12_日本神話
消化試合的なあれです。
「これは想定通りに想定外。上手くずれてきてますね。」
30階はゆうに超えるビルの屋上からヒラヤスは地面に突き刺さる旅客機を眺める。
「先ほどの接触が悪魔派閥を呼び寄せたのとどう関わりがあるかは謎ですが、まだ釣り上げるには時間がかかるようですね。」
「まぁ彼らには良い試練でしょう。こっちはなんとかなりそうですね。問題はあっち。うーむ、ちょっと幹部配置を間違えましたかね。やはり日本神話相手は少しばかり荷が重いですか…。」
ヒラヤスは一人そう呟いて空を見上げる。
□■□すこーし前のこと□■□
場所は変わり学校より北側。
イシス、ユピテル、シャルヴィの3人組。
「本格的にまずくなってきたわね。近付いてきた。」
イシスの呟きに反応して、各々辺りを警戒する。
「どの辺かわかりますか?」
シャルヴィもすでにタングリスニの骨を握りいつでも動けるよう準備する。
「真正面からまっすぐこっちに。もうシラを切る必要もないわね。あなた達は私が全力で守るからいざって時には逃げてね。」
イシスはパイプ椅子から立ち上がり、杖を召喚する。続くようにユピテル、シャルヴィも立ち上がり構える。
通り過ぎる人々に稀有な目で見られるが、現状そんなことを気にしてる余裕もなかった。
イシスがやばいと言った。主神を軽々殺せたイシスがそういうのだ。よっぽど有名な神が出てくるのだろうと3人共気を引き締める。
「だいぶ近づきました。いつ攻撃されるかわかりません。」
イシスの警告でシャルヴィはタングリスニの骨を加え火をつける。超回復をもたらすその煙を深々と吸い上げ、ゆっくりと吐き出す。
少しの油断も許されない極限の状態。
人がごった返した通りをじっと見つめる3人。
そんな異様な3人を不思議そうに見ていた人達の目線が不意に別のものに向けられ始めた。
人混みをすり抜けるようにして出てきたのは1人の男。
真っ白な長髪に真っ黒な羽織を着込んだ彼は人の目を引くには十分な異様さだった。
いや、違うな。
人々の目が引かれていたのは彼が片手に持つ長太刀だろう。
刃渡り2メートルはあろうその太刀は燕尾色の鞘に納められ、厳とした雰囲気を纏っていた。
「先程、大勢の人が死にました。これは私にとっても意図しない事です。今回の聖戦、傍観者でいようと思っていたのですが、状況が変わりました。貴方方に恨みはないですが、排除させてもらいます。」
そう言って男は体勢を低く構える。
肩幅に足を広げ、腰に当てて持つ長太刀に軽く手を添えるように構える。
「二人共!逃げて!!」
イシスの悲鳴にも近い叫び声に一瞬の間をおいてシャルヴィ、ユピテルの二人は反応する。
イシスが防御の魔法陣を展開するや否や、それは縦にばっさりと切り分けられ、その余波をイシスが受ける。
「うぐ…。」
左手に絡みつくような切り傷。ぷくりと血が浮き出し、痛々しく腕を伝って地面へと滴る。
その身を案じたのか二人共逃げようとしない。
「すでに相手の間合いに入ってるの!とりあえず距離を置いて体勢を立て直して!」
魔法陣を次々と展開しながら固まる二人に指示を出すイシス。
魔法陣も展開するたびに切り裂かれていく。
辺りは一面の人の海、狂ったように叫び、悲鳴を上げて逃げ惑う。大通りということもありかなりの人がパニックとなっていた。
「民よ、鎮まれ。」
突然音が消え、逃げ惑っていた人々が足を止め男に視線を集める。
指先に小さな魔法陣を張った男は諭すように言って続けた。
「落ち着いてこの場を離れなさい。」
その言葉の通り、ついさっきまでパニックだった人々はまるで何もなかったかのようにぞろぞろと大通りを抜けていった。
「私は日本神話より天使派閥として召喚された【タケミカヅチ】と申します。日本の神故、私はなるべく人を殺したくない。これはそのための措置だと思ってください。」
軽く笑うと共に男は長太刀の柄に手を伸ばす。
居合。
神経を集中させ、一太刀に全力を尽くす。
達人ともなればかなりの速度で抜刀できる。
神ともなればそれを連発する程度のこと、容易であろう。
(速い…。抜刀が全く見えない…!)
魔法陣一発の防御力は簡単に言えば核シェルター並。それをいとも容易く切り裂く抜刀は相当なもの。
神器として刀が多い日本神話では長太刀という情報だけでは断定が難しい。
だがそこはもはやどうでもいい。
聖戦においてゼウスやオーディンなどの超有名な神と同列として注意するべき神。
それは日本神話の神全てだ。
神の力は個々の能力が大半を占めるが、信仰対象としての信仰の厚さも力のうちに入っている。
そしてここは日本。人々の信仰を直接受け、地の利もある。その強さはそれぞれの神話の主神にも匹敵するほど。
今のイシスでは勝てるか危うい相手なのである。
(長太刀を使った広範囲の抜刀術。スピードはかなり速い。手数も多い。消耗戦では負ける気がしないけど向こうは場所の恩恵を顕著に受ける。これじゃ部が悪い…。)
少しずつ剣撃の間合いから離れながら魔法陣を張り続けるイシス。それを見て何もできずに歯噛みする二人がいた。
「こういう時ってさ。自分の無力さに絶望して死にたくなるんだよね。」
ユピテルが虚ろな目をして小さく呟く。
「自分が無力に感じることなんてこれからいくらでもありますよ。使えない奴は使えないになりに少しでも出来ることをやる。ですよ。」
そう言ってシャルヴィは走り出す。
イシスの横をすり抜けまっすぐ男向けて走って行く。
イシスの防御魔法陣の前に出た瞬間シャルヴィの体は真っ二つに分断される。
「《雷羊の祝福》」
予想できていたこの事態に、シャルヴィは咥えた骨の煙を大きく吸い込む。切り分けられたシャルヴィの体はお互いに離すまいとすぐさま再生を始める。
その光景を眼前に、男の動きが一瞬鈍る。
「幹部が黙って見てられるわけないじゃないですか!!」
シャルヴィは体がつながるや否や拳を大きく振りかぶる。
「追加連撃!!」
振り抜いた拳は惜しくも腕で防がれる。
2発目を入れようと再び拳を振り上げるシャルヴィを切り捨てようと長太刀に手を伸ばす男。しかし腕は柄を掴むことなく突然殴られたかのように上へと弾かれた。
突然のことに思考が止まる男。そのみぞおちへとシャルヴィの一撃、いや、何発もの拳が打ち込まれる。
《追加連撃》
簡単な能力だ。
一回の攻撃で数回分の攻撃を繰り出せるという至って単純なもの。
だがシンプルイズベストという単語があるようにシャルヴィの能力は単純な強さを発揮する。
軽く後ろに仰け反りながらも体勢を崩さない男。
「時間は稼ぎました。あとは任せていいんですね。」
「ありがとう!後はなんとかしてみせるから。」
男の周りに数々の魔法陣が展開され金の柱が天高くそびえる。
《円弧の五芒星》
五行の内の"金"。
金の柱は太陽光を反射させながら、槍のように男へと襲いかかる。
主神をも軽々殺してみせたその攻撃を男は軽々と叩き切ってみせた。
「出し惜しみしてる場合ではありませんね!」
次々と魔法陣を展開し男へ攻撃を仕掛ける。シャルヴィの捨て身の攻撃を皮切りに一転攻勢。イシスの魔法が次々に男を襲う。
単純な強さで言えばイシスもかなりのもの。伊達にオーディンの弟子ではない。
だが男の強さもかなりのものだった。
次々と襲い来る金の柱を未然に切り捨て、劣勢ながらも隙があれば攻撃を仕掛けてくる。その顔色はいたって平常。なんら問題ないとばかりに居合を放つ。
「もう一押しといったところですか。」
タイミングを見計らっていたシャルヴィが動く。イシスの魔法の少しのインターバルを突いて反撃してくる男にダメ押しを。
シャルヴィが前に出てインターバルの少しの間、男の邪魔をする。
シャルヴィの邪魔が入るや否や気に入らなそうに顔をしかめる男。
「いい加減死んでいただきたい。」
突き刺すような殺意と共にシャルヴィの体が再び分断される。
しかし超回復ですぐさま回復される。
シャルヴィに意識を向ければイシスの攻撃でやられる。かといってイシスに集中すると邪魔が入る。
板挟みとなったオトコがとった判断は至極単純でお互いにとって妥協できるものだった。
「今はここらで手を打ちましょう。」
金の柱を切り刻んだところで男はそう言った。刀の柄から手を離し不満そうながらもくるりと後ろを向いて歩いていく。
「聞くか聞かないかは貴方方の自由ですが最後に1つお願いを。できれば日本の民を巻き込まないでほしい。」
そう言って男は姿を消した。
「…俺何もしてないんだけど死んだ方がいい?」
無気力な笑みを浮かべるユピテル。
「はぁ…、まぁなんにせよユピテルのその卑屈が聞けてよかったわよ。」
曰く日本神話の神を相手にして誰も死ななかったのは奇跡だとイシスは言う。その場の誰しも同じことを思い、感じたことだろう。
そして誰もいない大通りに爆音が鳴り響く。
個人的に気に入っている能力の1つです。
タケミカヅチの居合。
実は秘密があるのですがそれはまたいずれ。
あとクベーラの等価格交換もお気に入りの1つです。




