第十三話『問題児の苦悩』5
鶴川のチーム部屋に来てからかれこれ二十分。
ようやく鶴川の機嫌が良くなり、今では全員で紅茶を頂いている。
頑丈そうな椅子や机は柊の部屋と本当に比べ物にならない。それにここはふかふかそうなソファーがある。
そこに座っているのはもちろん鶴川だけだ。
鶴川が紅茶を飲み終えると、
「それで、今日はいったい何の用?」
俺達に要件を尋ねてきた。
そうだよな。俺はここに来た理由は鶴川に話があるからだ。
改めて目的を自分の中で確認しつつ話を始める。
「鶴川、団体戦三回戦の対戦相手は誰かは知っているだろう?」
「ええ、あなた達でしょ。……ふ~ん。なるほど、要件は伊吹ね?」
「ああ、そうだ」
俺と鶴川の話を聞いている伊吹は何だか気まずそうにしている。
まあ、それも仕方がないな。
心の中で俺は伊吹に同情しながら、話を進めた。
「それで、伊吹のことだが――」
「ダメ」
俺の話の途中で鶴川が速攻で拒否をした。
「おい、まだ全て話していないんだが……」
「言わなくても分かるわ、そんなこと。あなたと言いたい事は伊吹をあなた達のチームとして参加させてほしいという事でしょ?
そんなの私が許可すると思う?」
鶴川は先ほどよりも少しきつい口調で俺に話しかける。
鶴川としてはやはり伊吹と一緒に参加したいのだろう。
まあ、その事については別に構わないけどな。
「ああ、分かってる。だから――」
「なら、答えはノーよ。これで終わりならさっさと退室してね」
鶴川が冷たくそうあしらうと、バンッ!!
柊が強く机を叩いた。
「鶴川、そんな言い方ないんじゃないの? 司はこうして優しい態度でお願いしているのよ」
俺のことを気遣ってくれるのは嬉しいがなぜそんなに怒ってるんだ、柊?
俺はよく理由が分からない。何か悪いものでも食べたのだろうか。
「何、急に? どうしてあなたがここで出てくるのよ。この人に対して特別な感情でも持ってるのかしら?」
「とっとっとっ特別な感情!? そっそっそんなわけないでしょ!! 私はただ……」
「ただ、何かしら?」
「うっうっうるさい!! とにかくムカついたのよ!!」
「……ツンデレ」
その鶴川の言葉に柊が異常なほど反応した。
「なっなっなあ!? あなただけには言われたくないわ、ツンデレ!!」
「はっはっはぁ!? 私はツンデレじゃないわ、ツンデレ!!」
「ツンデレ、うるさい!! 私は至って普通よ」
「ふん。そういう者は大抵異常なのよ、ツンデレ!!」
「異常とツンデレは関係ないでしょ!! いい加減こそ、認めなさいよ!!」
「あなたこそ!!」
「お前ら、ツンデレツンデレうるせぇよ!!!!」
「「……!!」」
俺はあまりのツンデレ連呼につい声を上げてしまった。
突然の俺の怒りに柊と鶴川は驚いている。
二人とも固まってしまった。少しやり過ぎたか……。
俺は心の中で反省する。
「まあ、二人とも。一度、落ち着いてください。司君も急に大声上げるのは止めましょう」
「ああ、すまん」
仲介役として七瀬が立ち上がり何とかこの場を収めた。
さすが七瀬だな。こういうのはお手の物なのだろう。
それにしても俺まで注意するなんてな。まあ、しょうがないか。
柊と鶴川が落ち着いた頃合いを見て、話を再開させる。
「まずは俺の話を聞いてくれ、鶴川」
「うん、ごめんね。少し取り乱したわ」
「気にするな。それに俺は別に伊吹を俺達のチームに参せてもらうために、話をしに来たわけじゃない」
「えっ?」
鶴川が俺の話を聞いてまさに鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。
まあ、驚くのも無理ないか。
鶴川は伊吹を俺達のチームに参加させるために頼みに来たと思い込んでいたからな。
というかおい。柊まで何でそんなに動揺してるんだよ……。
まさか、伝わってなかったのか。少しくらい察してくれ。
「要するに俺は伊吹は鶴川のチームとして参加してほしいということだ。むしろ、今回はその方が伊吹の為になる」
「司……それって」
俺の話を今まで静かに聞いていた伊吹は今の話を聞いて少し悲しそうな表情を浮かべている。
「伊吹、勘違いするな。俺は決して伊吹を俺達のチームから外したわけじゃない。伊吹に強くなってもらいたい」
「強く……?」
「ああ。さっきも言っただろう、俺は伊吹にメリットを作るって。それに俺は一度伊吹と戦ってみたいんだ」
「僕なんか弱いし、司の相手にならないよ……」
伊吹が自信なさそうに俺に返答する。
まあ、確かに自信が無くなるのも無理ないとは思うが。
「そんな事ない。俺が戦いたい者が弱いわけないだろう。伊吹は十分に強い。だから勝負だ、伊吹」
俺は笑顔で伊吹にそう言った。
俺の笑顔を見た伊吹は少し考えた後、伊吹は笑顔で答えた。
「うん、分かった。受けて立つよ、司」
「ああ、その意気だ」
「あの、今ので話がまとまったの?」
俺と伊吹の約束を黙って聞いていた鶴川はどうやら状況が理解出来ていないらしい。
「ん? 分からないのか? 俺はその先の話をしている。つまりは宣戦布告。団体戦三回戦、俺達が勝ったら正式に伊吹を俺達のチームに入れる。
分かったか、鶴川」
「「「「……!?」」」」
俺の言葉に全員が驚く。
「分かったって……。そんな事、まかり通ると思ってるの?」
「ああ。それにこれは伊吹の決断しだいだ。鶴川が決めることじゃないだろう」
「それはっ……!!」
「それとも何だ? もしかして俺達に負けるのが怖いのか?」
「はぁ!? そんなわけないでしょ。……分かったわ、その条件飲んであげるわ」
「ああ、そう来るって思ったぞ。俺達も本気でやるから、鶴川も本気で戦えよ?」
「当然よ」
「つっつっ司!!」
ひと段落、話が済んだ所で伊吹が慌てたように尋ねてきた。
「……? 何だよ、伊吹?」
「さすがにそれは急過ぎるってば!!」
「安心しろ、伊吹。俺達の試合は今日から一週間後だ。まだ全然余裕がある」
「そうだけど……。ああ、もう!! 僕、絶対負けないからね!!」
少し拗ね気味に俺に強い意志を伊吹は見せた。
「ああ、俺も負ける気はない。まあ、そういうことだ、鶴川」
「もう大丈夫よ」
理解してくれたみたいだな……。
俺は心の中で安堵した。
「分かってくれたならいい。じゃあ、伊吹。今日から団体戦までは敵だな。しっかりと訓練しろよ」
「うん、もちろん!!」
「よし、なら俺達はこれで。柊、七瀬行くぞ」
「ええ」
「はい」
俺と柊と七瀬は席を立ちあがり紅茶を片付ける。
「試合、楽しみしてるわ」
「ああ」
俺達が紅茶を片付けを終え鶴川の言葉を聞いた後、俺達は部屋を出た。




