04_ステップ2
「さぁ、貴様ら楽しい楽しいお説教の時間だ。」
正座して並ぶ人間派閥の前に立つユウトが眉間にしわを寄せる。
「まず、スクルド!勝手に単独で飛び出さない!飛び出したとしても仲間に何か言ってから行きなさい!普通の神ならまだしも相手は悪魔!もうちょっと考えてから行動すること!いいね!」
ユウトの言葉に耳を貸さないと言わんばかりのツンとした態度でそっぽを向くスクルド。
「何ですかその「私全然悪くありませんよー」みたいな態度!お母さん怒ってるんですからね!真面目に聞きなさいこの不良娘!」
「誰が不良娘よ!私はまだ頑張った方でしょ!?他をもっと叱りなさいよ!」
ギャンギャン噛み付くスクルド。さながら狂犬のようである。反省してる気がまるでないようだ。
「まぁ、確かにスクルドはまだまともな方だった。そう問題は残り!君達だよ!」
そう言ってユウトは彰人を指差す。
「何なの君達!?あれでも本当に神なわけ?どう考えても弱すぎでしょ!もっと気合入れてかないと死んじゃうよ!?」
説教と言うよりもはや同情と愚痴みたいになっている。確かにスクルド以外ユウト相手に何もできていなかったが流石にそこまで言われて黙ってる彼らでは…
「…。」
ぐぅの音も出ないといったご様子だった。
「カーマとユピテルは連携するならちゃんとしろ!会ってすぐとはいえあれは悲惨すぎる!お前ら前世で何かあったのかよ!」
「ティアマトは無能なのをいちいち相手の前で公表する必要ないだろ!何なの?羞恥プレイなの!?」
「トール!お前前回の強さどこいったし!?ボーッと立ってただけやんけ!銅像かよ!」
マシンガンのように次々と不満をぶつけていくユウト。
「えー、とりあえず君達には強さ以前にチームワークが必要だと思うんだ。互いを理解しあってこそ派閥の仲間と言えるだろ?」
「と、言うわけで君達自己紹介タイムだよ!」
「あんたに言われずとももう既に終わってるわよ。」
「お黙りなさい。あのザマだってことはまだお互いきちんと知れてないってことです。細かいところまできっちりと話しなさい。」
はいまずはスクルドから。と再び自己紹介を促す。
不満そうに顰めっ面をしながらもスクルドは自己紹介を始めた。
「私は北欧神話の【スクルド】。言った通り能力は《未来予知》。」
銀髪のショートヘアーで、片方のもみあげの部分を三つ編みにまとめているスクルド。身長はそこそこあるが、天は二物を与えず。高身長わがままボディとはいかず、かなり貧相な体つきをしていた。
「ちょっち質問。」
ユウトがおもむろに手を上げる。
「未来予知ってどのくらい先まで見れるの?」
ドキリ。まさにこの擬音が当てはまるような顔をしてそっぽを向くスクルド。顔中から汗を流し、キョロキョロと目を泳がせる。
「べ、べべ別に言う必要ないでしょ!?プ、プライベートよ!安易に踏み込まないで!」
「いや、プライベートかどうかは別として、能力を知っておいたら戦いやすいと思うんだよ。」
皆してうんうんと頷く。
唯一戦える人材の能力がどこまですごいものか皆の期待が寄せられる中、スクルドは俯いてプルプルと震えだした。
「さ……う…。」
「え?なんて?」
「3…ょう…。」
「え?なん」
「3秒よ!3秒!さ・ん・びょ・う・さ・き!しかも一日に一回だけよ!悪かったかこの野郎!」
顔を真っ赤にして喚き散らすスクルド。こいついつも喚いてんな。
「え、嘘だろ…。その程度であんな態度とってたのかこいつ…。」
思わず本音が漏れる彰人。
やっちまったと慌てて口をふさぐも、後の祭り。スクルドは真っ赤な顔で涙ぐみながら彰人を睨みつける。
「じゃぁ、あんたはどうなのよ!さっきはボーッとつったってただけじゃない!それでも北欧の三神なわけ!?」
「えっ?あ、それはそのー…。」
困ったことになった。能力なんて話聞いてもなければ知りもしない。さらに俺はなんかえらい肩書きの神になったらしい。いや、そもそもなんで神に肩書きなんてつける必要があるんだ。ていうか神なんて作ってんじゃねーよ。馬鹿じゃねーの?腐れ崇拝者共が!
(まぁこいつめんどくさいし、それらしい理由を付けて逃げとくか…。)
「それはあれだよ。能力がまだ覚醒してないっていうかー。まだ馴染んでないっていうかー。そんな感じだったんだよー。というわけで【トール】です。よろしくー。」
演技って中々に難しいものだな。思わず棒読みになってしまった。
「はっ!能力をまともに使えない奴より私の方がマシね!」
自慢げに胸を張るスクルド。だが悔しいかな、制服のラインの主張はない。このツンデレ扱いやすいのか扱いにくいのよくわからない。
これ以上は時間がもったいないと次に進める。
「俺はヒンドゥー神話の【カーマ】。能力は《愛の矢》。当たった相手を俺の虜にすることができる。」
白髪褐色のイケメン。身長も高く体つきもしっかりしている。モテる男の典型のような青年だった。
「なんだそれ強いじゃないか。なぜ使わなかったんだ?」
ユウトの問いかけにカーマは残念そうにうつむきながら答える。
「もう使い切ったんだ。矢は全部で五本。全て使い切ってもうないんだよ…。」
「そ、それは…ドンマイ。」
こんなイケメンでも能力を使わなければ射止められない女性がいるのだろうか。世の中よく分からないものである。
「肉弾戦はそこそこ出来るはずだからよろしく。次、ティアマトちゃんお願い。」
カーマに言われて、紫髪のサラサラとしたロングヘアーの同じ年とは思えないほど小さな少女が紫色の両目輝かせてぺこりと頭を下げた。
「はい!私はローマ神話の【ティアマト】と申します!能力は言った通り《魔物創造》。…なのですが、私元々保有魔力が少なくて、こんな感じにペットみたいな魔物しか生み出せないんです。ちなみにこの子は【ウリンディム】って言います!ウリちゃんです!可愛いでしょぉ!」
えへへと笑ってパグみたいな魔物、ウリちゃんを顔の横に並べるティアマト。
100対0でティアマトの方が可愛い。
しかしすぐさまシュンとした表情になり、申し訳なさそうに謝る。
「すみません。私がもっと強かったら皆の力になれるんですが…。」
何このかわいい生き物。天使ィ…。
「まぁ気にすることないよ。ぶっちゃけ皆同じくらい弱いし…。」
ユウトがそうフォローを入れるも悲しそうにうつむくティアマト。ウリちゃんも悲しそうにくぅんと鳴いている。
だがまぁ今の一言で一番悲しいのは…
「…ローマの【ユピテル】。能力は訳あって使えない。あっ、言っておくけどゴミみたいな能力しかない君達にバカにされる筋合いないから…。」
能力を言う前に弱いと判断されたユピテルである。
目にかかるほどの長い前髪と黒いオーラを全身にまとった少年。近寄りがたいと言ってしまえばそれまでだが、それ以上の感想が出てこない。
「あ、ごめん気付かな…ん"ん"!よ、よし!とりあえずみんな自己紹介終わったね!だいたいの能力も把握できたし。まぁ、なんだ。聞いた上で君達が弱いってことが分かったから、それぞれそれなりに頑張ってくれ。」
ユウトが半ば諦めたようにそう言う。しかし、こういうことを言ってしまっては彼女が黙ってないわけで。
「そんなに不満ぶつけてるけどあんたはどうなのよ。そのゴミ同然の能力相手にかすり傷なんて負わせられてるあんたは?」
テンプレツンデレのド貧乳スクルドが挑発的にユウトに問いかける。
「僕?僕のことは置いといていいから。問題は君達をどう戦わせるかが問題なんだよ。」
飄々とした態度でかわすユウト。この少年どこか掴めない節がある。
「そういや、イシスは?」
ふと思い出した彰人が皆に尋ねる。そういえばユウト戦にも姿を見せなかった。一体何をしてるんだろうか?
「それに関してはそろそろ…。」
ユウトの声に呼応するように、魔法陣が突如現れる。真っ白な光を発する魔法陣からは話題の中心であったイシスが姿を現した。
「あ、ちょうどよかった。連れてきてくれた?」
「はい、少し遅れましたが連れてきましたよ。」
イシスの後ろには片目が前髪で見えない白髪の少年が立っていた。
「それじゃ、人間派閥の神々諸君。彼が今回、この派閥を率いるリーダー様だよ。」
ユウトの紹介に乗って、片目の少年はニコリと笑う。
「どうも、神の皆さん。今回の人間派閥のリーダーをつとめます、【ヒラヤス】と申します。一緒に頑張りましょう。」
第一印象としては謎めいてる。といった風だった。白髪で片目を隠し、ダボダボのTシャツにジーパンとラフな格好で手を振るその少年。こんななんともいえない彼が人間派閥のリーダー様だそうだ。
自己紹介に続いてヒラヤスは苦々しそうに笑って言った。
「神の召喚はリーダーである私が行うものです。他の派閥も同様です。お世辞にも強いとは言えないあなた方を召喚したのは私の魔力の少なさゆえです。なにぶん強い神は相当量の魔力を必要とするので。申し訳ございません。」
そう言ってぺこりと頭を下げる。
謝ってるのか挑発してるのかよく分からないその言葉にやはり彼女が腹を立てる。
「どいつもこいつも言ってくれるじゃない。本当、腹立つわね。」
グチグチと小言を続けるスクルドに割って入ってヒラヤスがとんでもないことを言い出した。
「じゃぁというわけで人間派閥の皆さん。ステップ2です。」
揃って首をかしげる人間派閥の面々。
「これから実戦に臨んでもらいます。」
「は?」
最初に声を上げたのは彰人だった。
「待ってくれ。お前俺達が無能だっての知ってるんだろ?なのになんでまた実戦なんて…。」
「私としてもまだ早いと思ったのですが、状況が状況なもので…。」
「どういうことだ?」
「私の管理が行き届いていなかったのがそもそもの原因なんですがね…。」
「ウチの幹部が早速悪魔派閥に喧嘩売っちゃいまして。」
なんとも間の抜けた理由だった。
全員はてなマークを浮かべている。
「要するにそれの加勢に行ってもらいたいのです。」
「俺たちが行っても邪魔になるだけだと思うんだけど…。」
ユピテルが口を挟む。最もな意見だった。俺たちで話にならない。それは何も知らない彰人でも分かることであった。
「いやぁ、そんなことは百も承知です。かと言って君達がこのまま無能だと勝利は見えないんですよ。」
なんだこのリーダーすごい毒舌。しかも笑顔だし。
「というわけで善は急げ。行きましょうか。」
イシスが杖でトンと床をつく。再び白い魔法陣が展開され、体育館にいる全員を包み込む。
「おい待て!善は急げって使い方が違」
真っ白な閃光と共に体育館から全員消えた。
喧嘩を売ってるバカはどいつだ!