第十三話『問題児の苦悩』3
放課後。
俺と伊吹は今朝の出来事が気になって落ち着いていられず、一日中そわそわしている状態が続いていた。
まあ、皐月はそんな様子を見て楽しそうにしていたが。
今、俺達は柊の部屋にいる。
もちろん、その部屋には柊、七瀬、瀬那先輩もいる。
全員が集まってから五分少し経ったのが、この部屋には沈黙が流れていた。
いつもなら、すぐに訓練を始めるのだが今日はそうはいかない。
まずい、冷や汗を掻いてきたな……。
情けない話、今俺は本当に動揺している。
まるで策が浮かばないのだ。
とはいえ、このまま話さないわけにいかない。
仕方がない、さっさとこんな話は終わりにしよう。
「……さて、まずはきにょうの話をしっしますか!!」
「司、何か悪いもの食べたの?」
「顔色、悪いですよ……」
「まったく、司は……」
「司、大丈夫?」
最悪だ。
何だよ、きにょうって。きのうだろが。
しかも噛み噛みだし……もう、いろいろと駄目だ。
おかげで俺以外の全員に心配そうな表情で見られてしまった。
くそっ。俺は何をやってるんだ……。
いつもみたいに最強っぽく話さそうぜ、俺。そもそも最強っぽい口調って何だ。
とにかく、今日の俺は動揺し過ぎだ。
予想していたことだろう、この組み合わせは。
それなのに予想していたことが現実になって驚いて困り果てている。
まったく、俺らしくもない。
俺は調子を戻すために自分の頬を叩いた。
パチンッという軽快な音が聞こえ、周りにいる柊達は驚いている。
ついにおかしくなったかという表情だ。
まあ、いい。すぐにいつも通りする。
「えっとな……昨日の言っていた対戦相手の事だが今日、発表された」
俺のいつもの口調を聞くと、全員が呆れ顔から真面目顔に変わった。
よし、これで大丈夫だな……。
内心、ほっとしつつも話を続ける。
「対戦相手は伊吹が元々というか今も所属している鶴川のチームだ」
「「……!!」」
「なるほど、司君が困っていた理由がようやく分かりました」
まあ、そんな反応は分かっていた。
鶴川のことを知っている柊と瀬那先輩は非常に驚いた素振りを見せる。
一方、鶴川のことを知らない七瀬は少し動揺しつつもすぐに冷静な表情に戻った。
「そうか、分かってくれたならいい。今の様子から理解しているとは思うが、一つ問題がここで出てくるよな?」
伊吹以外は静かに頷いた。
それはそうだ。
今回の問題には伊吹が関わっているのだからな。
「伊吹、どうする?」
「えっと…………ごめん。まだ、決められない」
「それもそうだな」
「どうするの、司?」
「そうだな……」
問題が分かった所で解決方法が思い付かない。そもそも、最終的な判断は伊吹だ。
伊吹がどちらを選ぼうとしない限り、その後に進めない。
だから、今考えてみろと言われても無理な話だ。
俺は何となく瀬那先輩に視線を向ける。
だが、
「言っておくが、私もそこはどうしようもないぞ。まあ、私から伊吹が両チームに参加するのは、ルール上問題ないということだけは言っておこう」
「一応、ありがとうございますと言っておきます……」
今の言葉で余計に複雑な問題になってしまった。
出来れば、どちらも参加してほしいがそれは伊吹にとって酷なことだろう。
さすがに中学生時代から友達の伊吹にそんな事をさせるのは俺も心が痛い。これは最終手段だ。
「参ったな……。何かいい案があるといいけどな」
「あっ、それなら名案があるわよ」
「本当か、柊!!」
柊が何かを思い付いたようだ。
「ええ。要するに伊吹がどちらのチームとして参加するか悩んでいるんだよね? だったら、答えは一つしかないわ。伊吹は私達のチームとして参加すればいいのよ!!」
「柊さん、それはさすがにそれはないです……」
「俺も同感だ。何が名案だ。愚案の間違いだろう。少しは伊吹の気持ちを考えろ」
「……ごめん。私、余計なことを言ってしまったわ」
俺と七瀬に即座に否定されるとシュンとして柊は黙ってしまった。
まあ、期待はしていなったけどな。
伊吹の気持ちはもう少し考えないとな。伊吹も心苦しいはずだ。
「まったく、柊さん。事情は知りませんが、私でもせめて伊吹君は鶴川さんのチームに参加させるようにしますよ。
でも、私も名案なんて全然思い付きませんし、発言したことには悪いと思っていません。だから、そんなに暗くなる必要はありません。伊吹さんも」
七瀬、良い奴だ。
しっかりとここでフォローを入れるとは。
これで少しは柊と伊吹は元気になるだろう。
それにしてもどうするか……?
方法としては三つだ。
一つ目は伊吹は俺達のチームに参加する。
二つ目は伊吹は鶴川のチームに参加する。
三つ目は伊吹は両方のチームに参加する。
まあ、三つ目はさすがに伊吹が可哀想だ。
だから、これは本当の意味での最終手段だ。
一つ目は俺達としては嬉しいが鶴川のチームに失礼だ。
つまり、この中で二つ目が一番いいだろう。
まあ、それは俺と伊吹が敵になるということに繋がる。
それが一番の問題だ。
伊吹がそういうのを気にするタイプなのは俺がよく知っている。
とはいえ、伊吹が今何を考えているまでは分からない。
参ったな、本当に。
もう、八方ふさがりに近い。
俺がそんなことを思っていると、七瀬が再び口を開いた。
「思ったんですけれど、伊吹君に何かメリットがあれば決められますよね?」
「メリット……。う~ん、今の所僕にはメリットは愚か、デメリットしかないと思うよ」
「それもそうですよね……。どうします、司君? ……あの、司君?」
「なぁ、七瀬?」
「何ですか、司君?」
「伊吹にメリットがあればいいって言ったな」
「はい、言いましたけど……」
「伊吹はデメリットしかないって言ったか」
「うん、言ったよ」
そうか。
そうだよ、俺。どうしてこんな簡単なことに気が付かなかったんだ。
「あの、司君?」
「すまん、ようやく分かった」
「分かったってつまり……」
「ああ。簡単なことだ、伊吹に対してメリットを作ればいい」
そう、ないなら作ればいい。
今までの人類だってそうやってこの世界を作り上げていった。
だったら、メリットだって作るのは困難じゃないはずだ。
「メリットを作る……? いったい、どうするのですか?」
「そんなの一つしかないだろう。伊吹が強くなる、それがメリットだ」
「司……」
「伊吹、今回の団体戦でお前を必ずさらに強くする。どうだ、十分なメリットだろう?」
「ふっ、なるほどな……。中々やるじゃないか、司」
一番最初に理解した瀬那先輩は興味深そうに笑う。
他のみんなはまだ理解していないようだが。
「まあ、俺は最強ですから。さて、移動するか」
「移動するってどこに行くの、司?」
「決まってるだろう、柊。鶴川のチームの元に行くんだよ」
「……なるほど。私も分かりました」
「僕も司の考え、理解したよ」
「……ってあれ、理解していないの私だけ?」
「ほら、行くぞ。瀬那先輩、留守番お願いしますよ」
「ああ、分かった」
理解していない者が一名いるが、まあいいか。
俺達は鶴川のチームの元へ向かった。




