと銀貨以上の金額は使わないかららしい。
ただ金貨がないと商人や貴族なんかが困るので、用意されてるだけみたいだ。
しかし、んー...5食で銀貨1枚か。
食事を買ってしまうと明日の宿代は無くなってしまうのだが、この世界の食べ物も食べてみたいのだ。
そうだな、明日は依頼がうけられるし、使ってしまっても大丈夫だろう。
「今から1食頼めるだろうか?」
「分かった、すぐに用意するから部屋で食べるなら持ってけ」
それから少し待って夕飯の包と部屋の鍵を受け取った。
どうやら妾の部屋は一番上の2階らしい。鍵には『2-15』と書かれている。
「えーっと...」
おっ、扉に15と書いてある、これが妾の泊まる部屋だな。一番角だから覚えやすそうだ。
「さて」
部屋に入ると早速ベッドに腰掛けて、ギルドの受付でもらった説明書を取り出した。
しかしこのベッド、綿が抜けてて硬いのだ。それに部屋には収納箱以外に何も無い。まぁ、質素だが野宿よりはましか。
「んー......」
ベッドに寝転ぶと説明書を広げて眺めてみる。こういった物は早く処理しないと忘れてしまうからな、寝る前に読んでしまうのだ。