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ライトル  作者: ビタミンA
神と神嫌いの少年
4/14

02_人間派閥の神々

ライトル2期02



俺はすごく機嫌がいい。



先生がHRを進める中、俺は一人ニヤけを抑えるのに必死だった。

その理由というのも、全ては昨日のあの出来事のおかげである。




□■□■□■□




「俺の代わりに【雷神トール】として戦って欲しい。」


突如として現れた黄色い青年は、俺に向かってそう言った。

続けて角の生えた青年も俺に向き直る


「突然で申し訳ございません。ですがあなたにとっても十分な利益のある話なのです。」


何この詐欺感が否めないセリフ。これ一体何ていう種類の詐欺?いやいや、今はそんなことはどうでもいい。一番の問題はもっと別のところにある。

いつの間にウチに入ったのか?

なぜこの部屋にいるのか?

いや…


「お前今神って言った?」


神を毛嫌いする俺によくもまぁそんなことを言えたものだな。覚悟はできてるんだろうな。


「あぁ、そうだが?お前にはこれからこの俺、【雷神トール】の代わりとして《聖戦》ってので戦ってもらう。」


神を自称する黄色い少年は彰人の机の椅子に座り、あの手紙を眺める。


「『この世から神を消し去りたい。』ねぇ。こんな願い書かなくても今から自分の手で消せるんだぜ。」

「黙れイカれ野郎!神を信じすぎて自らを神と思いこむ低脳が、どういう了見で俺の部屋にいる!」

「おぉふ…。すごい言われようだな。願いにまでこんなこと書くなんてお前どんだけ神が嫌いなん…ん?なんだシャルヴィ。」


シャルヴィと呼ばれた角の青年は、焦ったようにして自称雷神に耳打ちする。

少しの間二人でこそこそやった後、シャルヴィは彰人に向かってこう説明を始めた。


「説明に少し語弊があったことをお詫び申し上げます。」

「詫びなんていいからさっさと出て行ってくれ。警察呼んで困るのはお前たちで…」

「あなたは一つ勘違いをしている。」


ピッと人差し指を立てて彰人を指差すシャルヴィ。ビクリと肩を揺らして口を閉じる彰人。


「私達はあなたに協力するためにここに来たのです。」


突拍子もないその言葉に我慢の限界だと大きく口を開く彰人を抑えるようにして、二本目の指を立てるシャルヴィ。


「一つ、まず私達はあなたと同じで神を全く信じてません。先程のこの人の言ったことは全て嘘。あなたの興味を引きつけるための嘘です。」


予想の通り、興味を持っていただいて幸いです。と、シャルヴィはクスリと笑う。


「二つ、あなたは最近発売した《ゴッドイーティング》というゲームをやってますか?」

「え?あぁ、やってるけど。」

「簡単に言えば、あれを現実でやってもらいます。」

「…は?」


その一言で苛立ちも何もかも吹き飛んだ。

頭の中では自分が武器を持ち、神の名を語るモンスターを殺していくビジョンが浮かぶ。


「…どういう意味だ。」

「やっと落ち着いてくれましたか?説明すれば長くなりますので是非お座りください。」


言われるがままにベッドにすわる彰人。仮にもここは彰人の部屋である。


「明日、この周辺で神が戦争をおっぱじめます。」

「何言ってんだ。神はいない。お前も信じてないなら…」

「まぁ話は最後まで聞くものですよ。」


「嘆かわしいことに神はいます。まぁ詳しくは人が信じるところの神、そのレベルの力を有した人間。と言ったところでしょうか。そいつらがおっぱじめる戦争は《聖戦》と呼ばれるものです。」

「…。」

「これからあなたにはこの聖戦に参加してもらいます。」

「…それに参加すれば俺は神を消せるのか。」


彰人はシャルヴィを睨みつつそう尋ねる。


「はい。」


笑顔でそう返すシャルヴィ。


彰人の心臓がドクンと大きく脈打つ。

信じれるのか?この話を。突然現れた謎の三人組の言うことをホイホイ聞いていられるか?

答えは否、だ。現実的に物事を考えろ。こんなこと有り得ない。頭のイカれた連中のイカれた思いつきだ。巻き込まれるなんて御免被る。

…だけど、どれだけ否定しようとしても頭の中では繰り広げられる。


自らの手で神を殺すその景色が。



「…それはいい話だな。」


彰人は笑ってそう言った。


手紙に願いを書いた時と同じ感覚だった。いつの間にか、そうあるべきだとでも言うように自然に。


「そんじゃ、任せたぜ、遠瑠璃 彰人。くれぐれも死なないようにな。」


雷神は含んだように笑ってそう言った。


「それではざっとした聖戦の説明を始めます。」


(((こいつちょろいな。)))


謎の三人組は静かにほくそ笑む。




□■□■□■□




「おい、彰人!何ぼーっとしてんだよ。はやく行くぞ!」


不意にかけられた声に我に帰る彰人。

見ると、クラスメイトで唯一の親友である唯我(ゆいが) 大和(やまと)が焦ったようにして声を荒らげていた。


ふと周りを見ると教室には彰人と大和の他に誰もいなかった。


「急げって!今から体育館で全校集会だぞ!」

「は?何でさ?」

「お前さては何も聞いてないな?転校生が来るんだとよ。その歓迎の集会だと。」

「へぇ…。」


頭の中でシャルヴィの言葉がよぎる。


(わかりやすい状況…ねぇ)


シャルヴィが言うには明日学校に行けばわかりやすい状況になるそうだ。

昨日の出来事があった後の転校生。

考えすぎかと思うが多分これが…。


大和と二人走って体育館に向かい、無駄に重い鉄の扉を音を立てないように開ける。

体育館の中ではもう全校集会が始まっており、ドアの近くにいた先生に早く入れと怒られる。


ステージの上には五人の少年少女が並んでいた。十中八九転校生だろう。

そして…、


(聖戦のメンバーか。)


「おい、はやく行くぞ。」


大和に急かされて自分のクラスの塊へと小走りで向かう。彰人も続いて向




《只今より、聖戦の説明を始めたいと思います。》




瞬間、時が止まった。

校長の長ったらしい話が、生徒達のガヤガヤとうるさい喋り声が、開け放った窓から聞こえる鳥の鳴き声が、

消える。


「痛ッ!」


何かにぶつかったようによろめき倒れる彰人。


「どうなってんだこれ…。」


見ると大和が石像の様にガッチリと固まったまま動かない。



《この度、人間派閥に選ばれた皆さんこんにちわ。私はカミという存在です。》


頭に直接響く様な声の後に、ステージの上で銅像の様に固まる校長の後ろから真っ黒なゴスロリを着た少女が姿を現わす。

高校というこの場所にふさわしくないその小さな少女は校長の光り輝く頭の上にトンと飛び上がる。滑らないのかなそこ。


《本日、7月1日10時丁度を持ってして、聖戦の開始とさせていただきます。人間派閥の皆さんも準備にいそしんでくださいネ。》



なんとか状況の理解はできた。

昨日聞いた情報とほぼ同じ。

カミという存在、派閥という組織、そしてそのメンバーと共に説明を受けるとシャルヴィに聞いた。


「まさか人数がこれだけなんて言わないでしょうね。」


ステージの一番端に立つ銀髪でショートヘアーの少女が口を開いた。他の面々も皆止まっている風には見えない。

やはり転校生全員、聖戦に参加する人間派閥のメンバーのようだ。


《聖戦に参加するための神の召喚は6月30日24時の時点で終了しております。そして現段階で人間派閥のリーダーよりここ【登竜山高校】の体育館にて聖戦についての説明をしてくれとの通達がございますネ。》

「嘘でしょ…。」


銀髪のその少女は青ざめながら声を荒らげる。


「こんな人数で勝てるわけないでしょ!?悪魔と天使がどれだけの数召喚してると思ってんのよ!」

「だからといって喚いても意味ないだろ。今は現状を受け止めて対策を練ろう。」


喚く少女を抑えるような口ぶりで答える褐色の少年。彼女と逆の端にいた彼はステージから飛び降り歩き出す。


「君は最後に召喚された神かな?はじめまして、俺はヒンドゥー神話の【カーマ】という。以後よろしく。」


褐色の少年はツカツカと近付いてきて握手を求める。


近くで見るとかなりのイケメンだった。

その魅力は男である彰人でさえ魅了するほどの…。


(いや違う!俺にその気はない!)


「よ、よろしく。俺は…」


ふとシャルヴィが言っていたことを思い出す。



『あなたには結構キツイかもしれませんが、神を消せるというあなたの願いを叶うために我慢をお願いします。』



「…俺は北欧神話の【トール】だ。よろしく。」


そう言って彰人は差し出された手を握る。


思った以上にキツイ。自ら神を語るとは。

シャルヴィに言われた唯一の条件。

それは【雷神トール】になりきること。これを破れば命の保証はないと。メンバーも皆、神の名前を語るからそれに合わせてくれとのことだった。


(本当に神を語ってるのな。)


自己紹介を聞いたカーマは驚きと共に嬉そうに目を見開いて、ステージに向かって叫び声を上げる。


「おい皆聞いてくれ!この少年、北欧の雷神だそうだ!これならいい線行けるんじゃないか!?」


カーマの声を聞いて皆反応を見せる。


「【雷神トール】!?あんた適当言ってるんじゃないでしょうね!」


さっきから落ち着きのない銀髪少女はステージから降り…ることなくそのまま跳躍し、動かない生徒達の上を軽々飛び越え、彰人の横へと着地した。


ここで彰人は理解する。

ここにいる人間は普通じゃないと。今のこの出来事はそれを思い知るには十分だった。


「あんたが【雷神トール】?なんか前見た時と違うような…。」


頭のてっぺんから足先までじっくりと眺められる彰人は焦ったようにして手を振る。


「き、気のせいじゃないかな!」


彰人の頭に命の保証はないという言葉が浮かんで離れない。

たった今起きた、目の前の超人的な動きを見る限りそれが単なる脅しじゃないことがわかる。


「うーん…、まぁ何でもいいわ。神話でも特に面識がなかったから一応自己紹介しておくわね。」


少女は特に気にもしてないようで、話を切ってくれた。


「私は北欧神話の【スクルド】。前回は天使派閥として聖戦に参加したわ。」


銀髪のショートヘアーの彼女はさっきとは打って変わって少年のような笑顔を浮かべて手を差し伸べてきた。


「あ…う、よろしく…。」


ぎこちなく呻きながら手を握る彰人。

同じ神話を名乗る奴がいるなんて聞いてない。バレたら死というこの状況で平静を保てる奴なんているのだろうか。


「…ローマの【ユピテル】。」


突然横から声が聞こえたかと思うと、彰人の横には目元まで髪を伸ばした今にも消え入りそうな姿の少年が寒そうに腕を抱えて縮こまっていた。

見るとステージに立っていた残り二人も彰人の所まで来ていた。


「どうも、初めまして!私はバビロニア神話から来ました、【ティアマト】と申します!よろしくお願いしますぅ!」


ニコリと笑って彰人に頭を下げる紫髪ロングの少女。彼女は胸に触覚の生えたパグを抱きながら満面の笑みを見せる。


(かわいい…。パグは可愛くないけど。)


この際ティアマトさんがかわいいからパグに触覚が生えてることなんて気にしない。


ティアマトの横にはもう一人、ロングヘアーの美少女が立っていた。


「私はエジプト神話の【イシス】と申します。」


イシスと名乗った少女は軽い笑みを浮かべて彰人を見つめる。


「ど、どうも。」


やばい、美人多すぎィ!


彰人が一人小さな喜びに浸っている中、カミが説明の続きを始める。


《私の説明中に勝手に自己紹介を始めないでほしいですネ。》


不満そうに口をぷくっと膨らませるカミ。ロリかわいい。自重せよ作者。


《聖戦とは【天使派閥】、【悪魔派閥】、【人間派閥】の三つの組織が、それぞれ神を従え戦うものです。勝利した派閥はなんでもそれぞれ一人一つ願いが叶えられます。勝利条件は派閥のリーダーを無力化すること。リーダーが聖戦続行不可能となった時点でその派閥は敗北となります。》

《ざっとした説明は以上ですが何か質問はありますか?》


「リーダーの他に幹部が五人いると聞いたんだがここにはいないのか?」


カーマがそう問いかける。

辺りを見渡してもこの止まった空間の中で動いてるのはこの六人だけのようだ。


《リーダーを含めた幹部の方々はただいま別の所で説明を受けております。》

《以上を持ちまして、聖戦についての説明を終了させてもらいます。また何かあれば随時報告しますので。》

《それじゃぁ皆様、自分が死なないようにブチ殺しあって下さいネ。》


そう言って結局最後まで校長のつるっぱげから降りなかったゴスロリの少女は、まるで最初からいなかったかのように姿を消した。


それとほぼ同時に彰人の携帯に通知が鳴る。携帯を見ると知らないアドレスからメールが来ていた。


『放課後、他の神を連れて体育館に集まってください。シャルヴィ。』


メールの内容を伝えて、それぞれが元いた位置に戻る。生徒達がいざ動き出して急に別の場所にいたらまずいだろう。

それぞれが戻ると、まるでそれを待っていたかのように時間が動き出した。


「彰人!何ぼーっとしてんだよ。先生睨んでるぞ!」


そそくさと座る大和につられて慌てて座る彰人。


あと30分足らずで聖戦とやらが始まる。俺の長年の苛立ちを自らの手で消すことができる。なんて素晴らしい日だ。一人ニヤけているうちに聖戦は始まり、放課後となった。




□■□■□■□




「遅いわよ!」


スクルドが開口一番に口を開く。

せっかく走ってきたのに何て言い草なんだ。

転校生のクラス決めは後日また聞かされるらしく、今回は軽く学校案内と授業の見学だけしていたようだ。それで早く終わった彼女らを待たせてしまっていた彰人なのである。

にしても息を切らす俺にねぎらいの一つもなしに喚くこいつとだけは同じクラスは避けたいな(フラグ)


体育館にはあらかた集まっていたようだが、イシスだけ姿がなかった。


「あれ、イシスは?」


一番の美人であるイシスの存在に気付かない彰人ではない。実際に対面したらキョどるのだが。


「あんたがなんでそれを気にするのよ。」


俺何かしたっけ。異様に責められるんだけど。


「…誰か来るよ。」


相変わらず腕を抱えたままのユピテルがボソリと呟く。



「やぁやぁどうも、みなさんお揃いで。」


その一声で場の空気が一転した。彰人でさえわかるように周りの全員が殺気立つ。全員がステージを睨んだまま動かない。


「トール君メール見てくれた?」


ステージの上には同じ歳か、それくらいの少年が座っていた。


「まぁ、この状況を察するに見てくれたんだろうけどさ。」

「あんた、誰だ?」


カーマがそう問いかける。

問いかけに対して少年は笑って返した。


「ぷっ、人間派閥も随分と平和ボケした面々が集まったもんだなぁ。」


おかしそうにケラケラと笑う少年。

何かがおかしいと彰人は異変に気付く。

何か間違いに気付いてないのではないのか。

なぜシャルヴィがメールしてシャルヴィが来ない?いや、言ってしまえばもそものあのメールがシャルヴィ本人の物なんていう確信さえ…


「その顔は気付いたようだねトール君。そうですその通りです。」




「こんにちわ、人間派閥の愚かな神々よ。まんまと引っ掛かってくれてありがとう。だよ。俺は悪魔派閥の幹部の一人だ。」



よろしくと言って彼はドス黒い笑みを浮かべた。







人間派閥の神は基本…(察し)

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