第二話『神人少女の願い』3
「やっと来たか……。遅いぞ、司」
俺が集合場所である柊の部屋に着いた頃には、柊はもちろんの事、瀬那先輩もいた。
いつもの事だから、瀬那先輩は少し呆れている。
まあ、俺の事情を知らない、柊は少し怒り気味だが。
「すいません。少々、面倒に巻き込まれてしまって……」
授業が終わった後もどうして神人に勝てたなどと、質問攻めにされたのだ。いつもはそんな事はないのにな。
おかげで、そういう人達から逃げてようやく辿り着いたところだ。
「本当よ、まったく」
いや、お前のせいだからな。
俺が巻き込まれた理由はこいつ、柊にあるのだ。
それを知らずに、柊は俺にそう話す。
俺は軽く睨んだ後、瀬那先輩に今日の要件を聞いた。
「そういえば、今日はチームについての話ですよね?」
「ああ、そうだ」
俺も突然に伝えられたものだから、どうしてもすぐに聞きたかった。
「今日のメインはもちろん、チームについてだ」
「瀬那先輩、私は……!!」
「まあまあ、落ち着け」
確かに、柊にとっては不満か。
俺も嫌な所はあるが。
瀬那先輩は柊の言葉を打ち切り、話を続ける。
「理由は少し学園事情になってしまうが、許してくれ。実は、今年最初に行ったチーム決めがあったんだがな……」
入学式から、二日目に行われる実技試験を兼ねて行われたものだろう。
ほとんど、そこで生徒は三人から四人でチームを組む。
もちろん、そういう様なチームに入らないつまり、一人も選択も出来る。
俺はもちろん、柊もその一人だろう。
「どうやら、お前たち一年生の中でチームが一つ足りなかったみたいなんだ」
「それで、俺たちを?」
瀬那先輩はこくりと頷く。
例年なら、このようなチーム不足なかったようだが、今年はチーム不足に陥ってしまったようだ。
瀬那先輩自体も少し戸惑ってるのだろう。俺はそう思った。
それはそうとして、一つやらなくてはいけない事が生まれる。
人員の補充だ。
チームは最低でも三人で組まなければならない。
「でも、先輩。チームには三人必要なんですよね。後一人はどうするんですか?」
「それは、お前たちが何とかしろ」
「「えっ!?」」
珍しく柊と反応が一致する。
すると、ため息を瀬那先輩が吐き、事情を話す。
「少しぐらいは私の苦労を分かってくれ。そればかりは、私でもどうにもならんのだ。人員補充はお前たちでしてくれ」
「それは、さすがに……」
「お前たちがやれ」
「分かりましたから、俺に銃を向けないで下さい」
まったく、やっぱり強制になってるじゃないか。
後、俺の意思は反映されないのかよ。
「話を戻すぞ。チーム不足という事で、学園長がお前たちというわけではないが新たに作る事にしたのだ。だが、お前たち以外にそういう者が現れなくてな」
いや、俺も嫌なんですけど。
それは、柊も同意見のようだ。
ここは我慢をしよう。
「というわけで、今こうなってるわけだ。あっ、そうそう。これは学園長の命令だから、逆らえないぞ」
最後に忠告をし、話を終える。
瀬那先輩自身もそれは大変なようだし、まあ気にしないでおく。
今回はそれ以外に目的がある。
さて、そろそろ切り出すか。ここで、柊がどう出るかだな。
「学園長の命令とはいえ、俺は反対です」
「貴様、先ほど言ったばかりだろう」
俺は視線や表情でそう言った理由を瀬那先輩に伝えた。
すると、瀬那先輩に伝わったらしく、銃を下げた。
「なら、理由を聞こう」
「チームが足りない事情は分かりました。それでしたら、俺たちにはいや、柊には合いません」
「何ですって!!」
それは黙ってるわけにはいかないか。
ここまでは予想通りだ。
「話を続けろ」
「瀬那先輩!!」
その様子を見た、柊は瀬那先輩に反発した。
「私たちにも人の意見を聞く権利があるからな」
まあ、先輩らしくない言葉だな。
言ったら、殺されると思うが。
その事を瀬那先輩に言われ、柊は抑える。
さて、続けるか。
「理由は簡単ですよ。柊が最弱だからですよ」
「なっ!! あなたはっ!!」
俺に殴りかかろうとする。
「でも、事実だろう」
柊は黙る。
そうだ、ここからが本番だ。
お前の意思がどこまで本気か……見せてもらうぞ、柊!!
「昨日の模擬戦で、柊は分かってるだろう? 自分が人間に負ける程の最弱だって事を」
「……」
柊は口を閉じたままを睨んでいる。
このままで、ずっと黙ったままだな。
少し揺さぶるか。
「お前に、チームとして参加して成果が挙げられるのかよ? 学園長の命令だぞ、そう簡単に失敗出来るもんじゃないぞ」
俺は強く柊に語り掛ける。
これで、柊の思いが分かってくるだろう。
後、もう一息か。
「なあ、お前は何の為に訓練して、戦ってんの?」
「それは……もちろん誰かを守る為よ……」
今にも消え入りそうな声で柊は答える。
「誰かを守る為? 柊が?」
「もちろんよ……」
「ふっ。最弱のくせに偉そうだな」
あまり、普通過ぎて俺は呆れてしまった。
まあ、そう答えるのは当たり前だろうが。
「……黙れ……」
「ん? 何だよ、最弱が何か出来るのかよ? お前が誰かを守る事が出来るのか?」
「黙れ!!!!」
俺に勢いよく殴りかかってくる。
俺は何とか間一髪で避ける。さすがに、神人だけあって動きは普通の人間よりもはるかに速い。
まあ、俺には通用しないけどな。
「危ないな、まったく。何かあったら、どうするん……!!」
俺は言葉の途中で口を閉ざす。
柊の目には涙が浮かんでいた。そして、柊は俺を強く睨み付けた。
「あなたに…………あなたに私の気持ちの何が分かるのよ……私は確かに最弱よ……でも!! 私だって、頑張ってるじゃない……それなのにあなたは……もういい!! あなたとチームなんて組みたくない……」
最後にそう言い、柊は涙を流しながら、俺と瀬那先輩の前から去っていく。
「おい、柊!!」
瀬那先輩が引き止めたが、柊は振り返らなかった。
「何か、意図があったのかは知らないが、やり過ぎだ。反省しろ」
「すいません」
確かに、ここまでなるとは思っていなかった。
俺は今してしまった事をとても反省した。
まあ、いつか元通りになるだろう。にしても、頑張ってるね……。
柊の真の気持ちまでは残念ながら、俺には分からなかった。
俺が深追いする必要はないだろう。
「うん? 何か、ペンダントか?」
俺は扉の前に恐らく柊の物であるペンダントを見つけた。
あいつ、ペンダントなんて着けるんだな。
確か、昨日は着けてなかったはずだ。
そんな事を思いながら、俺はペンダントの中を覗く。
この際問題ないだろう。
だが、そこにはあり得ない物があった。
「……!! ……俺?」
どういう事だ?
そこには今の俺より二、三歳若いと幼いと思う俺と柊らしき人物が一緒に立っている姿が映っていた。
まさか、柊は…………あの時の……?
そういう事なのかよ……。
「どうした、司?」
少し面倒くさそうに瀬那先輩は俺に尋ねてくる。
どうやら、ペンダントの中は見ていないようだ。
「何でもありません。それより、先輩」
「何だ?」
「柊は朝どこにいますか?」
「なぜ、聞きたいんだ?」
「俺、どうしても柊に謝らなくてはいけないんです!!」
「分かった。教えてやろう」
俺は瀬那先輩から場所を聞いた。
まったく。
このペンダントのせいで、俺はどうやら深追いをしなければいけないようだ。
悪かったよ、柊。
俺は心の中で、深く謝った。