06_圧倒的な差
身内のバトルシーン程執筆の燃料になるものはない。
ライトル2期06
「うわ、どういう状況だコレ。」
魔法陣から飛び出た秋人が発する第一声。
目の前には血だらけの側近二人。
「い、行き過ぎた兄弟愛…。」
「違うわよ!」
お、おぉ…。てっきり互いが血だらけになるまで愛し合うという狂った恋愛感情でも抱いているのかと思った。
「トール様、敵に苦戦を強いられています。気をつけてください。敵は姿が見えません。」
「えっ!それ一番に言って…うお!」
突然後ろ襟を引っ張られ投げ飛ばされる。元いた場所に吹き付けられる赤い煙。食らっていれば一撃でアウトだったであろう。
「全く、危ないよトール君。」
イシスがニッコリと笑ってそう言う。
え?まさかの投げ飛ばしたのイシス?何?まさかの怪力キャラ?
転移魔法で駆けつけた人間派閥の面々。
この状況を前にしてもテスカトリポカは笑い声を上げる。
「おーおー皆さんお揃いで。わざわざご苦労さまです。」
笑みを含んだその声に全員が臨戦態勢に入る。
姿が見えない強敵。
最低で最高の認識だけして各々構える。
その構えが意味をなすかどうかはまた別問題であるが。
「敵はアステカ神話の【テスカトリポカ】!姿が見えない能力と、毒ガスを吐きます!」
レスクヴァが説明すると同時に倒れた二人を青い煙が包み込む。
ドサリと倒れるような音が聞こえ、煙が晴れたそこには意識を失った二人が倒れていた。
「ただの睡眠ガスだよ。もうこれ飽きたから新しいおもちゃで遊ぶよ。」
「いいえ、あなたはもう終わりですよ。」
一瞬の静寂の後、トンという何かをついたような音が聞こえた。
透き通った声でイシスが下す。
下されるは死の宣告。
「《円弧の五芒星》」
辺り一帯を数え切れないほどの魔法陣が一瞬にして展開される。
テスカトリポカがその魔力量に気付く暇もなく、その魔法陣から黄金の柱が伸びる。数十本の金の柱は各々光を発し、煌めく黄色の世界を作り出す。
「ぐぅ…。」
何も無かったところに突如として人影が現れる。テスカトリポカがうめき声を上げながら眩しさに顔を覆っている。
しかしそれも一瞬のことだった。
テスカトリポカの右足が光り、徐々に姿が薄れていく。
テスカトリポカの能力は《黒曜石》。かつての大戦で右足を失い代わりとして黒曜石の義足をつけている。その石での光の反射を利用して透明になっているのだ。
一瞬のことだった。と言った。
だがそれではダメなのだ。
遅い。遅すぎる。
"一瞬"程度ではイシス相手に意味をなさなさい。
金の柱が動きを見せた。それぞれの円柱の側面から槍のような刺が一斉にテスカトリポカを貫いていく。
一本、二本、三本と回避の余地もなく肉を、骨を、貫いていく。
千切れて落ちた自らの腕を見て、テスカトリポカは呟く。
「あー、これは無理ですわ…。」
あっという間だった。
理解など追いつけないスピードでさっきまで生きていたものが死んだ。
見えなかったものが見えて、そして死んだ。
とりあえず彰人は吐いた。
自らの足元にまで届く血飛沫を見て、千切れた腕を見て、吐いた。
吐きながらもイシスを見た。
そして彰人はその目を疑う。
つい先程まで笑っていたイシスの表情には笑みなどなかった。
無表情。冷徹なまでに。感情が欠落しているかのようにただ無表情。
彰人の目線に気付いたイシスが彰人に声をかける。
「大丈夫ですか?」
また、吐いた。
その笑みが怖くて吐いた。
さっきまで可愛いと思えてた少女が異様に遠く、得体の知れないものに変わった気がした。
魔道の極地、北欧の主神【オーディン】の唯一にして一番弟子【イシス】。
彼女の使う魔法は木、火、土、金、水の《五行》を基準とした五芒星による属性魔法である。
この魔法自体は大して難しいものではない。
だが膨大な魔力を必要とする。その量にして、一つの魔法陣につき神一人分。
この魔力量をイシスは、常に魔力を生成する《ウアスの杖》で補っている。
そして、杖なしでは魔法を使えないのか?と聞かれるとそういうわけでもないのがイシスの強さである。
「と、いうわけで。吐いてるトール君も残りの君達も見ての通り。彼女が人間派閥の唯一の可能性だよ。」
ヒラヤスが笑って言う。
侮辱をはらんだその言葉に続けてヒラヤスは言う。
「でも気分を悪くしないでくれ。君達に期待してないわけじゃない。現に前回の人間派閥も最初は君達以下の数、能力で勝ち残っているわけだ。」
「イシス君はいわゆる理想。君達が辿り着くべき終着点だよ。」
何とも心無い言葉だ。
俺達の現状を見てよくもまぁそんなことを言えたものだ。
「私も出来ることなら協力しますよ。」
にっこり笑ってイシスは言った。
それはいつも通りの、何の変哲もない普通の笑顔だった。
「そんじゃ、とりあえず帰ってこれからの方針でも立てますか。」
ヒラヤスはパンと手を打ってイシスに転移をお願いする。
「ちょ、ちょっと待てよ!死体はどうするんだ?流石に道中にこんなもんがあったら…。」
「あぁ、その点は大丈夫ですよ。だって、ほら。」
ヒラヤスはそう言ってテスカトリポカを指さす。
いや、テスカトリポカがいた場所を指さす。
そこには何も無かった。血だまりも肉片も欠片もなく無かった。
「どれだけ悲惨な状態でもカミが元に戻してくれるから気にしなくていいよ。と言ってもそんな散らかすような力量まだないだろうけど。」
やはりというか、ヒラヤスの毒舌混じりの説明が炸裂する。
馬鹿にされて反論するスクルドの声をかき消して、白い光があたりを覆う。
□■□■□■□
あたりを見渡すと見えるのは机に椅子。そして大きな黒板。
窓の外ではうっすらと月が見え、正面にある時計は既に六時を回っていた。
転移された先は学校のようだった。
それも彰人達の通う登竜山高校だった。
「これからここが人間派閥の本拠地となる所です。まぁ君達が色々融通がきくようなここにしました。」
さぁ、どうぞ皆さんお座りくださいとヒラヤスが笑う。それぞれが席に着いたところでヒラヤスがパンと手を叩く。
「それでは改めまして。今回人間派閥のリーダーを担当させてもらいます。ヒラヤスと申します。能力は《不当》。相手の攻撃を受け流すというものです。自分の力量を超えた攻撃は受け流せません。あと、この能力を触れた者に付与することもできますので、皆さん私にじゃんじゃん触れてじゃんじゃん突撃してくださいね。」
教卓に立ち、自らの紹介をする。
その表情から察するに、能力なしの彰人達を完全に見下していた。かなり腹立つ顔をしている。
「で、さっきボコボコにされてたこの二人。一応トールの側近らしいね。クソ寒いメイド服を着た彼女がレスクヴァ。能力は《肉体強化》。自らを体現してるような単純な能力だから。そして彼女、重度の戦闘狂で頭沸いてるから気をつけてね。」
「で、その横に立ってるスーツに角とかいうおしゃれ履き違えてるような彼がシャルヴィ。能力は《雷羊の祝福》。自分と同じでだっさい能力名だけど超回復という結構使える能力。囮にじゃんじゃん使ってあげてね。そして彼、重度のシスコンで頭沸いてるから気をつけてね。」
正直鬼だと思った。よくもここまで他人を悪く言えるものだと感心するレベルだった。
顔を真っ赤にしながら睨みつけるレスクヴァと、爽やかに笑いながらもこめかみに青筋を浮かべるシャルヴィ。二人共よく我慢できている。誰かさんは是非とも見習ってほしい。
チラリと横を見るがスクルドは興味ないと大きなあくびをしている。これじゃ望みは薄そうだ。いや、誰とは言ってないけど。
「今は用事を頼んでいないけどステップ1で戦ってもらったあの少年が黒石ユウト。彼の能力は《昇格》。触れたものを一段階上のものへと昇格させることができる。そこそこ使える能力だと思うね。」
「で、幹部は全部で五人、残り二人はおいおい説明するとして、ステップ2がちょっとイマイチだったので早速ステップ3で挽回してもらおうと思います。」
またもや無茶を言い出すヒラヤス。
無能力の俺達を戦場に送り込んで慌てふためく姿を楽しむドSなのではないか?いや、でも俺達が死んだら聖戦に負けるわけでドM…。うん、どうでもいいわ。
「さて、ステップ3は『魔力集め』ですよ。土曜日で学校はお休みなのでしょう?明日の朝9時に、ここに集まってくださいね。それでは、かいさーん。」
ヒラヒラと手を振るヒラヤス。[あっなんかダジャレっぽい。]
本当に勝手に話を進めやがる。
「私あのリーダー嫌いなんだけど!」
校門前で大声を上げるスクルド。
神だけで集まって愚痴大会の始まりである。
「まぁでも実力は本物だと思うよ。側近二人が手を出さなかったし。」
彰人がそう言う。
普通ならあんなこと言われて黙ってるレスクヴァじゃないはずだ。秒で飛びかかって秒で殴り倒すはず。なのにそれをしなかったってことは勝てないって思ったるからじゃないかな。知らんけどさ。
「あれでも一応リーダーだ。それなりの実力はあるんだろう。」
人間派閥イケメン代表カーマもそれなりに認めてはいるようだった。ティアマトもユピテルも、イシスまでもうんうんと頷く。
六人で話し合った結論としてヒラヤスの評価は、
『謎の毒舌』
となった。
バトルアニメも執筆の燃料になる。
その比率
身内バトル:アニメバトル
1:9
身内…。
トイレットペーパー程度の燃料……。