第十二話『笑顔をみるために』7
5月13日。神の作り手第四支部七瀬グループとの事件が終わりを告げた。
現在、七瀬グループは解散の方向に向かっているらしい。今回の全責任は七瀬グループリーダーの七瀬博が取ることとなった。
なお、他の支部は今回の事件に対して認知していなかったと口をそろえて言い、七瀬グループ以外はどの支部も解散はしなかった。
俺としては納得いかないところもあるが、とりあえず事件が終わったことにまずは喜び、その他の件は我慢しておくことにしよう。
その事件から二日が立った今日。
俺、柊、七瀬、瀬那生徒会長は学園の近くにある国立病院に来ている。
もちろん、来た理由は今日伊吹と瀬那先輩の退院の日だからだ。
「お~い、伊吹!! 瀬那先輩!!」
フロント前で伊吹と瀬那先輩が一緒に会話をしている姿を見つけたので俺は声をかけた。
俺の声に気が付いた伊吹と瀬那先輩は俺達のもとへ歩み寄ってきた。
「司、会いたかったよ!!」
「ああ、俺もだよ。瀬那先輩も元気そうで何よりです」
「おかげさまでな。まったく、司はこういう時だけは気が利くよな」
「だけが余計ですよ、瀬那先輩。俺だってこういうのは慣れないんですから」
「まあ、確かに司はそういう奴だな。私が自信を持って言ってやる」
少し俺をからかうような表情で瀬那先輩は笑う。
伊吹もそれにつられるように笑顔を見せた。良かった、天使は健在だ。
それは置いておくにしてとにかく本当に二人とも元気そうで安心した。
俺としてはもう嬉しい限りだ。
「司以外にも姉さん、柊、七瀬。お見舞いに来てくれてありがとうな」
「いえ、私は当たり前のことをしただけですよ」
「私は真央ちゃんの笑顔を見れて幸せだよ。じゃあ、退院記念に私がキスをしてあげようか~?」
「いい、遠慮する。って、顔を近づけてくるな!!」
「もう、照れ屋さんなんだから~。まあ、そこが可愛いだけどもね」
相変わらず瀬那生徒会長に瀬那先輩は振り回されている。
でも、楽しそうに見えるのは気のせいだろうか。内心、瀬那先輩もみんなと再会出来て嬉しいのだろう。
もちろん俺も瀬那先輩とまた会えて嬉しい。
俺達は気が付けばほとんどが笑顔になっていた。
ただ、一人七瀬だけはまだ罪悪感が残っているらしくあまり笑顔になっていない。
「ん? 七瀬、ひょっとしてまだ気にしているのか?」
瀬那先輩も七瀬の様子に気が付いたのだろうか。少し気を使いつつも瀬那先輩は七瀬に尋ねた。
とはいえ、瀬那先輩はほとんど自然体で話している。
逆に七瀬は自分のことを聞かれ少し動揺している。
「えっ!? ……はい、まだ……」
七瀬は申し訳なさそうに答える。
「まったく、そんなことはもう気にしなくていいのに。私は別にあの時のことはもう何も思っていないよ。それにあれはお前自身が仕掛けたわけじゃないだろう? なら、私が七瀬を怒る理由なんてないだろう」
「ですが……」
「いいって。確かに罪悪感を覚えるのは仕方がないことだろうが……それでも七瀬は司達を助けてくれたじゃないか。私はむしろ感謝しているよ。ありがとう、七瀬」
「僕もだよ、七瀬さん。僕も本当に感謝しているよ」
「瀬那先輩……それに伊吹君も……そうですか。分かりました。でも、謝罪だけはさせてください。本当にごめんなさい」
七瀬はようやく肩の荷が下りて笑顔を見せた。
その様子を見た瀬那先輩と伊吹は笑顔を返した。
「ああ、構わないさ」
「僕もいいよ」
「本当に二人とも退院して良かったです。あの、お願いがあるんですけど……いいですか?」
「いいぞ、言ってみろ」
「これからも司君のチームの元にいてもいいですか……?」
「そんなこと、聞かなくても分かるだろう? なあ、司」
瀬那先輩は嬉しそうに俺に質問を渡した。
ああ、そうだ。答えは決まっている。
柊も頷いている。
「もちろん、大丈夫に決まってるだろ。七瀬は俺達の仲間なんだからな」
「司君……」
「私も司と同じ意見だわ」
「僕も」
「柊さんに、伊吹君も……」
「ということだ。私ももちろんというかぜひ七瀬には私達のチームで貢献してほしいと思ってる。だから、よろしくな」
「はい、本当にありがとうございます!!」
七瀬はようやく女の子らしい愛らしくて美しい笑顔を俺達に向けた。
そう、七瀬。それでいいんだ。
ようやくしっかりと心から笑ってくれたな……。
七瀬は本当にいい女の子だ。俺は心の底からそう思った。
「さて、無事に全て終わったことだし学園に戻らないとな」
そういえばそうだったな。
まだ、午前11時過ぎだ。午後の授業には間に合うだろう。
さっさと移動するから。
「じゃあ、行きますか」
「ああ、そうだな。午後の授業までサボるのは私風紀委員長が許さないからな」
「あら、意外と風紀委員らしい言葉が出たわね、真央ちゃん」
「いつも出ているわ!! 姉さんは一々余計だよ」
みんな、楽しそうに笑っている。
俺も本当にこれが一番好きだ。こういうのを求めていた。
別に平和を求めているわけじゃない。
ただ、俺は見たいんだ、触れていたいんだ、今の日常を。
それだけで俺は満足だ。これ以上もこれ以下もない。
俺が戦うのはこの為だ。
くだらないかもしれないけれど、俺にとっては大切な理由だ。
「もういい!! さっさと行くぞ、みんな」
「ああ、真央ちゃん!! もう、先に行かないでよ~」
瀬那先輩が拗ねたように先に病院から出て行ってしまった。
その後を追いかけるように瀬那生徒会長も走って外に出た。
「さて、私達もいくわよ」
「そうだね」
そう言って、柊と伊吹も通学路に向かって歩き出した。
残ったのは俺と七瀬だ。
「俺達も行くか、七瀬」
「あの、司君?」
「うん、な――」
俺の言葉は途中で遮られた。
今、動揺と驚きしかない。
なぜなら、七瀬は……七瀬は……俺の頬に……キスをしたからだ。
「私の気持ち、もう分かりますよね」
俺は正直動揺を隠せなかった。
「……まっまっまあな!!」
「ふふっ。私、問題児が好きですから」
最後に小悪魔のような笑みを浮かべながら俺の前から立ち去った。
何だ、これ。
俺は頬に残る温かみを感じながらそっと病院を後にした。
これは、俺の日常なのだろうか……? そんな思いを抱きながら今日一日ぎこちなく過ごした。
これで第十二話は終了です。次回は第二章最後エピローグです。ここまで読み続けていただいた方々、本当にありがとうございました!! これからもこの小説をよろしくお願いします!!




