第十三話『問題児の苦悩』1
「はぁ~……。参ったな……これは」
五月終盤。俺――涼風司は家の窓の外を見ながら大きなため息を吐いていた。
もちろん、俺がこんなに悩んでいるのにはとある理由がある。
こんなにというのは……まあ、詳しくは五日前に戻って説明することにしよう。
今から五日前。
「じゃあ、団体戦三回戦進出と七瀬の加入を祝して……カンパ~イ!!」
「「「「カンパ~イ!!」」」」
カランッ……。
グラスが重なる音がする。
俺も含め全員が勢いよくグラスの中の飲み物を飲み干す。
もちろん、中身はジュースだ。後は机の上にはケーキの中で定番のショートケーキやチョコレートケーキ、モンブランなどがある。
「うん、司が提案したと思えない素晴らしい打ち上げだ」
ジュースを美味しそうに飲んだ後、瀬那真央先輩はそんな感想を漏らす。
隣にいる柊達も頷いている。
まったく、せっかく俺が気分を上げるために提案して祝勝会を開いたというのに、相変わらず俺は問題児扱いらしいな。
「はい、そうですね。私はこういうのは初めてなので凄く楽しいです!!」
瀬那先輩の隣にいる七瀬唄は少し興奮気味にそう答えた。
とりあえず、満足しているみたいだ。
まあ、祝勝会と言っても柊の部屋でやってるんだけどな。
「へぇ~……意外ね。てっきり七瀬はお金持ちだしこういうのはよく経験しているのかと思っていたわ」
七瀬の話を聞いた柊成実は驚いたように言葉を口にした。
確かに、俺も柊の言うとおり七瀬が祝勝会のような打ち上げが初めてなのは驚いた。
さすがにお金持ちだからと言って全ての人が当てはまるわけじゃないみたいだな。
「確かに、晩餐会に参加したことはありますけど……堅苦しい集まりなのであまり楽しくないです。それに婚約はどうかという話ばかりですから……いいことはあまりないですよ」
「そうか……。まあ、でも七瀬が婚約を迫られる理由は分かる。七瀬は相当の美人だしな……っておい。どうしてそこで顔を赤くする」
俺はあくまで事実を述べただけなのに七瀬は俺の言葉を聞いて少し照れている。
そして、隣にいる柊の視線が少し冷たいのような気がする。
「司!! あなたっていう人は……」
「なっなっ何だよ、柊。俺、何かお前の気に障ることを言ったか?」
「べっべっ別にそういうわけじゃないわよ!! ちょっと羨ましいと思っただけ……」
柊はそう言って手をモジモジさせながら黙り込んでしまう。
まったく、女子の気持ちというのは俺はまだまだ理解出来ていないらしい。
まあ、そんな思いを抱けるだけで男として嬉しいことに変わりはないが。
あまりこういう話を言うと男子を敵に回す危険があるので止めておく。
「おい、伊吹? お前がスイーツが好きなのは知ってるけど、ほどほどにしておけよ」
「はむっ……。うん、分かってるよ」
「本当に分かってるのか……?」
俺達が話をしている間、ずっとケーキを頬張っていた伊吹雫はほっぺにケーキの食べかすを付けながら俺の話に答えた。
そうやってほっぺに付けている姿もやはり可愛い。天使だ。
とはいえ、さすがにケーキを食べ過ぎだ。一応、注意はしたが本当に大丈夫だろうか……?
まあ、いいか。とりあえず、話を本題に移すか。
「さて、祝勝会も一通り終わったし今後について話したい事がある」
「それは私が一番気になっていたことだ」
「私もよ」
「私もです」
「はむっ……美味しい。……あっ、僕も」
全員|(伊吹は分からない)、俺の話を聞いてくれるようだ。
俺は息を整え、本題に入る。
「次回の団体戦の事なんだが……次回の戦闘形式は二本取り式になると思う。つまり、全員が団体戦三回戦に参加することになるはずだ。
まあ、正確に説明するのは対戦相手が決まってからだな。ちなみに発表だが、明日に公表されるようだから……結局一日空くだけになる。
……とまあ、団体戦の形式上の話はここまでだ。とりあえず、瀬那先輩。形式についてはこれで構いませんよね?」
「ああ、大丈夫だ」
「なら、良かったです。本当の話からここからだ。
訓練内容は今まで基礎訓練が多かったが、今回からは技の向上を目的とした応用訓練を始める。それは、大丈夫だよな?」
俺は一応確認を取る。
全員、特に躊躇いのもなく賛成してくれた。
「七瀬みたいな実力のある人が入ってきたから、いよいよ高みを目指していいと俺は思っている。だから、一緒に頑張ろう。
これで終わりだ。俺の話を聞いてくれてありがとうな」
「なるほどな……。司も随分成長したみたいだな」
「みたいだなって……。というか、そもそもこういうのは瀬那先輩の仕事だと思うんですが?」
「まあ、そう言うな。私はあくまでお前たちの監視だから別に間違っていないだろう?」
「確かにそうですけど……」
「とりあえず、もう話は終わりだ。私は風紀委員長室に行って片付けをしてくるよ。お前達も早く帰宅しろよ」
一通り飲み物を飲んだ後、瀬那先輩は最後にそう言い残し部屋を出て行った。
「楽しい時間というのは本当に早く過ぎ去ってしまうものなんだな……」
気が付けば下校時間ギリギリだった。
「そうね。でも、これはあくまで息抜きだしね。本番はこれからでしょ」
「まあ、そうだな」
「さて、と。そうと決まればみんなで片付けましょうか」
そう提案しながら、早速七瀬は片付けを始める。
俺と柊も七瀬の片付けを手伝う。
「伊吹!!」
「ひゃあぃ!! 何、司」
大声で伊吹に声を掛けると飛び上がるように反応した。
そういう素振りも可愛いから許されるのだろうな。
まったく、伊吹も中々だ……。
「もう終わりだぞ。片付けのを手伝ってくれ」
「うん、ごめんね。つい、楽しくて自分の世界に入ってたよ」
「まあ、気にするな」
「ケーキ、ごちさま」
「ああ」
そういえば、言い忘れていたがケーキやジュースは全て俺の自腹である。
瀬那先輩、俺にお礼も言わずに出て行ったな……。
まあ、幼馴染みだからっていうのもあるから仕方がないか。
とりあえず、今は片付けに専念にしよう。
俺達は黙々と片付けを続け何とか下校時間に間に合った。
まあ、五日前はこんな感じだ。さて、問題はその翌日からだ。




