第十三話『問題児の苦悩』6
「ふぅ~……」
伊吹と別れ俺と柊と七瀬で訓練を終えた頃、俺は一息ついていた。
とはいえ、鶴川と話をしていた事もあってあまり体力は使っていない。
それに今日は各自別々の場所で練習したので俺自身疲れる事は特にない。
まあ、一息つく理由は精神的な面で疲れているからだ。
とりあえず、伊吹の問題はひとまず落ち着いたが苦しくなるのはこれからだ。
伊吹が俺の意図をしっかりと理解してくれるか。そしてそれを理解して上で俺の指導無しで上達を目指せるか。
伊吹の成長はこれらにかかっている。
つまり下手をすれば伊吹は上達せずただ自信を無くすだけになってしまうかもしれない。
もちろん、俺が答えを教えてしまったら意味がない。だから俺は伊吹に自分が強くなる為にどうすればいいか試行錯誤してほしい。
そうすれば、今まで以上に強くなるはずだ。
俺はそう願いながら今日は訓練していた。
「司?」
俺が心の中で葛藤しているとふいに声がした。
「どうした、柊? 何かあったのか?」
俺の前に立っている柊は何とも言えない表情をしている。
いったいどうしたのだろうか……?
もう一度言うが今日は瀬那先輩のおかげで俺達は各自の場所で訓練している。
初日は各自で自分の技を見直すため訓練場所を別々にしようと話し合った結果もあるが。
だから今日は自分で確認が終わり時点で解散になっている。
それなのに俺の目の前には柊がいる。
俺は少し不安になりつつも柊の方を見る。
そんな目で見られた柊は少したじろぐ。
少しの間、静寂に包まれた後、
「あのさ……実は……言い忘れていた事が……あって」
「言い忘れていた事?」
「そう、言い忘れていた事。私も早く話そうとは思っていたんだけど……」
様子を見る限り中々言いにくいことらしい。
今も柊は言い訳ばかりを並べ本題に入ろうとしない。
まあ、そんなに重要ではないと思うけどな。
でも一応聞く必要はある。
だからそんなに焦らされると余計気になってしまう。
「それで結局、何が言いたいんだ?」
「えっと……その……つまり……今回の団体戦に私は参加出来ないの!!」
「…………へ? ごめん、もう一度言ってくれ」
俺はあまりに予想外過ぎる告白に驚きを隠せなかった。
「だから、私は神人のトーナメント戦があるから参加出来ないの!!」
「それ、本気で言ってるんだよな……?」
「ええ、そうよ」
これは困ったな。
まさかこの時期に神人のトーナメント戦が開かれるなんて知らなかった。
それに柊が参加しようとしているのはもう驚きしかない。
となると、俺達のチームで参加出来るのは俺と七瀬だけになる。
ただでさえ人数が少ないチームなのに、参加出来るのが二人なれば当然こちら側が不利になる。
俺はより精神に疲れが溜まってきた。
「ごめんね、司」
そんな俺に柊は非常に申し訳なそうな表情を浮かべながら俺に謝った。
「絶対にトーナメント戦には出ないといけないの。特に今回はどうしてもね」
最後の言葉に明らかな目的が感じられた。
恐らく柊にとって避けては通れないものなのだろう。
だったら、俺が柊に理由を尋ねたりする必要はないな。
「そうか……。事情は知らないが頑張れよ、柊」
「うん!! ありがとう、司!!」
俺の言葉に柊は笑顔で答えた。
まあ、これで柊も強くなれば一石二鳥か。
とりあえず今のところ大丈夫そうだな。
「じゃあ、私はこれで」
「お疲れ、柊」
「司も。お疲れさま」
先ほどとは違って柊は嬉しそうな表情を浮かべながら訓練場を去っていった。
柊が訓練場を出た後、俺も帰宅するため片付けをした。
さて、これからどうするか。
まあ、時間はまだある。
ゆっくりと考えていこう。
とまあ、そんな甘い考えのせいで俺は今悩み悩んで混乱状態になりつつある。
正直言えば四日前の俺にこう言いたい。
――もう少し先の事を考えろ、と。
今更言ってもしょうがない事ではあるが。
そんな気持ちがあるせいでこんな朝早くから考え込んでいるのだろう。
全然何も名案は一切浮かばないけどな。
とりあえず、一度飲み物でも飲むか。
俺は二階にある自分の部屋から降り、一階のリビングに移動した。
「さて、飲み物は何にするか……」
冷蔵庫を開け、飲み物を探す。
う~ん……。麦茶しかないな。
まあ、コーヒーも今切らしているし麦茶でいいか。
俺は麦茶の入った容器を取り出し、コップに麦茶を注いだ。
今はまだ五時過ぎ。普通はまだまだ起きる時間ではない。
俺は割と起きるのは遅い方なので五時前に起きたのは珍しい。
おかげで眠い。とはいえ、考え事をしていてとてもじゃないが寝ていられる状況じゃない。
「ふわぁ~……眠い。外の空気で浴びるか」
俺はつい欠伸をしてしまったので、外の空気でも浴びようと思った。
麦茶を飲み干し、リビングのカーテンを開けた。
「……えっ?」
俺は気が付いたら床にコップを落としていた。
おかしい……どうしてここに……。
いや俺が疲れているだけかもしれない。
そうだ、そうに違いない。
と思ったが、その人物と目が合った。
そしてその人物は目が合うと気まずそうに視線をそらした。
「はぁ……」
俺は深いため息を吐いた。
どうやら俺の苦難はここかららしい。
また何かお願いなのだろう。
そうだよな…………柊。
なぜか俺の家の前にジャージ姿の柊が立っていた。
これで第十三話は終わりです。いかがでしたか。次回は第十四話です。これからもよろしくお願いします。また、ブクマと評価をして下さった読者様本当にありがとうございます!!




