第十六話『動き出す絆』6
何度も視点が変わってしまってすいません……。
押されているな、柊……。
俺は柊の試合を見ながらそう感じた。
最初は、ほとんど互角で戦えていたが今では防戦一方だ。
相手があんな固有スキルを持っているのは予想外だったな。
隣にいる彩那さんもあまりよい気分ではないらしい。
まあ、それもそうだよな。
自分の娘が一方的に攻撃を受けていたらショックを受けるだろうな。
「これはまずいですね……」
心配そうな表情をしながら彩那さんは呟いた。
「確かにこのままでは負ける可能性もありますね」
「いえ、そうではなくて……昔の事を思い出しまして」
「昔の事ですか……?」
てっきり、俺と同じことで深刻そうに考えていると思っていたがそうではないらしい。
「実はですね、成実とその対戦相手の天道茉依さんは昔からの知り合いなんです」
「……!? それは本当ですか?」
俺の質問に彩那さんは頷いた。
そういう事だったのか……。どうしてここまで柊が一生懸命だった理由が分かった気がした。
『これだけは負けられないのよ』
以前柊が言っていた言葉をふと思い出す。
でも、この話をして良かったのか……?
俺が柊の事情に入るのはお門違いかもしれない。
だけど、困っているのなら出来る限り助けたい。
「その話、俺にもう少し詳しく教えてくれませんか?」
「えっ……。まあ、司さんになら話してもいいかもしれませんね」
彩那さんは一呼吸した後、
「成実と茉依さんは昔からの知り合いで、昔は本当に親友と呼べるくらい仲良しでした。
家族以外とは一切話さない成実を茉依さんは変えてくれたんです」
柊が引っ込み思案で人見知りだったのは知らなかったな……。
俺は頷きつつ、彩那さんの話を聞く。
「成実が今のように明るい性格になったのは、茉依さんのおかげです。本当に茉依さんには感謝しています。
茉依さんから会ってからは成実はいつも嬉しそうでした。どんな時でも茉依さんは成実と一緒にいました。
ですが、それはいつまでも続きませんでした……」
途中までは淡々と話していたが、少しつらそうな表情を浮かべる。
彩那さんにとっても、心が痛い話なのだろう。
時間が少し経った頃、
「成実と茉依さんとの関係が切れてしまったのは彼女たちが十三歳の時です。私達の住んでいた町が襲われたのです」
それってまさか……。
その話を聞いて俺は過去のことを掘り返していた。
「襲撃が遭った時、成実以外はとある事情で出掛けていました。その話を聞いたときは私も頭の中が真っ白になりました。
けれども、成実はある少年のおかげで助かりました」
そこまでは俺も知っている。
俺もその事件に関係していたからだ。
だが、今回はそこが重要ではないだろう。
ここが重要であれば、柊と茉依との関係が崩れてしまった理由が分からない。
「その後、他から応援が来て、何とか私達の町は救われました。そこまで私としても良かったのです。
しかし、これだけでは終わりませんでした。私達の町にいる者達は隣の町、茉依さんのいる町の住民のせいにしたのです。
簡単に言えば、勘違いです」
「勘違い……」
「はい。後から分かったことですが、襲撃してきた者は神の作り手の部下によるものだったらしいです」
その言葉を聞いていた俺はこぶしを強く握りしめていた。
やはり、あいつらの仕業か……。
昔からそんな残虐なことをしていたらしい。
本当に腹立たしい話である。
「そんな事情を知らなかった私達の住民は茉依さんのいる町に襲撃を仕掛けました。もちろん、それで大勢の人が死にました。
全て勘違いによって引き起されたものです……。その被害者の中には茉依さんの両親がいました」
「……!!」
「茉依さんの両親は目の前で殺されたらしいです。その日から茉依さんは私達を憎むようになりました。
もちろん、成実のことも。勘違いって怖いですよね……勘違いで起こったものでも結果的に事実になってしまうのですから」
悲しそうな表情を浮かべた。
彩那さんもつらいだろうが、一番つらいのは柊自身だろうな。
勘違いによって傷付き、そして大切な友達を失った。
「最近では茉依さんもだいぶ落ち着いていますが、今でも私達のことをきっと恨んでいます。
もう後戻り出来ない所まできてますから。関係を取り戻せないかもしれません。成実は頑張ってここまでやってきましたが、このままでは……」
「大丈夫ですよ」
「えっ……?」
俺の口から気が付けばそんな言葉が出ていた。
彩那さんが驚くのも無理ない。
だけど、俺には言えるんだ。
柊ならきっとこの壁を越えられると。
「俺は柊のこと、信じてますから。今までやってきたことは決して間違っていないと思います」
「それはそうですが、今の状況では成実は何も出来ません。成実がまた傷付くだけです」
「確かにこのままでは無理かもしれません。ですが、そんな無理な状況を支えるのが俺達じゃないんですか?」
「……!!」
そう、こんな所でうろたえていいわけがないんだ。
柊は必死に戦っている。
それなのに俺が負けそうになっているんだよ、まったく。
「まだ、諦める時ではないですよ。俺はそう信じてます」
「司さん……」
「だから、信じてください」
「ごめんなさい……司さん。大人なのに情けない所を見せてしまいました。
そうですよね、私達が諦めていけませんよね。ありがとう、大事なことを思い出せました」
「気にしないでください。俺はただ柊を助けたいだけですから」
これは勝手な俺のわがままかもしれない。
柊や彩那さん達とは俺は関係ない。
だけど、それでも俺は助けたい。
柊の為にも……。
俺は立ち上がる。
「すいません、俺用事が出来ました。せっかくこんな場所案内していただいたのに本当にすいません」
「まさか、行くつもりですか……?」
俺は静かに頷く。
どうやら今から俺がしようとしていることを理解しているらしい。
「そうですか……。またどこでお会い出来る事を楽しみにしています」
「俺もです」
その言葉を最後に俺は彩那さんのもとを離れる。
そして、闘技場の入り口に走った。
柊、諦めるなよ……!!
どうやら俺はこれで本当の問題児になるかもしれないな。
まあ、そんな事はどうでもいい。
俺は軽く笑いながら、柊のもとへ急いだ。




